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2016年11月18日金曜日

論文紹介 対テロ戦争でアメリカが採るべき戦略とは

2001年9月のアメリカ同時多発テロを受けて始まった対テロ戦争ですが、本格的なアメリカの軍事行動が始まったのは10月に中東のアフガニスタンへ侵攻してからのことです。

しかし2016年末にかけて事態は改善に向かっているとは言えません。これほど長期にわたって海外で戦い続けている事例はアメリカの歴史を振り返ってもなかったことです。

今回は、こうした状況の中で、アメリカがこれまで採用してきた戦略を基礎から見直し、どのような能力を軍事的に重視すべきなのか、改めて検討する必要があると論じた研究を取り上げたいと思います。

文献情報
West, Allen B. "The Future of Warfare against Islamic Jihadist: Engaging and Defeating Nonstate, Nonuniformed, Unlawful Enemy Combatants," Military Review, Vol. 96, No. 1(January-February 2016)pp. 39-44.

対テロ戦争における領域的支配の重要性

著者の情勢判断によれば、現在のアメリカが直面する脅威で最も深刻なのがISISをはじめとするイスラム聖戦主義者(jihadist)の勢力です。

この勢力は非国家主体ではありますが、その地域において政権を奪取することにより、領域的支配を伴う国家主体に発展する場合があります。

著者はアフガニスタンでアメリカが犯した間違いとは、この可能性を軽視したことにあったと指摘しています。
「米国の指導者は、国家を建設することを目的としてISISが領土を支配しようとしていることを、理解する必要がある。不幸なことに、タリバンが権力と領土を確保することを見過ごしたとき、我々がアフガニスタンで犯した大きな間違いが繰り返されている。タリバンの局地的な運動は、アルカイダとオサマ・ビンラディンの世界的な計画と連動していたのである。その結果として、野蛮な7世紀型の国家が確立されただけでなく、テロリストの活動を支援する卑劣なイデオロギーの輸出も実施されてしまった」(West 2016: 40)
このように、テロリスト集団が国家主体に変化する可能性から、著者はアメリカが対テロ戦争を効果的に遂行する上でも、領域的支配を確立するための軍事作戦が重視されなければならないという立場をとっています。

しかし、現在のアメリカの軍事行動には必ずしも一貫性がなく、戦略と戦術という異なるレベルの活動を協同させるべきだというのが著者の基本的な主張です(Ibid.)。

対テロ戦略のための戦略構想

アメリカ軍が採用すべき戦略について提唱されているのは、以下の4つの戦略です。
・敵の聖域の拒否
・敵の連絡線の阻止
・情報戦争の勝利
・敵の勢力圏の削減
著者がアメリカが最初に取り組むべき戦略としているのが、「敵聖域の拒否」ですが、これは決して特定の地域を部隊に占領させ続けるような戦略ではありません。

「我々の最大の利点は戦略的機動力である。国境や境界を尊重しない敵に戦いを挑むには、その機動力を活用しなければならない。我々はイスラム聖戦主義者の拠点に対して攻撃を加えなければならない」と論じられているように、あくまでも攻撃目標となるのは敵の勢力とされています(Ibid.: 41)。

国際テロリスト集団を相手にする作戦では戦域に含まれる地域を広く設定しなければなりません。

国際テロリスト集団を対象とする第二の戦略が敵の作戦線の阻止です。著者はこの論点について「我々は人員、物資、資源の流れを、交通網を発見、遮断することによって途絶させる必要がある。同盟国と協力し、ISISの運営の拠点となるシリアの指定地域など、指定された戦闘地域に入ろうとする聖戦主義者の動きを追跡する優れたシステムを開発する必要がある」と述べています。

あらゆる種類の部隊活動に兵站支援は欠かすことができないものであり、それはテロリスト集団であっても本質的に変化するものではありません。

第三の戦略として提案されているのは、情報戦略です。

著者はISISの情報戦略で最も重要なポイントは、戦場における勝利を記録し、それを宣伝していることだと指摘しています。ISISはこのような宣伝をソーシャル・ネットワークを通じて展開し、人的戦力の獲得に活用しています(Ibid.: 41-2)。

