最近人気の記事

2016年8月8日月曜日

時事評論 尖閣諸島、新たな段階に入る

現在、尖閣諸島をめぐる情勢が大きく動いており、非常に危険な事態になっています。
8月5日、尖閣諸島の周辺領海に中国の漁船と海警船舶が侵入したことが確認され、日本の外務省は中国の外交部に抗議を行いました。しかし、翌6日にも中国の漁船230隻(その後も増加)と海警船舶6隻は海域を航行しており、さらに海警船舶1隻が接続水域に侵入してきています。
その後も日本は中国に対して正式な抗議を行っていますが、8日現在の時点で状況が改善される見通しは立っていません。

このような情勢を踏まえ、(1)なぜ中国はこのような行動を取るのか、(2)日本はどのような戦略を取ることが可能なのか、以上の二点について安全保障学の視座から考えてみます。

なぜ中国はこのような行動とをとるのか
尖閣諸島は日本本土よりも中国本土に位置関係としては近いため、日本として防衛しにくい領土となる。
また尖閣諸島は中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略上も重要な陣地であり、攻略する価値が大きい。
いくつかの説明の仕方がありますが、ここでは戦略、特に抑止論の観点から説明したいと思います。
抑止とは、その行動を起こしたとしても予測される費用が予測される利益を上回ってしまうと相手に認識させる努力を自国が行うことによって、潜在的な攻撃を未然に防ぐことをいいます。
この概念を今回のケースに当てはめて考えると、中国が漁船、海警船舶を尖閣諸島に進入させた理由としては、その行動によって期待される費用を利益が上回ると中国が判断したためであり、言い換えれば日本の抑止力が中国に通用しなかったためと考えられます。

確かに日本には、25万名の戦力規模を持つ自衛隊(実勢力22万5000名)と、日米安全保障条約に基づいて駐留する在日米軍の部隊が存在しています。しかし、日本に確固とした防衛力があるからといって、それが自動的に対中抑止に繋がるわけではありません。
抑止が成り立つためには、「日本は中国に対して抵抗する能力だけでなく、抵抗する意思も兼ね備えている」と、中国側が判断していなければならないのです。
日本の防衛力がいくら優れていても、それを政府が実際に駆使して抵抗することは考えにくい、と中国が判断してしまえば、中国が行動を思いとどまる理由は消滅してしまいます。

日本はどのような戦略を取ることが可能なのか
2016年8月1日に撮影された東シナ海で訓練を行う東海艦隊の艦艇の様子。
8月8日現在の状況は不明だが、尖閣諸島の状況が変化した場合、これらの艦艇は現地に展開可能と推測される。
(Window on Chinese Armed Forces: http://english.chinamil.com.cn/)
現時点までの日本の対応を見ると、少なくとも表面的には、外交的圧力によって、尖閣諸島周辺の中国漁船や海警船舶を退去させようとしているようです。
自衛隊の部隊等を現地に派遣すれば、中国側としては行動をエスカレートさせる口実を与えることになりかねず、事態がより深刻化する危険があります。したがって、現在の日本の対応には二つの側面があります。

第一に、日本として中国との緊張状態をこれ以上悪化させることを阻止することが可能という側面があり、これは短期的観点から武力衝突を回避しようとする場合には望ましいことです。
第二に、日本は自国領土の防衛のためであれば、武力を用いてでも中国に抵抗する意思があることを理解させることが難しいという側面があり、これは長期的観点から日本の抑止力の実効性を確保しようとする場合には望ましいことではありません。

ここで生じて来るのが危機管理の問題です。もし中国が「日本の防衛力と安全保障体制が見かけだけのものであり、緊急事態が発生したとしても政府として強硬に抵抗するとは考えにくい」と考えて今回の行動に至ったのだとすれば、その認識は日本として是正させる必要があります。
しかし、外交的手段だけで中国が認識を改めないのであれば、どこかの段階で軍事的手段を用いた政府の対応が必要となり、それは中国軍の出動、そして地域紛争の勃発に繋がる恐れもあるのです。

結びにかえて
これからも予断を許さない状況がしばらく続くでしょう。日本は先ほど述べたようなジレンマに直面し、中国に対して決定的となるような対応を直ちに取ることは政治的に困難な状態です。
今回の事件で指摘すべき重要な事柄は少なくとも二つあります。第一に、中国は日本の防衛には限界があり、能力はともかく、それを実際に行使するという政治レベルの意思は十分強固ではないと判断している可能性があるということです。

第二に、今後の中国の行動によって、日本の尖閣諸島は海上封鎖されたということです。海上封鎖とは本来、海上兵力によって特定の海上交通を遮断するための戦略行動を言います。
これまで尖閣諸島関係のシナリオでは、フォークランド紛争の発端のように、民間人、そして軍人の上陸という状況が想定されていました。
今回の中国の行動で巧妙なのは、フォークランド紛争での部隊の上陸ほど強硬なものではないにもかかわらず、尖閣諸島を実効的に支配しているのは中国であると主張するための状況を作り上げた点です。

とはいえ、まだ中国がこの成果を確定できたわけではありません。日本の対応もこのままで終わるとは限りません。尖閣諸島の問題は中国の行動によって新たな段階に入りつつあります。したがって、日本としても新しい対応について検討することが必要となっています。

KT

関連記事
論文紹介 日本版A2/ADと日米共同作戦のあり方
論文紹介 沖縄に基地を置く軍事的理由