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2016年2月23日火曜日

文献紹介 世界戦争に周期性はあるのか

政治学者は、単に政治上の出来事を記すだけでなく、その背後にある原理、原則を解明することに関心を寄せてきましたが、その研究課題の一つに世界戦争の発生パターンの解明が含まれています。
そのパターンを知ることができれば、次に戦争が発生しやすい時期がいつ頃になるのかを予測することもできるようになるためです。

今回は、政治学者ジョージ・モデルスキーが提唱したことで有名な長期循環論を論じた著作を紹介してみたいと思います。

文献情報
Modelski, George. 1987. Long Cycles in Global Politics, London: Macmillan.(邦訳『世界システムの動態―世界政治の長期サイクル』浦野起央、信夫隆司訳、晃洋書房、1991年)

モデルスキーの長期循環論とは何か
長期循環論は、国際政治において世界規模で発生する戦争は100年から120年程度の周期性を持っているという政治学の学説です。

この学説の基礎にあるのは、世界平和を維持するために必要な国力を持つ大国が出現したとしても、その地位は永続的なものではないという前提です。
つまり、大国の優位は時間の経過によって徐々に失われていくため、次の世界の覇権国家の地位を狙う別の国家が出現することを防ぐことができなくなるのです。

長期循環のサイクル進行
長期循環は次のようなサイクルで進行します。
(1)国際システムはアナーキーつまり無政府状態であり、国家間で対立が発生しても、それを外交で解決することは難しく、究極的には武力を行使する必要が生じます。こうした国際情勢では戦争のような激しい政治的対立が多発することが避けられません。

(2)第二段階に入ると、激しい対立の中で勢力を拡大し続ける国家が出現し、そのような国家の勢力圏は地球規模にまで広がるようになります。
この段階に入れば、国際政治はより安定した局面を迎え、もし国家間の対立が生じたとしても、指導力を持つ国家の圧倒的な武力の下で各国の行動は統制されているため、外交によって問題を解決しやすく、国際平和も維持されやすくなります。

(3)この段階に入ると、国際社会の平和と安定を担ってきた世界国家が徐々に軍事的に衰退し始め、国際政治の秩序を維持すること以上に経済的利益を優先するようになります。
そうなると、その国家の指導的地位を受け入れていた他国は距離を置くようになり、独自の勢力を蓄えるようになります。平和を維持することは難しくなり、戦争が対外政策の主要な手段となります。

(4)最後の段階に入ると(1)の段階に戻ってきます。世界規模に勢力圏を保持していた指導国家は衰退し、国力を十分に蓄えた新たな挑戦者となる国家が台頭し、世界は再び戦争の時代を迎えることになります。
「歴史は繰り返す」という言葉をそのまま具体化した循環モデルといえるでしょう。

世界史の流れに長期循環論を当てはめると
このモデルの妥当性を検討するため、著者は過去500年間に見られる長期循環において覇権国家としての地位を築いた国家とそれに敵対した敵対した国家を考察しています。

(1)ポルトガル優位の時代(1518-1608)1494年から1517年までイタリアと競合
(2)オランダ優位の時代(1609-1713)1581年から1608年までスペインと競合
(3)イギリス優位の時代(1714-1815)1688年から1713年までフランスと競合
(4)イギリス優位の時代(1816-1945)1792年から1815年までフランスと競合
(5)アメリカ優位の時代(1946-)1914年/1945年までドイツと競合

これらの時期区分から、おおよそ100年から120年程度の間隔で世界規模の戦争が見られるというのが著者の基本的な考え方になります。

長期循環論の妥当性に関する議論
少し世界史に詳しい人であれば、このモデルスキーの学説を批判することは容易くできるはずです。というのも、彼の学説で説明できない細かい史実が多数存在するためです。

例えば、16世紀の国際情勢においてポルトガル優位と見なすことができるかどうか疑わしい点があります。当時の国際情勢であれば、中国大陸を支配していた明王朝がありました。明は北方からモンゴル人の軍事的圧力を受けて、国内でも反乱の鎮圧に追われる状況ではあったものの、ポルトガル人が1517年に中国の広州に上陸した時に、明をポルトガルの勢力下に置くことができるような状況ではありませんでした。
その他にもモデルスキーの分析に対して細かな異論を出すことができます。

とはいえ、長期循環論はどれほど有力な指導者、国家、陣営であっても、必ず時間の経過によって衰退を余儀なくされるという事象を説明している以上、全面的に棄却することができない説得力があります。
長期循環が100年から120年であるという主張自体を棄却できたとしても、その長期循環の存在それ自体を否定することは難しいのです。

結びにかえて
この研究は未完成の研究であると思います。
解決されるべき主要な課題が少なくとも二つあると私は考えます。一つは、国際政治の歴史を包括的に考える際に、どうしても近代以前のアジアにおける国際政治の歴史を考える必要があるということです。本書の分析では、どうしても覇権国家の交代に関してもヨーロッパ史の見方が基本となっているため、より地域的視野を広げた長期循環の研究が必要です。

第二に、かりに世界戦争の長期的サイクルが100年から120年のパターンで繰り返すという著者の説がわたしたちの知らない理由で正しいものと仮定すると、第二次世界大戦が終結した1945年から100年後の2045年から2065年の時期に世界戦争のリスクが高くなるという予測が導かれます。
この予測が実際にどれほど当たるのかを検討する必要があります。世界経済の一体化や核兵器の配備が進んだ現代の国際情勢において、世界規模の戦争が果たして再び発生し得るかどうかという問題があり、現代の環境における長期循環説の妥当性を考察する必要があるでしょう。

昨今の国際情勢の推移を見ると、国際政治の長期的トレンドについて考える重要性はますます大きくなっています。国際システムを全般的に俯瞰する視点がなければ、これからの国際政治の推移を見極めることは難しいでしょう。本書が直ちにその手助けになるとは限りませんが、議論の出発点として重要性を持っていると思います。

KT

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