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2016年8月14日日曜日

論文紹介 NATO加盟国は対テロ作戦で団結せよ

2015年11月にパリで起きたテロ事件、2015年と2016年にトルコで相次いだテロ事件を受けて、近年のヨーロッパ諸国ではテロリズムに対する脅威が強く認識されるようになっています。
大西洋条約機構(NATO)は対テロリズム作戦の態勢を強化し、これまで以上に域内の対内的安全保障に取り組み始めています。

今回は、このような取り組みにおいて多国間での特殊作戦部隊の連携を重視すべきと主張する研究を紹介したいと思います。

文献情報
Miller, Matthew E. "NATO Special Operations Forces, Counterterrorism and the Resurgence in Europe," Military Review, July-August 2016, pp. 55-60.

NATOは専門の対テロ部隊を必要としている
一般にNATOはヨーロッパの防衛の基盤として知られていますが、それは対外的な脅威を想定した組織であり、対内的な脅威は十分に考慮されてきませんでした。そのため、これまでのNATOで特殊作戦部隊は対テロ作戦を主な任務とされていません。著者はこのような現状では大規模なテロリズムの脅威に対処することは困難であるとして、次のように論じています。
「国際テロリストの脅威がNATO全体に及んでいることが明々白々であるにもかかわらず、政策の間違いか、現実からの逃避のいずれかかによって、対テロ作戦(counterterrorism)は未だにNATOの特殊作戦部隊の主要任務となっていない。その結果、公式に定められた対テロ任務を除けば、NATOの特殊作戦部隊は、いざ大規模なテロの危機が起きた際には、協調の問題に取り組むにはあまり効率的ではないやり方であるものの、公式もしくは非公式に加盟国の特殊作戦部隊の対テロ部隊に取って代わられることになるであろう。したがって、ISの急速な拡大とヨーロッパにおけるテロリズムの脅威の拡散という観点から、今こそNATOに対テロ任務を専門とする部隊を創設すべきである」(Miller 2016: 56)
歴史的に見れば、ヨーロッパ諸国では大規模なテロリズムが発生するごとに対テロ作戦の能力を強化してきました。しかし、それは各国が独自の取り組みに止まり、多国間の協調に基づくものではありませんでした。
1972年のミュンヘン五輪でパレスチナの武装勢力が起こした人質事件は最初の重要な契機として位置付けられています(Ibid.: 57)。この時の人質救出作戦の教訓を受けて、ドイツでは最初の対テロ部隊であるGSG-9が創設され(Ibid.: 57-58)、フランスでも国家憲兵隊治安介入部隊(GIGN)が設置されました(Ibid.: 58)。

しかし、ここに問題が生じてきました。ドイツの対テロ部隊は法執行機関の下に置かれたにもかかわらず、フランスの対テロ部隊は軍隊の下に置かれたのです。このことで、国内で軍隊が警察に代わって法執行に当たることを禁じている一部のNATO加盟国と、そうでない加盟国との間の連携を困難にしただけでなく、結果としてNATO全体の対テロ作戦の構想を発展させることが阻害されてしまいました(Ibid.)。
NATOで指導的立場にある米国も、NATOの戦力として対テロ部隊を充実させることはしておらず、これまで独自に軍隊と警察の両方で対テロ部隊を設置するという政策を採用しています。著者はこうした政策を全面的に見直すべきであり、NATOとして対テロ作戦で団結することを主張しています。

対テロ作戦を遂行できないNATOの教義
次に著者が論じているのは、NATOの特殊作戦部隊が対テロ作戦を効率的に遂行するために、対処のための要領について協調を図ることが重要である、ということです。
すでにNATOは特殊作戦部隊の教義として『特殊作戦のための連合統合教義(AJP 3.5: Allied Joint Doctrine for Special Operations)』を策定しており、そこでは軍事援助(military assistance)、特殊偵察(special reconnaissance)、直接行動(direct action)という3つの主要任務が定義されています(Ibid.: 59)。しかし、その文書では対テロ作戦に関する記述が非常に限られており、具体的な取り組みとして十分なものではありませんでした(Ibid.)。

その後、「対テロ作戦に関するNATOの政策方針(NATO's Policy Guideline on Counter-Terrorism)」も策定されていますが、加盟国同士が協力して事件に対応するという方針は退けられています(Ibid.)。やはりここでも対テロ作戦を遂行するための国家を超えた取り組みの必要性が軽視されたのです。NATOは特殊作戦の基本的な考え方として、高いリスクがあり、また特殊作戦の必要があり、隠密に行動すべき状況があれば、特殊作戦部隊を使用すべきであると定めています。
それにもかかわらず、対テロ作戦という個別の問題に対してNATOの特殊部隊の兵力を使用できないという現状は矛盾しており、是正すべきではないかとして、著者は次のように述べています。
「NATOの加盟国は圧倒的なテロの危機に帳面した際に支援となる単一の中央組織を必要としており、NATOの特殊作戦部隊こそがその組織になるべきである。また、NATOの特殊作戦部隊は自らの対テロ作戦能力を友好国の要望に合致するように適切に強化されなければならない」(Ibid.)
ヨーロッパという一つの地域で対テロ作戦を遂行するためには、結局のところ各国ごとの警察力、軍事力を組み合わせるだけでは不十分です。NATOの下にある特殊作戦部隊の体制を強化し、対テロ部隊としての機能を発展させれば、少なくとも安全保障の観点から見て、それが最も効率的なテロ対策となるのではないかと著者は考えています。

むすびにかえて
ヨーロッパ諸国が今後も単一の経済圏であり続けるためには、対外的安全保障だけでなく、対内的安全保障の体制を統一していくことはやむを得ないことであると思われます。人や物の移動が自由になるということは、それを利用した凶悪犯罪も可能となるのですから、これは安全保障の観点から見れば当然のことです。

しかし、そのためには、各国国内でそれぞれ異なる司法や法執行機関の制度や権限といった複雑な問題にまで踏み込んで国際協力を進めるという政策決定が下される必要があります。長い歴史と大きな多様性を持つヨーロッパ諸国がこうした決定を政治的に受け入れることはほとんど不可能に近いと言えるでしょう。これは国家の主権的権利と密接に結びついた問題であるためです。恐らくは、このNATOにおける対テロ作戦の問題は未解決のまま次の世代にも引き継がれるでしょうし、このNATOの安全保障体制の弱点は今後も狙われ続ける可能性が大きいと言わざるを得ないでしょう。

KT

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