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2016年2月16日火曜日

はじめて学ぶ築城学の基本基礎

日本にも各地に城塞が残っており、こうした史跡を観光資源として活用するために改めて調査研究する取り組みも活発に見られます。
しかし、こうした城塞の研究を進める上で基礎とすべき築城学の文献はそれほど多く流通していないため、理解を深める上で障害となっている部分があるのではないかと思います。

築城(fortification)とは、我が部隊の防護性を向上させ、かつ戦闘力の発揮を容易とするため、土地に対して施す工事、またはその工事によって構築される掩体等の各種構築物の総称であり、築城学はその研究をいいます。

築城の意義は戦闘を戦闘で所要の地点を味方が防御することを助けることにありますが、築城の形態や規模は与えられた任務や利用できる物資、また周囲の状況によってさまざまです。
最も一般的に分類すると、あらゆる築城は平時から計画的に工事を実施して構築される永久築城と戦時に一時的、応急的に構築される野戦築城の二種類に分類されます。

今回は築城学の基本である野戦築城を中心に、その基本知識を簡単に説明し、より深く城塞について研究して頂く上での参考にして頂ければと思います。

掩体の基本的な構造と特徴
築城学でよく使用される専門用語の一覧。
用語の解説のための掩体の断面図だが、各辺の大きさは強調または短縮している。
ここで示しているのは19世紀から20世紀前半まで見られた典型的な堡塁構造の断面図である。
現在の個人用の掩体では外壕を設けず、積土、本体部、通路部で構成する。
ここで示した築城用語に関する個別の解説は(Mahan 1852)を参照。
野戦築城の基本的な要素となるのは掩体です。
掩体の目的は火力の発揮または監視や観測を容易にし、かつ敵の火力から人員、武器、装備を防護することであり、一見すると土が周囲に盛られ、大人が全身を入れることができるだけの大きさを持つ穴のようにも見えます。

基本的に野戦築城では掘開した土を積土として射手の前方に設置します。米軍では掘開深さの目安は小銃の全長の二倍と指導することもあるようです。
掘り返した土を周囲に盛り、その斜面を緩やかにすれば、少ない積土でも厚みを増すことができます。ただし、この場合には積土は低くなるという欠点があり、より深く掘らなければなりません。
しかし、斜面の角度を急にして積土高を高くしようとすると、銃撃や爆撃等の衝撃を受けた際に積土が崩壊してしまう恐れが大きくなります。
小銃手の掩体の一例。元来の地形が傾斜しているため、僅かな積土高しか認めらず、敵の射撃に対する防護性は低くなっていることが分かる。このように、地形地物によって掩体の強度が影響を受けることが示されている。
射手が射撃を容易にするためには、胸土に射手の肘を乗せるスペースを設けることも命中精度を上げる上で重要なことです。内壕に水がたまることを防止するために排水溝を作らないと、気象条件によっては雨水で掩体が崩壊する危険もあります。また、掩体は他の掩体と射撃区域を効率よく分担していなければならないということにも注意が必要でしょう。

ただし、地面を掘ればそれが直ちに掩体になるわけではありません。火力の発揮をそもそも目的としない構築物もあるためです。そのような構築物は掩体ではなく掩壕と呼びます。掩壕は敵の火力から味方の人員、武器を防護することのみを目的とするためです。これら掩体、掩壕の間を移動するための壕のことを交通壕または連絡壕といいます。

築城の構成方法と戦術的な考慮の関係
築城の編成は個々の陣地の強度に加えて、正面と縦深、予備の運用等の観点から考察する必要がある。
先ほど述べた掩体等は野戦築城を構成する要素であり、それぞれの陣地に配備した火器の射程や威力に加え、防御陣地の正面と縦深をどのように設定するのかが非常に重要となります。

個々の陣地の正面が広すぎると、敵に突破を許す危険が増大しますが、陣地の正面を狭くすると側面を攻撃される危険が増大します。
また縦深を大きくとれば、敵が深く浸透してきたとしても、それを正面に捉えて交戦することができますが、縦深が小さいと第一線で増援が必要となっても速やかに予備を派遣することができるという利点があります。
こうした複雑な利害関係を踏まえ、任務、地形、敵情に応じた築城の編成が選択されなければなりません。

なお、防御陣地と接近経路の関係については、以前の記事「接近経路で分類できる防御陣地」もご参照下さい。

終わりに
概論的な内容になってしまいましたが、野戦築城における基本的な要素である掩体とそれらを全体的に組み合わせた際に、どのような事項が論点となりえるのかを見てきました。
近代的な築城のモデルは17世紀にフランス軍で活躍した将軍ヴォーバンによって本格的に研究がすすめられ、その後も武器の威力が高まるのに応じて進歩し続けてきました。
軍事学の歴史を振り返ると、技術革新によって火力が著しく向上した19世紀に築城学の文献も急増しており、現在の築城の考え方もこの時期に相当確立されています。
築城学をさらに深く知りたい方々については、次のような文献が参考になるかもしれません。

ジラール『戦術応用築城学』三村友芸訳、陸軍大学校、1885年
Bralmont, Charles B. 1888. Field Works: Their Technical Construction and Tactical Application, London: Kegan Paul, Trench & Co.
Clarke, G. S. 1889. Land Fortification, Past Present and Future, London: Woolwich.
Clarke, G. S. 1907. Fortification: Its Past Achievements, Recent Developments, and Future Progress, Liphook, Hants: Beaufort Publishing.
Duffy, Christopher. 1976. Fire and Stone: The Science of Fortress Warfare 1660-1860, London: David & Charles.
Duffy, Christopher. 1997. Siege Warfare: The Fortress in the Early Modern World 14949-1660, London: Routledge.
Fiebeger, Gustave J. 1913. A Text-Book on Field Fortification, New York: John Wiley & Sons.
Floyd, D. E., ed. 1992. Military Fortifications: A Selective Bibliography, New York: Greenwood Press.
Hogg, I. 1979. Fortress: A History of Military Defense, New York: St. Martin's Press.
Yule, Henry. 1851. Fortification for Officers of the Army and Students of Military History: With Illustrations and Notes, London: William Blackwood and Sons.

参考文献
Mahan, Dennis Hart. 1852. A Treatise on Field Fortifications, New York: John Wiley.

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