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2016年2月25日木曜日

論文紹介 対潜戦での新戦力となる無人水上艇

Textron System社製の無人水上艇。
すでに米海軍では対潜戦の観点から無人水上艇の配備と研究を進めている。
沿岸海域で活用できれば、直衛突破を図る潜水艦の優位を低下させることが期待される。
1941年12月に日本と米国が戦争状態に入ってから間もなく、日本海軍は敵の潜水艦が実施する通商破壊の影響が、当初の予測よりも甚大かつ深刻であることを思い知らされることになり、海上護衛戦で大きく出遅れました。
海洋国家にとって生命線ともいえる海上交通路を潜水艦の脅威から効果的に防護することができなかったことは、累積的効果ではあったとはいえ、日本の敗北に大きな影響を与えたと考えられています。

戦後の日本では海上護衛戦の重要性を認識し、対潜戦(Anti-Submarine Warfare, 以下ASW)の戦術を研究し、装備の開発にも努めてきました。ASW能力は日本の対中戦略にとって欠かすことができない重要なものとなっています。
しかし、中国海軍の勢力が拡大していることを受けて、日本としてもさらにASWの能力を強化する必要が大きくなっています。

今回は、ASWにおける無人水上艇の可能性について考察した論文を取り上げて、その内容を紹介したいと思います。

文献情報
Unlu, Salim. 2015. Effectiveness of Unmanned Surface Vehicles in Anti-Submarine Warfare with the Goal of Protecting a High Value Unit, Master Thesis, California: Naval Postgraduate School.

沿岸海域でのASWと無人水上艇による対応
著者が取り組んでいるのは、沿岸海域におけるASWという特定の条件の下で無人水上艇がどこまで潜水艦の捜索に有用であるかを明らかにすることです。
なぜ、沿岸海域に絞ってASWを研究する必要があるかといえば、沿岸海域における水中音響には独特な特性があり、外洋海域よりも音の伝播が劣悪であり、また雑音が大きくなりやすいため、ASWの観点から見れば大きな不利があるためです(Unlu 2015: 12)。

すでに2001年に米海軍大学校で実施された兵棋演習では、無人水上艇が沿岸海域に艦艇が接近する際に極めて重要な役割を果たす可能性が確認されており(Ibid.: 17)、2007年には米海軍で『海軍無人水上艇基本計画』が策定されています(Ibid.: 18)。
この計画によれば、沿岸海域でのASWにおける無人水上艇の任務は「リスクの抑制」、「海上での保護」、そして「航行の防護」の三つであると規定されています(Ibid.: 20)。
無人水上艇の任務を説明した概念図。
第一に港湾に停泊する艦艇のリスクの抑制(Hold at Risk)、第二に海上に出た艦艇に安全な場所を提供する海上での保護(Maritime Shield)、第三に海軍基地と安全海域の間を移動する際に通過する海域での航行の防護(Protected Passage)が示されている。対潜ヘリコプターと異なり無人水上艇は長時間にわたって洋上監視を実施することができる利点がある。
(Ibid.: 20)
ここでのリスクの抑制とはチョークポイントを継続的に監視する任務であり、海上での保護は空母打撃群の進出をより安全なものにする任務です。航行の防護については、戦闘海域の潜水艦を捜索して航路の安全を確保するという積極的な行動に基づいて実施されます(Ibid.: 20)。

無人水上艇に以上の任務を遂行させることができれば、沿岸海域においても潜水艦の探知、識別において大きな優位を獲得することが期待されます。

シミュレーション分析による検証
著者はMap Aware Non-Uniform Automataというエージェント・ベース・シミュレーションを用いて沿岸海域におけるASWでの無人水上艇の効果を検証しています。

まず、沿岸海域におけるASWを想定した場合、空母のような艦艇を潜水艦から掩護するためには、ASWのための直衛陣形(screen formation)をとります。
直衛陣形の一例を示した要図。
空母など防護すべき艦艇を中心とし、水上艦艇、航空機がその周囲に展開する。
(Ibid.: 26)
戦術の研究において、直衛(screen)とは主隊または船団を護衛するための艦艇と航空機の配列のことをいい、潜水艦がこの直衛の任務に当たる艦艇の配列に進入することを直衛突破(screen penetration)といいます。

著者は、海域のランダムな地点に出現して直衛突破を図る潜水艦の脅威を想定した上で、その脅威に対処するよう作戦行動をプログラムしたフリゲート、対潜ヘリコプター、無人水上艇から成る直衛任務群を重要艦艇の周囲に配置し、護衛の対象を潜水艦からどれだけ有効に防護することができるのかをシミュレートしました。

使用する兵力が異なるシナリオごとで65,000回試行したところ、直衛が潜水艦の発見に成功した回数と成功率は次の通りとなりました。

  • シナリオ1 フリゲート2隻、対潜ヘリコプター2機(成功24,953回、成功率38%)
  • シナリオ2 フリゲート2隻、無人水上艇2隻(成功24,578回、成功率37%)
  • シナリオ3 フリゲート2隻、対潜ヘリコプター2機、無人水上艇2隻(成功30,752回、47%)
  • シナリオ4 フリゲート3隻、対潜ヘリコプター2機(成功29,108回、44%)
  • シナリオ5 フリゲート3隻、無人水上艇3隻(成功28,664回、44%)
  • シナリオ6 フリゲート3隻、対潜ヘリコプター3機、無人水上艇3隻(成功34,947回、53%)(Ibid.: 53)

条件と成功率の変動を見ると分かるように、フリゲートに加えて対潜ヘリコプターを使用した場合よりも、無人水上艇をさらに加えた場合の方が、潜水艦の直衛突破を防ぎやすくなっていることが分かります。
これはASWにおいてはプラットフォームが増えるほど直衛任務群としての「視界」が広がるためです。

さらに著者は対潜ヘリコプターは、少なくともASWでの直衛という観点から見れば、無人水上艇と置き換えることが完全に可能であるということも指摘しています(Ibid.: 74)。
ただし、無人水上艇は活動半径が対潜ヘリコプターよりも小さくなるため、ASW以外の状況を考えた場合の代替性は確保できないとも認めています(Ibid.)。
直衛としての対潜ヘリコプターと比較すると、無人水上艇は潜水艦を防護すべき艦艇から遠方で発見するという機能には劣っています。これはASWでの戦術にとって重要な意味を持つ無人水上艇の特性であると考えられます。

結びにかえて
今後も沿岸海域において潜水艦の脅威を完全に排除するということは、戦術的に非常に難しい過大であり続けることは間違いありません。
特に空母のような高価値な艦艇がチョークポイントを通過する際には、直衛による厳重な警戒が欠かせないでしょう。

しかし、この研究が指摘しているように、潜水艦の優位というものを低下させる技術の開発が進んでいることも事実であり、例えば無人水上艇を空母打撃群の直衛陣形を強化するために活用することができれば、直衛突破の成功率を大きく引き下げることが期待されます。

日本も南西地域において中国海軍の潜水艦の脅威に直面していますが、こうした近年におけるASWの研究を積極的に取り入れ、有事における米空母打撃群の来援を促進できる態勢構築が求められていると思います。

KT

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