最近人気の記事

2017年3月16日木曜日

論文紹介 民主主義は持久戦より引き分けを選ぶ

19世紀、イギリス議会ウェストミンスターの様子
戦争の勝敗を決めるのは武力だけではありません。人口、地理、経済などさまざまな要因が戦争の結果を左右すると考えられており、政治体制もまたそうした一因と考えられています。
今回は、民主主義という政治体制が戦争の遂行において有利に働くのか、不利に働くのかを実証的に研究した論文を取り上げ、その成果の一部を紹介したいと思います。

文献情報
Bennett, D. S., and Stam, A. C. 1998. "The Declining Advantages of Democracy: A Combined Model of War Outcomes and Duration," Journal of Conflict Resolution, 42(3): 344-366.

民主主義で戦争指導ができるのか
リンカーン大統領の就任演説時の写真
民主主義国家では権力掌握と政策決定のために多数派の支持基盤を獲得することが政治家に求められます。
平時においては、常に多数派の利害を考慮させることで、政治家の行動を統制しやすくなるため、国民全体にとって民主主義は望ましい統治制度だと考えることができます。

しかし、戦争状態という国家的非常事態において民主主義が望ましいと言えるのかどうかは議論が分かれるところです。なぜなら、政治家の戦争指導が選挙や世論に絶えず左右されていては、その政権の政策や戦略に一貫性と整合性を保つことが難しくなる場合が出てくるためです。
こうした戦時の民主主義が持つ政治的不安定性は過去の研究においても指摘してきたことだと著者も述べています(Bennett and Stam 1998: 346)。
つまり、民主主義国家の政治指導者は選挙という懲罰のメカニズムに敏感に反応しなければならないので、そうした意味では権威主義的、独裁的な政治体制の国家の方が戦争指導の一貫性という意味では優位に立てる可能性があると考えられるでしょう(Ibid.)。

しかし、この議論はこれだけでは終わりません。
というのも、戦争の歴史を振り返ると、独裁的な国家は確かに民主主義国家よりも戦争を容易に開戦する傾向が強いのですが、勝利を収める確率を見ると、それは民主主義国家よりも低くなる傾向が見られるのです(Ibid.)。
つまり、民主主義国家は戦争を遂行する能力という点で見ると、独裁的な政治体制よりも優れている傾向が認められるのです。
これは先ほど述べた民主主義体制における戦争指導の難しさと相反するのではないでしょうか。これがこの論文で著者らが取り組んでいる問題です。

時間経過が民主的戦争指導に与える影響
第一次世界大戦におけるドイツ革命によりドイツ帝政は崩壊
民主主義国家では政権運営に大きな支持基盤を必要とするため、戦争指導に不安定性が生じざるを得ない傾向があり、同時にいったん開戦すれば非民主主義の国家よりも戦争を効率的に遂行する傾向があります。
このような二面性を説明するために、著者らは民主主義国家が世論の反発が高まる前に短期決戦で戦争を終結に導こうとする傾向があるのではないかと考えました(Ibid.)。
つまり、民主主義国家はその有権者をより効率的に戦争努力のために組織化することができますが、政策決定者はそのような戦争努力が決して長続きしないことを自覚しているので、戦争が長期化して世論の反発が強まる前に、戦争目的を達成しようとすると説明しているのです。

著者らはこの主張を裏付けるために、一組の交戦国(戦争を開始する攻撃者と戦争を仕掛けられる防御者)を分析単位とし、1年単位で戦争が継続するのか、引き分けるのか、攻撃者と防御者どちらかの勝利に終わったのか、それがどのような要因と関連していたのかを統計的に調査しています。
方法論やデータの詳細については論文を直接参照して頂くとして、解析の結果から導き出される考察だけ紹介すると、民主主義国家の戦争努力が継続する確率は2年がピークであり、それ以降は急激に減少していくと指摘がなされています。
「解析の結果は一般的に時間経過とともに民主主義国家の攻撃者が戦争を継続する可能性がより低く、勝利を収める可能性も低くなり、そして引き分けを受け入れる可能性が高くなるということを示している。民主主義の攻撃者は戦争の最初の一年後も戦い続ける確率は32%である。戦争が二年目に入った後、この確率は46%に若干増加する。しかし、この時点から、民主的な攻撃者が戦争を継続する確率は、4年目に29%、5年目に22%と大幅に低下していく。そして民主主義国家が戦争に勝つ可能性も、最初の一年では49%だったのが5年間戦争が続いた場合には6%にまで大幅に低下する。興味深いことだが、民主主義の可能性も同様に時間経過とともに低下していく」(Ibid.: 361)
著者らは戦争の継続または勝利が困難になるほど、引き分けに持ち込む確率が上昇するとも指摘しており、「戦争の最初の1年間で約2%である。しかし、この確率は2年目では15%であり、4年目に達する前には50%を超える。5年目まで戦っている民主主義の攻撃者なら、戦争終結の確率は70%に達する」と述べています(Ibid.: 362)。

