最近人気の記事

2017年2月24日金曜日

狙撃手にも独自の戦術運用がある

狙撃手の主な任務は監視と狙撃にありますが、戦術上の役割がどのようなものかは理解しずらいところがあります。

広い視野で捉えれば、狙撃手は小銃手や機関銃手、迫撃砲手のように重要な歩兵部隊の一要素に位置付けられます。

しかし、狙撃手の戦術的運用は通常の歩兵部隊と大きく異なることは確かなので、その特性について知らなければなりません。

今回は、米陸軍の野戦教範に沿って狙撃手の戦術的運用について紹介してみたいと思います。

狙撃手の役割
通常、狙撃手は分隊、小隊、中隊に配属されることはあまりなく、大隊レベル以上の部隊で運用されています。

戦術上の機能は大きく分けて二つあり、一つは敵部隊が持つ小銃や機関銃のような小火器の射程外から重要な目標を殺傷、破壊すること、もう一つは味方が持つ他の武器体系を使用することが難しい場合に目標を殺傷、破壊することです。
「狙撃手と観測手は、歩兵中隊の作戦において重要な役割を果たす。狙撃手は大隊レベルよりも下位の部隊では滅多に配属されることがないため、それぞれの歩兵分隊は選抜射手を有している。部隊の狙撃手は部隊の編成表において認められた配置を介して配属される。高度に訓練された狙撃手は、正確性と差別性に富んだ長射程の小火器火力を指揮官に与え、緊要地形と接近経路を直接観察できる。狙撃手の射撃または長射程の精密射撃を最もよく使う二つの方法は、集団的に使われる小銃または自動火器の射程外から重要な目標を狙うこと、または射程、規模、位置、可視性、警戒、ステルス性能のために、その他の武器体系で破壊できない目標を狙うことである」(FM 3-21.8: E1)
その武器の特性として、狙撃手は多数の目標を短期間で撃破するような射撃ができません。

しかし、他の火力にはない大きな心理的影響を与えることができ、敵の活動を中断させ、士気低下を引き起こし、混乱を拡大させることも可能です。
「狙撃手の戦術、戦技、要領は重要かつ詳細な敵情を直接収集し、中継することを可能にする。狙撃手の有効性は、死傷者または破壊された目標以外のもので測定される。指揮官は、狙撃手が敵の活動、士気、決心に対しても影響を与えることを知っている。狙撃手が存在することが分かると、敵の移動が妨げられ、混乱が発生し、個人的な恐怖が続く。また、敵の作戦と準備を中断し、狙撃手に対処するために戦力を転用することを余儀なくされる」(Ibid.)
まとめると、狙撃手の基本的な役割は、偽装された位置から精密な射撃を行うことによって、味方の部隊の戦闘行動を支援することにあります。

警戒に当たっている敵の歩哨、指揮所に出入りする士官、車両の運転手に正確な射撃を次々と加え、また敵の狙撃手を排除することによって、味方の戦闘力の発揮をより容易にすることができるのです。

狙撃班とその警戒部隊について
米陸軍において狙撃手は3名から2名で編成される班で行動する場合が多いとされています(Ibid.)。

これは狙撃手一人だけでは、射撃の際に周囲を警戒し、射距離や弾着の観測をすることができないためです。

分隊選抜射手の運用についても簡単に言及しておくと、教範では選抜射手は狙撃手ではないと念入りに指摘されています。

なぜなら、選抜射手は狙撃手と同等の能力を発揮することが滅多にないので、狙撃手に準じた運用は避ける必要があるためです(Ibid.)。

狙撃班の運用について説明すると、これも部隊から完全に独立して行動するわけではありません。

分隊または小隊規模の警戒部隊とともに行動し、警戒部隊は狙撃中の狙撃班を守るように展開しなければならないのです(Ibid.: E2)。

この際に、狙撃班の班長が警戒部隊を同時に率いることで、指揮の統一を図ると教範では述べられています(Ibid.)。

しかし、狙撃はおよそ800mから1000mの射距離で実施されることが多いので、小隊規模の警戒部隊が果たして必要なのか疑問に思われる方もいるかもしれません(Ibid.)。

確かに、狙撃手は戦闘に直接参加することは避けるべきなので、小隊に狙撃班を守らせるようなことが常に重要というわけではないのですが、状況によっては目標から300mの距離で狙撃を行う場合もある点に留意しなければなりません(Ibid.)。

