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2016年3月28日月曜日

戦争で味方に休養を取らせるための戦術

戦術学において、宿営とは部隊がその戦闘力を回復もしくは充実させ、事後の行動を準備する目的で行進を停止し、長時間にわたって休養させている状態、またはその状態に至る行動をいいます。

宿営の基本的な分類は、既存の建物で行う宿営である「舎営」と野外で行う宿営である「野営」という二分法です。
しかし、後者の野営に関しては作戦天幕や携帯天幕などの装備品を展開し、部隊や装備を一時的に保護する簡易式の施設を構成する「幕営」と、それらを使用しない「露営」に細分化することもできます。
宿営の基本的な要領の多くは、趣味として広く知られているキャンプと本質的に同じですが、敵襲を想定して行う点が決定的に異なります。

今回は、戦術研究の観点から宿営を考える際に、どのような問題があるのかを説明してみたいと思います。

宿営地は本質的に野戦陣地でなければならない
ハイチで幕営を行っている米海軍の部隊。
長期にわたる作戦において宿営は重要な問題であり、特に戦時に行う宿営では兵站上の考慮だけでなく、戦術上の考慮も必要となる。
敵地に赴いた部隊をいかに安全に休養させるかという問題は、指揮官にとって切実な問題です。特に部隊の行進がもっぱら徒歩行進に頼っていた時代の戦争では、兵士が長い行進で疲れ果てると落伍してしまう恐れもあるため、戦場で本来の能力を発揮できなくなるためです。

そこで指揮官は行進の途中で宿営を実施し、戦場に到着する前に部隊の戦闘力が失われないように注意しなければなりません。
しかし、敵地を行進する味方の部隊は宿営している最中に敵の襲撃を受ける危険があります。夜襲を受けるようなことになれば、小規模な敵襲でも味方の部隊から大きな損害が出るかもしれません。
宿営地が全体として防御陣地となるように着意して構成することが指揮官に求められます。

政治学者であり、軍事学者でもあったマキアヴェリは、この問題を検討する際に、古代ローマ軍の宿営要領を紹介しています(マキアヴェリ「戦術論」233-43)。
ローマ軍を描いたレリーフ。規則的に並んでいる天幕を取り囲んで防壁が構築されている。
宿営地の防備を適切にするために野戦築城が必要なことは、いつの時代の戦場でも変わらない。
それによれば、ローマ軍は宿営地を基本的に方形に構成し地形に応じて東西南北に走る交通路と中央に集合場を準備していました。これは宿営地内部の空間を適切に区画し、緊急事態の際に部隊が速やかに戦闘陣形をとることができるようにするためのものです。

また、宿営地の四周には防壁を構築し、四方に出入口を置いて哨所を置きました。さらに防壁の外周にも乾壕、堆土、堡塁などで防備を整え、敵襲があっても短時間で宿営地にまで到達できないようにしていたのです。

敵襲に対応するため、宿営地は広く、長方形に構成する方が有利
実はマキアヴェリの著作では登場人物の一人が宿営の問題について「ちっとも面白くない」とぼやく場面があるのですが、これは宿営の戦術的問題を十分に理解していないためです。
宿営の問題は部隊の周囲を警戒を厳重にすればよいという単純な問題ではありません。なぜなら、警戒を厳重にするほど休養をとれる部隊は少なくなってしまうためです。
そもそも宿営の目的は休養をとって戦闘力を回復させることなのですから、連日にわたって厳重な警戒を敷くような画一的な対応では宿営の目的が達せられません。

指揮官は敵情を適切に判断し、いつ、どこで、どれほどの敵襲が起こり得るのかというリスクを見積り、その状況に応じた宿営の方法を選択できなければならないのです。これは戦術的な判断力を必要とする問題です。
宿営の際にとるべき部隊の配置のパターン。
敵襲のリスクが小さい場合の宿営は方形・円形に近い警戒線を構成すると、それだけ宿営地で休める部隊が多くなる利点がある。もし敵の襲撃が予想される場合には、警戒線を敵の方向に伸ばして方形にし、敵が接近する方向に強力な前哨を置くことで、最小限度の兵力のみ休養をとらせる処置をとるべきと考えられる。(筆者作成)
行進で作戦部隊は主隊を中心としながら前衛、側衛、後衛という警戒部隊が取り囲む陣形をとることが多いのですが、宿営地で警戒線を構成するのはこれら警戒部隊であり、作戦部隊の主力である主隊がそれらの中間で宿営を行います。
もし敵襲の恐れが小さい状況であれば、図で示したように円陣に近い宿営地を構成しますが、敵襲の恐れが大きい状況ならば敵に対して警戒部隊を前方に配置し、いち早く敵襲を察知するように努めます。

敵襲を早く察知するだけでなく、敵襲を食い止めるために前哨に配属する兵力を増強するなどの処置も同時に行います。
こうすれば休養をとっている主隊は警報を受けてから戦闘準備を整えるまでの時間的猶予を得ることが可能となります。

休養の重要性を戦術的に軽視すべきではない
攻勢作戦を行っている軍は行進するたびに疲労を蓄積させ、戦闘効率を低下させていきます。
最も重要な時期、場所で所望の戦闘力を発揮するためには、指揮官は宿営を適切に行うことが重要となります。しかし、敵は味方の宿営を妨害するために斥候による襲撃や住民を利用した工作を行う可能性も考えなければなりません。
しかし、だからといって警戒を万全にするばかりでは、味方は十分な休養をとることもできず、戦闘力は低下する一方です。
後方地域にまで引き下がらないと一切の休養がとれないという考え方は、敵国の領土で部隊が活動する際には現実的ではありません。状況によっては危険な場所でも休養をとっておく必要があることも十分に考えられるのです。

こうした状況において戦術の意義はリスクを一定の水準にコントロールすることにあります。
戦争でリスクがゼロになるということは決してありません。そのような不確実な状況で味方を休ませ、事後の行動の準備を行うために、戦術家はリスクを管理しながら任務を遂行しなければならないのです。

KT

参考文献
ニッコロ・マキアヴェリ『戦術論』浜田幸策訳、原書房、2010年

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