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2017年1月4日水曜日

軍事学を学びたい人のための文献案内(2)教科書

この記事はシリーズ「軍事学を学びたい人のための文献案内」の第二回です。今回は、前回の記事に引き続き、軍事学を学ぶ際に役立つ教科書について紹介しています。
世界的に見れば軍事学の教科書はこれまでにも数多く書かれているため、読者は自分自身の関心や知識の水準に応じて教科書を選択することができますが、日本国内に限定すると依然として選択肢が多くありません。ここでは入門者を想定した軍事学の教科書として、日本語で読める文献3冊と英語で読める文献2冊をそれぞれ選び出し、合計5冊を紹介することにしました。

防衛大学校・防衛学研究会編『軍事学入門』かや書房、1999年
利点:軍事力とは何か、というテーマを中心に据えた学部生向けの教科書であり、陸海空ごとの特質や、ミサイル、大量破壊兵器、後方支援などの問題にも各章が割り振られており、参考文献のリストも含めて系統的な学習に役立つ
欠点:全般として学習者への教育的配慮が乏しく、要点の整理、図表の解説、用語の定義、演習問題などが欠けているため、独学の場合には参考書や辞典類で知識を補うことが必要な場合が多く、また脚注も少ない

Baylis, John, James J. Wirtz, and Colin S. Gray, eds. Strategy in the Contemporary World: An Introduction to Strategic Studies. Third Edition. Oxford University Press.(邦訳、ジョン・ベイリス、ジェームズ・ウィルツ、コリン・グレイ編、石津朋之監訳『戦略論 現代世界の軍事と戦争』勁草書房、2012年)
利点:特に戦略学の分野では最も有名な教科書の一つであり、ナポレオン、クラウゼヴィッツ、ジョミニの戦略思想から、現代の核戦略やテロリズムの問題に至るまで、戦略を研究する上での重要なテーマについての包括的な解説を読むことができる
欠点:原著は19章で構成されているにもかかわらず、邦訳は第8章までしか翻訳されておらず、しかも結論に当たる最も重要な第19章について一切触れられていない上、原著では各章の末で示されている学習すべき文献の一覧とウェブサイトのリンクが削除され、その代わりに訳者による文献一覧が代わりに付与されている

西村繁樹編著『「戦略」の強化書』芙蓉書房出版、2009年
利点:防衛大学校における戦略学の教材として編纂された教科書であり、孫子やクラウゼヴィッツなどの戦略思想の解説も含まれるが、抽象的な理論の解説というよりも、古代から現代まで具体的な状況で生じる戦略問題に対する解決策を見出す能力を養うことが重視されている
欠点:教材としての性格上、それぞれの戦略思想家の学説が簡略化、単純化されてしまっており、その細かな内容について問題が残るだけでなく、問題として取り扱われている各状況の特質に関する説明やその解決策として紹介されている戦略の解釈に議論の余地が残される

松村劭『戦術と指揮 命令の与え方・集団の動かし方』文藝春秋、1995年
利点:戦術学の基本概念を学べるだけでなく、図上戦術の要領でさまざまな演習問題が出題されており、読者が主体的に答案を作成し、研究することを通じて、戦術的思考を実際に習得することができるようになっている
欠点:内容が学部生レベルよりもやや初歩的であり、また陸上部隊の運用だけを検討しているため、海上部隊や航空部隊の運用については別の文献を参照する必要があるにもかかわらず、文献や論文の一覧が示されていない


Dunnigan, James F. 2003. How to Make War: A Comprehensive Guide to Modern Warfare in the Twenty-First Century. Forth Edition. New York: William Morrow Paperbacks.(邦訳、ジェイムズ・ダニガン『新・戦争のテクノロジー』岡芳輝訳、河出書房新社、1992年)
利点:さまざまな定量的データが紹介されている点が特徴であり、射撃速度や射程、殺傷範囲などの武器の性能から、戦闘における兵士の損耗率や1個師団を維持するために必要な財政的負担などが数字に基づいて解説されている
欠点:オペレーションズ・リサーチや統計的研究の成果を反映した内容になっているが、出典が明らかにされていないため、その根拠を調べることができない。また邦訳は1992年に出されているため、原著の最新版ではない点に注意が必要


Alger, John I. 1985. Definitions and Doctrine of the Military Art: Past and Present. (The West Point Military History Series) New Jersey: Avery Publishing Group.
利点:米陸軍士官候補生のための軍事史の教科書であり、軍事史の流れだけでなく、古代から現代にかけて開発、使用されてきた武器が図解で紹介されているため、装備に関する知識がない学習者にとって有用であり、また戦略・戦術の基本概念に関する解説も充実している
欠点:軍事史の解説でも戦略より戦術に関心が向けられている他、内容が一部古くなっている部分があるため、最新の装備の動向については別の文献に当たる必要があり、また簡略化のために各事項の説明は最小限の分量にまとめられている

Angstrom, Jan., and J. J. Widen. 2015. Contemporary Military Theory: The Dynamics of War. New York: Routledge.
利点:軍事理論の基本概念である戦争、戦略、作戦術、戦いの原則が解説されているだけでなく、陸上、海上、航空、統合作戦に関する解説や文献の紹介も充実しており、さらに結論で述べられている軍事理論の全体的展望も研究の出発点として参考になる
欠点:全体として学部生レベルよりも内容がやや発展的であり、また戦略、作戦の下位に位置付けられる戦術は検討の対象から除外されている点にも注意しなければならない

日本語で書かれた軍事学の教科書の問題は、その圧倒的多数が戦前のものであること、しかもその大半が軍人向けであることです。そのため、内容も戦術、教練、装備、法令などに偏っており、一般教養としての軍事知識の習得にはそぐわない場合がほとんどです。
今後、日本で軍事学の研究に対する関心を高めていくためには、多種多様な教科書が書かれる必要があるでしょうが、研究者の人口規模を考えた場合、この問題は依然として解決が難しいとも思われます。

いずれ、軍事学の研究で役立つ古典、参考書、地図類、ウェブサイトなどの紹介も執筆するかもしれませんが、とりあえずこのシリーズ記事はここで一旦区切り、また読者の皆様の反応次第で検討したいと思います。

KT

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