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2016年12月11日日曜日

優れた戦術には射撃計画が必要

戦術の要諦は、戦闘で部隊の戦闘力を最大限に発揮することにあります。戦闘力を構成する要素には人員、武器、装備等がありますが、その中でも特に中心的な位置を占めているのが火力(firepower)という要素です。したがって、戦術の問題とは、さまざまな任務、地形、敵情において、我の火力を敵に対して最も効率的な態勢で発揮する方法を探し出すことであるとも言えます。

今回は、火力の発揮を図る上で重要な射撃計画(fire planning)の概念や事例について米軍の教範の記述をもとに説明してみたいと思います。

射撃計画とは何か
米軍の教範によれば、射撃計画とは、「作戦構想の一段階を支援するために事前に準備された射撃で狙う目標を選択する一連の過程」と定義されます(FM 3-21.8: C-1)。

これは机に向かって緻密に行うような計画作業ばかりを指しているわけではありません。戦闘が始まれば現地の状況に応じて修正を加えていく性質の計画です。
より具体的な説明としては「小隊長・分隊長は任務を受領すると直ちに射撃計画の作成を始める。 戦闘が始まれば、射撃計画は作戦が完了するまで継続的に行われる。射撃計画の第一の目標は、小隊長・分隊長の作戦構想を最適な形で支援するために、火力を集中し、配分し、統制する方法を明らかにすることである」と記述されています(Ibid.)。

射撃計画では、その達成すべき目的を踏まえ、射撃目標、観測員、射手(砲手)の位置関係をどのように調整するかを考えなければなりません。誤解してはならないのは、射撃計画は必ずしも砲兵だけの問題というわけではなく、戦場で火力を運用する部隊にとって共通の問題であるということです。実際、射撃計画は射撃をどのように実施すべきかという問題に終始するものではなく、どのように戦闘を遂行しようとしているのかが問われることになります。どのような射撃計画を実施すべきかは指揮官の戦術によって変わってくるのです。

例えば、敵の陣地に対して突撃を行おうとする状況の場合、敵の陣地を最も効率的に破壊できる目標を中心に選ばなければなりません。しかし、敵が仕掛ける攻撃を防ごうとするのであれば、我の主抵抗線に沿って敵の移動を妨げるように射撃する必要があります。それ以外にも、敵の歩兵や戦車だけでなく、後方にいる敵の迫撃砲や榴弾砲の射撃陣地に砲弾を落下させることや、妨害を目的として敵の部隊に対して長期にわたり断続的に砲弾を落下させるような射撃をすることも考えられます。

射程に応じて武器を使いこなす
よい射撃計画を立案するためには、武器の射程について一定程度の知識が必要です。その威力が最大限に発揮できる射距離で目標を観測できるようにし、射撃陣地を準備しなければなりません。
もし防御の際に有効射程が大きい武器を多く使用できるなら、それだけ遠くに敵を捕捉して交戦できるように射撃陣地を準備すべきですし、反対に射程が短い武器しかないのであれば、敵をかなり引き付けた後に射撃を開始しなければなりません。
射程が異なる武器を計画的に使用することで、攻撃、前進する敵の部隊に対して効率的に損害を与えることが可能となる。図表は左の我の部隊に向かって右から前進する敵に対する防御を考える場合に、どのような武器をどのような射距離で使用するのかを示した一例。我の陣地から見て前方30mまでは小銃や機関銃等の小火器で対処するが、30mから300mまでの区域では攻撃機AC-130の105mm榴弾砲、81mm迫撃砲、105mm榴弾砲で対処し、さらに300mから600mの区域では120mm迫撃砲と155mm榴弾砲で対処することが記されている。
(Ibid.: C-4)
ここで理解を助けるための具体的な想定として、高地を占領する敵部隊に対して1個小隊で攻撃する状況を考えてみましょう。
小隊の攻撃を支援するために81mm迫撃砲、60mm迫撃砲を使用できるとします。81mm迫撃砲は230m先の目標に対して射撃可能ですが、60mm迫撃砲は175m先の目標に対してしか射撃できません。このような場合、小隊は当初は81mm迫撃砲の支援だけで敵前を前進しなければなりません。十分な火力がない状態で突撃すれば、小隊の損害は大きなものになる恐れがあります。