また著者は、先進国のメディア関係者が知らず知らずのうちに、ISISの情報戦略に利用されており、例えばアメリカ軍によって拘束されたISISの元戦闘員を捕虜として報道することも、その一例であると指摘しています。
「聖戦主義者の容疑者を「戦争捕虜」と呼ぶことは止めよう。彼らはそうではない。彼らは不法な敵の戦闘員であって、正当な権利、つまりジュネーブ条約の下で与えられた権利を有するものではない。情報戦争の重要な側面は、我々の優しさと慈悲は原則、価値観としていかなければならないが、これは敵にとって魅力的な弱点であることを示している」(Ibid.: 42)
第四の戦略は、敵の勢力圏を縮小させることであり、これは「敵の領土を縮小しなければならない」ということを意味しています(Ibid.)。

しかし、これは短期間で解決することが難しい問題です。アメリカは、イスラム過激派のイデオロギーの普及と拡散を効果的に阻止できていません。

これは国内においてイスラム教徒が社会的に抑圧されていることと関係しており、過激な思想の蔓延を助長する側面があると著者は率直に認めています(Ibid.)。

こうした問題に取り組むことによって、聖戦主義に関心を抱く人々を減らす努力を重ねれば、敵の勢力圏の拡大を阻止する上でも有効な手段となりえると考えられています。

前方展開部隊から戦力投射部隊への再編成

以上の戦略を遂行するためにアメリカ軍は戦力投射能力(power projection)を重視することが重要となります。

著者は「敵を知る」ことの重要性を説いた孫子の思想に言及し、敵の弱点を突くことができるような態勢をアメリカと同盟国の連係によって整えなければならないと述べています。
「孫子の「敵を知る」という箴言を遵守するには、どうすればよいのか。我々は、もはや国家建設の事業に没頭することはできない。その代わりに、我々は一つの戦場を超えた打撃作戦を同時に実施するように努力するべきである。これは、我々が冷戦時代のような前方展開部隊(forward-deployed force)の構造をとる代わりに、戦力投射部隊(power projection force)の方へ向かわなければならないことを意味する」(Ibid.: 42)
この考え方をとるならば、アメリカ軍は今後、大規模な部隊を海外拠点に駐留させるべきではないということになります(Ibid.: 42-43)。

小規模な部隊を編成しておき、それを世界各地に自在に展開できることがアメリカとして重視されることになります。
「旅団・連隊戦闘任務部隊(brigade/regimental combat task force)の編制を利用し、海兵空陸任務部隊(Marine Air Ground Task Force)は、戦力組成を展開するためのモデルになっている。キャンプ・レジューンの第2海兵遠征軍の士官だった私は、その編成の効力を理解するようになった。アメリカ陸軍は同様の類型の組織に移行する必要がある。既存の編制を見直し、これまでとは違う方法で考える時が来ている」(Ibid.: 43)
ここで言及されている海兵空陸任務部隊は、諸兵科連合に基づく海兵隊の任務部隊です。その編制、装備、訓練、運用は特に機動展開の能力を発揮できるように考慮されているのですが、著者はこの方法をアメリカ軍の全体に広めることで、対テロ戦争に対応することを構想しているのです。

むすびにかえて
著者は対テロ戦争でアメリカ軍が苦境に立たされており、ベトナム戦争の歴史を繰り返すことを懸念しています。

そして、この状況を改善するには、アメリカ軍の戦略投射能力をますます強化し、敵である聖戦主義者の基地を攻撃し、兵站線を遮断し、情報戦略を見直し、さらに勢力圏を削減していくことが重要であるという考え方には納得できる部分もあります。

しかし、この研究が同時に示唆していることは、対テロ戦争に取り組むほど、アメリカ軍はヨーロッパや東アジアなどの地域で通常戦争を遂行する能力を確保しにくくなるということです。

前方展開能力から戦力投射能力への移行に関する著者の議論をそのまま実行に移せば、各地で同盟国の負担を増加させることに繋がる可能性がありますが、この研究ではほとんど考慮されていません。

国際テロリスト集団、特に武力闘争を掲げるイスラム過激派、聖戦主義者の活動がアメリカ国民の生命と財産を脅かしていることは確かです。

しかし、この問題にあまりに多くの政策手段を投入してしまうことになれば、ヨーロッパや東アジアにおける勢力関係に変化が生じ、長期的なアメリカの国益が損なわれる恐れがあることにも注意しなければなりません。

KT

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