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2016年6月10日金曜日

論文紹介 沖縄に基地を置く軍事的理由

なぜ沖縄に米軍基地が集中しているのか、という疑問に端的に答えるならば、それは南西諸島が持つ戦略的価値が東アジア地域において極めて大きいためであると言えます。
しかし、より具体的にその理由を理解するためには、安全保障の観点から見て、その地域の特性がどのようなものであるのかを評価する必要があります。

今回は、日本の南西諸島にどのような戦略的価値があるのかを説明するため、マハンの戦略理論を適用して見せた米海軍大学校の研究論文を取り上げ、その内容を紹介したいと思います。

文献情報
Eric Sayers. 2013. "The "Consequent Interest" of Japan's Southwestern Islands: A Mahanian Appraisal of the Ryukyu Archipelago," Naval War College Review, 66(2): 45-61.

戦略とは政治的目的を達成するために軍事的手段をどのように運用するのかを指示する構想または計画を言います。つまり、ある地域において保持すべき戦略陣地はその国家が遂行しようとする政策によって変化する性質があるのです。

著者が紹介しているように、19世紀の海洋戦略の研究で権威とされるマハン(Alfred Thayer Mahan)は、かつて米国の安全保障に直接関係する海域としてメキシコ湾、カリブ海を取り上げ、その地理的環境について検討しました(Sayers 2013: 45)。
しかし、現代の米国が重視する海域は太平洋、インド洋であり、その大きな理由はやはり中国の政治的、軍事的な勢力拡大です(Ibid.)。
中国は海上戦力の整備を進めながら、海洋進出を活発化させており、日本の尖閣諸島に対して領有権を確立する動きも見せています。
日本の南西諸島の地図。第二次世界大戦以降、米国が沖縄を長らく占領統治してきたが、1972年に日本に返還。
九州の南端から台湾の北端にまで島嶼が分布しており、東シナ海とフィリピン海を隔てる位置にある。
(Ibid.: 48)
南西諸島は東シナ海とフィリピン海を隔てる島嶼群であり、その中央には沖縄諸島があり、その北東には奄美諸島等が、その南西には宮古列島等が位置しています。いずれも中国の勢力圏に近接していることが分かります。
先ほどのマハンの学説によれば、これらの島嶼の戦略的価値を判断する際には、第一にその島嶼が海上交通路に対して占める相対的な位置関係、第二にその島嶼を防衛する用意さ、そしてその島嶼に存在する資源の状況という三種類の基準が適用されなければなりません(Ibid.: 49)。

これらの基準を沖縄に当てはめて考えてみると、沖縄は中国がその海上戦力を東シナ海から進出させる際に使用する海上交通路を遮断できるだけでなく、他の作戦地域や軍事基地に移動する上で有利であることが分かります。
「沖縄:南西諸島で最大の面積と人口を持つ島嶼である沖縄諸島は中国沿岸部の側面にあり、日本列島から南西諸島、台湾、フィリピン、ボルネオから形成され、黄海、東シナ海、南シナ海を包括する『第一列島線』と一般に呼ばれている線を打破しようとする中国軍の野心にとっては天然の障害となっている。また沖縄は宮古海峡に戦略的に並ぶ位置にあり、ルソン海峡にも近い。もし過去10年以上にわたる中国の水上艦艇の活動が前兆であるならば、中国海軍は宮古海峡をより重視し、それは沖縄の重要性を増大させる。最後に、太平洋の米軍部隊にとって主要な軍事基地として沖縄は軍事力の防波堤であり、またグアム、朝鮮半島、南シナ海の間の中継地点でもある」(Ibid.: 50)
また著者は台湾有事が発生すれば、沖縄に配備した部隊を直ちに出動させることが可能となるため、米国の立場から見れば台湾防衛の上でも有利であると指摘されています(Ibid.)。
これらの事情を総合すれば、相対的な位置関係から見れば中国に対する戦略を遂行する上で沖縄には大きな価値があるという判断が導かれます。
1945年、沖縄戦に参加した米海軍の戦艦「アイダホ」の艦砲射撃。
連合軍は沖縄本島の攻略に先立ち、その周辺に位置する慶良間諸島等の島嶼を攻略し、そこに砲台を設置している。
次に島嶼の防衛と戦力の配備という観点から見てみます。
著者は1945年の沖縄戦で米軍が沖縄本島に着上陸するため、数多くの小島を攻略し、そこに砲兵部隊を配備しなければならなかったことを紹介しており、現代の日本も沖縄本島の防備を固めるために、沖縄本島の周辺に点在する小島を活用することが可能であると述べています(Ibid.: 51)。このことも沖縄本島の地理的な特性によって軍事的価値が高めています。

さらに現在では米軍と自衛隊の部隊が沖縄の防空態勢を担っており、機雷が敷設された場合に備えるため掃海艇も配備されています(Ibid.)。このことで、本土から増援が到着するまで抵抗することが期待できます。
それだけではなく、2012年の北朝鮮による弾道ミサイル発射を受けて、日本は宮古島、石垣島にミサイル部隊を配備し、また水上艦艇も活動も強化する方針を採用しました(Ibid.: 52)。
しかし、このような防衛努力は中国の立場から見てどのように映っているのでしょうか。

中国政府は自国の戦略における沖縄の位置付けについて明確なことを述べていませんが、著者はこれまでの中国の戦略に関する研究を踏まえ、中国が沖縄について二つの理由から攻略の対象とする可能性があると指摘しています。
「第一に、中国軍の海上管制と着上陸作戦に対抗するために使用され得る島嶼のような戦略陣地の能力を低下させることに中国は注意を払っており、これは『遠方における島嶼部の制圧』のための『これら島嶼部の防衛システムに打撃を与えることができる、沿岸に配備した火力、対地攻撃機、小型の水上艦艇』を必要とする。第二に、統合打撃の狙いは敵の『偵察及び早期警戒システム、指揮統制、海上・航空基地、兵站基地』を攻撃することにあり、それは『中国海軍の海上管制作戦に対抗する敵の能力を壊滅させる目的で行われる』と考えられる」(Ibid.: 55)
ここでは沖縄はその地理的環境によって武力紛争で中国海軍が保持すべき戦略陣地と見なさ得る可能性が示唆されています。さらに、日本は自らのシーレーンを中国軍から防衛するためにも、南西諸島を中国に明け渡すわけにはいかず、その企図を挫くために防衛力の整備と日米同盟の強化に取り組んでいることはよく知られています(Ibid.: 57-8)。
海洋戦略の特徴はその戦域が広大であるにもかかわらず、部隊が占領可能な戦略陣地の数が限られており、一つひとつの陣地が持つ価値が大きいことです。
この論文で示されていることは、日本と米国にとって中国の勢力拡大を防ぐ上で南西諸島を欠かすことができないこと、そして南西諸島の中央に位置する沖縄は中国の立場から見て有事には攻撃目標となり得ることです。

沖縄の基地問題は必ずしも軍事的必要性だけで片付けるわけにはいかない問題です。しかし、だからといって軍事的側面を軽視されてもよいわけではありません。
東アジア地域の戦略的均衡、米国による台湾や朝鮮半島の防衛、日本のシーレーンの保全など、沖縄の基地が果たしている機能は広範かつ重要なのです。

KT

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