そこで小隊としては直ちに敵の陣地に対して突撃を仕掛けるのではなく、地形をよく偵察した上で、迫撃砲手が展開できる射撃陣地を見つけ出し、まず小隊の一部でこれを占領しなければなりません。その地点を確保できれば、60mm迫撃砲も小隊の突撃を支援することが可能になり、事後の突撃でも有利に立つことができます。
この想定はあくまでも一例ですが、武器の射程を知れば、その武器が戦場のどこに配置されるべきかを判断することが可能となり、また狙うべき目標も選びやすくなります。射撃計画は指揮官が考える戦術を具体化する上で重要な要素であり、火力の配分だけでなく、特に攻撃の場面では部隊の機動にも大きな影響を及ぼしてくるのです。

米軍の戦史で考える射撃計画の重要性
最後に沖縄戦でのある大隊が経験した交戦について紹介したいと思います。この交戦では射撃計画の適否が戦闘の結果に重大な影響を与えることが示唆されています。
「1945年5月14日、沖縄本島での戦役において3日間の激戦を行ったために、第77歩兵師団第305歩兵連隊の第1大隊の各中隊は小隊規模にまで人員が減少し、伍長や軍曹によって指揮されていた。これほどの損害にもかかわらず、大隊は前進を続けることを決めた。奇襲効果を狙って支援射撃をしないまま各中隊による払暁攻撃が実施された。小銃中隊は0800時に攻撃開始線(LD)を通過し、200ヤード(1ヤード=0.9144m、ここでは約182m相当)前進したところで敵からの射撃を受けた。奇襲それ自体は成功していたが、敵は直ちに態勢を立て直し、機関銃と迫撃砲によって攻撃部隊の前進を阻止し、火力優勢を獲得した。尾根にあった敵の2つの陣地は迫撃砲の射撃で破壊されたものの、中隊は依然として敵の射撃により無事に移動することは不可能だった。到達した地点から後退しないという決心に基づき、大隊長は81mm迫撃砲小隊に対して先行する中隊の正面に制圧射撃を実施するように命令した。中隊の前方わずか50ヤードに対する射撃が実施され、大隊長は部隊が前進するのに応じてるのを弾幕を前方に推進し続けた」(Ibid.: C-1)
射撃計画には本来であれば安全の確保という問題もあります。敵に対して武器を使用する場合でも、各種要因によって射撃目標から外れた地点に砲弾が落下するという事態が考えられますし、目標に砲弾が落下しても、我が方の人員や装備があまりに近接していると、損害が生じる危険もあります。
そのため、射撃計画では彼我の態勢から安全距離を確保できるように射撃目標を選ぶことにも着意しなければなりません。しかし、当時の大隊長は前進した中隊の状況が切迫しており、また何としても攻撃を成功させる必要があるとの判断から、十分な安全距離が確保できないことを承知の上で81mm迫撃砲による制圧射撃を決めたのです。
「大隊の迫撃砲小隊は先行している部隊に向かって前進した。小隊長は素早く目視による偵察を行い、2門の迫撃砲を使用することを決めた。この時、小隊長は中隊の前方およそ50ヤードに1門の迫撃砲を、中隊の前方およそ100ヤードに1門の迫撃砲をそれぞれ照準するように調整した。これは迫撃砲1門は射距離700、もう1門は射距離750で射ったということである。(中略)先行する中隊はやがて前進を再開し、迫撃砲の弾幕の後方を移動した。敵はその弾幕から逃れるために洞窟陣地へと後退し、そこで火炎放射器や梱包爆薬で一掃された。前進はゆっくりではあったが、着実に進められ、このようにして7カ所の洞窟陣地を奪取した。それぞれの迫撃砲は毎分約10発の速度で射撃された。若干の砲弾が部隊のおよそ25ヤード付近に落下し、3名の小銃手が負傷した」(Ibid.: C-1-C-2)
当時の迫撃砲手は味方のすぐ近くを射撃したために相当の緊張を強いられたことでしょうし、実際に3名の負傷者を出してしまいましたが、全体として見れば大隊長の射撃計画は評価すべきものでした。各中隊が小隊規模にまで縮小し、第一線で発揮できる火力は著しく制限されていたので、この交戦の際に迫撃砲小隊が果たした役割は極めて大きなものであっただろうと推察されます。

KT

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参考文献
U.S. Department of the Army. 2007. Field Manual 3-21.8: The Infantry Rifle Platoon and Squad, Washington, D.C.: U.S. Department of the Army.

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