この解析結果で興味深いのは、民主主義国家と非民主主義国家の勝率が時間経過でどのように変化していくのかを比較している部分です。
簡単に重要な数値をいくつか紹介すると、戦争の1年目で民主主義国家の勝率が49%であるのに対して非民主主義国家の勝率が32%と当初は民主主義国家が優勢なのですが、それを過ぎてしまうと民主主義国家は19%、10%、7%、6%と勝率が低下し続けるのに対して、非民主主義国家は27%、26%、26%、25%と、時間経過によって勝率がほとんど変化しておらず、一定の勝率を維持することです(Ibid.: 363)。

このことから、民主主義国家は非民主主義国家よりも戦争を効率的に遂行できる能力を一般的に持っていますが、その戦争努力を長期間にわたって維持することが難しい政治体制でもあると考えられるのです。

民主主義国家の戦争努力は長続きしにくい
ベトナム戦争における反戦運動の集会
政策決定者は戦時の政策決定において我が方の政治体制がどれほど民主的なのかによって、戦争努力を維持できる時間的制約が大きく異なってくるということを知っておくべきでしょう。

当初は積極的に戦争努力に協力していたとしても、過去の傾向から見ると有権者は2年を過ぎると戦争の継続に反対する傾向を強めてきます。これは非民主主義国家にはない制約であるため、もし非民主主義国家を相手に民主主義国家が持久戦を遂行しようとすると、どれほど軍事力で優位に立っていたとしても、国内政治において不利な状況に立たされてしまう恐れがあります(Ibid.)。
「民主主義者は、勝つことができる戦争だけでなく、すぐに勝つことができる戦争を始めることを選ぶ。(中略)民主主義国家は一般的に戦争に巻き込まれても、すぐに勝利を収めることができる。しかし、民主主義国家は、すぐに勝利できなければ、引き分けになってしまう可能性が非常に高くなるという大きなリスクに直面する。これらの結果は、戦争を仕掛けた民主主義国家と戦争を仕掛けられた民主主義国家の両方に対して確認することができた」(Ibid.)
政治体制によって有利な戦争の様相がそれぞれ異なることを理解しておけば、戦時の政策と戦略上の優先順位をより明確にすることができるでしょう。
独裁制の下で戦争を指導する権力者であれば、戦争の長期化はさほど問題ではありませんが、民主制の政治家であれば、それは何よりも避けるべき事態なのです。
戦争が長期化しそうであるなら、可能な限り早い段階で引き分けを受け入れる方が政治的には賢明な判断である場合が多いと言えるでしょう。

むすびにかえて
もちろん、民主主義国家でありながら長期間の戦争を遂行した例外的な事例もあるので、この研究の成果が個別の状況にすべて一律に適用できるというわけではありません。
第二次世界大戦におけるローズヴェルトやチャーチルの政権がやって見せたように、民主主義体制を維持しながら期限付き、条件付きの独裁を導入する場合もあるためです。これはまた個別に検討すべきケースでしょう。
あくまでもこの研究は統計的に見て民主主義国家が戦争指導の問題でどのような傾向を持つのかを解明しようとしたものだと理解すべきだと思います。

KT

関連記事
論文紹介 ペロポネソス戦争におけるアテナイの戦略とその敗因
モーゲンソーが考える国力の九要素
事例研究 戦間期にイギリスが軍事的脅威を見逃した理由

0 件のコメント:

コメントを投稿