また、狙撃の成功で最も大事なことは、狙撃手が万全な態勢で射撃を行うことに他なりません。

射撃の正確性を低下させるような要因、例えば長時間の監視による射手の目や筋肉の疲労はできるだけ抑制できるよう指揮官は配慮する必要があります。

そのためには、警戒部隊を使って狙撃班、そして狙撃手の負担軽減に努めることは、決して戦術的に不合理なことではないのです。

さまざまな状況で活躍できる狙撃手
ここでは具体的状況で狙撃手がどのような役割を果たすことができるのかを戦術の観点から説明しましょう。

特に陣地攻撃における狙撃手と、陣地防御における狙撃手の運用について述べています。

要塞に対する陣地攻撃での狙撃
「狙撃手の精密な射撃能力と観測能力は、要塞地域を強襲する上で非常に有用である。高性能な小銃は、肉眼で見えない隠れた目標を容易に発見し、破壊できる。要塞に突撃する間の狙撃手の役割とは、監視所、暴露した人員、銃眼、通気口、出入口に精密な射撃を加えることである。指揮官は、狙撃兵が目標を破壊する順序を計画しておく。相互に支援するための敵陣地の能力を損なうことによって、敵の防御を系統的に弱体化させるべきである。敵の陣地が一旦分離されたなら、敵の防御をさらに簡単に弱体化できる。指揮官は敵の要塞陣地にどこから侵入するのかを決定し、それらの地点に対して狙撃手を配置する必要がある」(Ibid.: E5)
通常、陣地攻撃で敵の防御施設を破壊する役割を担うのは砲兵部隊と考えられています。

しかし、砲兵の突撃支援射撃はあまりにも威力が大きいため、味方を巻き添えにしないように突撃開始前には停止してしまいます。

狙撃手は歩兵が突撃している間も精密な射撃で支援が可能なため、指揮官はこの火力を突撃の方向に集中することにより、突破口を作りやすくできます。

また、歩兵にとって大きな脅威となる敵の機関銃手を排除できるだけでなく、味方の戦車や車両を狙う対戦車ミサイルのような脅威にも柔軟に対処できます。

こうして敵の動きによって自在に目標を選択できることは、突撃の支援として大きな意味を持っていると言えます。

陣地防御における狙撃手の運用
「狙撃手は、一般的に味方の防御陣地に向かう一つ以上の接近経路を観測または支配できる場所に配置される。狙撃手の運用は全方位の警戒を可能にし、指揮官は最も可能性の高い敵の接近経路に対して我の戦闘力を集中できる。狙撃手は高性能照準具を使用することによって、大隊に目標の報告と精密かつ遠距離の目標に対する射撃を行い、他の武器体系の射撃を補完することで、大隊を支援できる。 この配置は、部隊の武器体系が持つ効率性を向上させる。戦力節約の役割において狙撃手は、部隊の陣地に向かう接近経路上において下車した敵を狙うことが可能である」(Ibid.: E5-E6)
もし指揮官が複数の狙撃班を使用できる場合、防御陣地の前方にある接近経路を見渡せるように配置することが重要ですが、それぞれの配置に縦深を持たせておくことも有効な戦術と考えられます。

そうすれば、敵が味方の防御陣地に到達してしまい、突破口を開いて前進してきたとしても、後方に配置しておいた狙撃手で敵部隊を捕捉し、逆襲することができます。

防御陣地を構成する方法は地形によってさまざまですので、狙撃班の配置もそれに応じて変化するとしかいえませんが、例えば渡河点となるような川の浅瀬、橋梁のような緊要地形を見渡せる配置や、防御で特に重視している拠点への配置は一般的に有効といえます(Ibid.)。

ただし、火力発揮のことばかりでなく、狙撃班の安全が十分に確保できる場所を選ぶという原則を忘れないようにしなければならないでしょう。

むすびにかえて
一般的なイメージとして狙撃手は軍隊の中でも少し独立した運用がなされていると思われがちですが、戦術の観点から見て狙撃手はそもそも狙撃班の中の一員として運用されており、この狙撃班を守るために警戒部隊が運用されるということが分かったと思います。

また狙撃班の運用の仕方が攻撃の場合と防御の場合とでいろいろと変化してくることも紹介しました。

今回の記事では触れませんでしたが、狙撃手は治安維持や対ゲリラ作戦のような任務を遂行する際にも有効な兵力と考えられています。

小銃手や機関銃手の射撃よりも、正確に目標を捉えることができるので、交戦状態になった際に無関係な市民を巻き添えにする危険が小さいことがその理由です。

将来の戦争がますます不正規戦争の様相を呈してくるなら、狙撃手の運用は戦術の研究課題としてますます重要になってくるでしょう。

KT

関連記事
論文紹介 陣地攻撃の損害をいかに抑制するか
接近経路で分類できる防御陣地

参考文献
U.S. Department of the Army. 2007. Field Manual 3-21.8: The Infantry Rifle Platoon and Squad, Washington, D.C.: U.S. Department of the Army.

0 件のコメント:

コメントを投稿