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2015年11月18日水曜日

論文紹介 対ソ戦略とヘリコプターの機動力

第二次世界大戦後の陸上作戦においてヘリコプターが果たしてきた役割は非常に大きなものがあります。
ヘリコプターの技術は1937年にドイツで開発に成功しましたが、実戦で本格的な使用を始めたのはベトナム戦争を戦っていたアメリカでした。
ベトナム戦争の経験からヘリコプターが地上戦で有用であることが明らかになると、ヨーロッパ各国では来るべきソ連軍との戦争でヘリコプターを活用できないか検討が進められることになります。

今回は、1970年代初頭にヘリコプターがソ連軍との地上戦で果たすであろう役割に関する論文「ヘリコプターと地上戦:ベトナム戦争での経験から」を紹介します。

文献情報
Trueman, H. P. 1971. "The Helicopter and Land Warfare: Applying the Vietnam Experience." Moulton, J. L. ed. Brassey's Annual, The Armed Forces Yearbook.

著者はイギリス軍の軍人であり、ベトナム戦争で活躍したヘリコプターの能力をイギリス陸軍としてより活用するためには、どのような作戦構想が考えられるのかという問題に関心がありました。
とはいっても、ベトナムとヨーロッパではそもそも作戦の環境が異なる点があることについて著者は留意する必要があるとも考えていました。
「ベトナムにおいてヘリコプターが果たした役割の大部分が、ヨーロッパの環境だと適用できないことは極めて明らかである。しかし、逆説的に言えば、ヘリコプターの活動が制限されることによって、味方の前線に加えられる(ソ連軍の)脅威の一部が緩和され得るかもしれない。(ヨーロッパとベトナムの)最も顕著な相違点として、ベトナムでは空中に敵な脅威が存在しなかったのに反して、ヨーロッパでは極めて強力なその脅威が存在することを予想しなければならないことである」
ベトナム戦争で北ベトナム軍の航空勢力が問題にならなかったという評価をしている点については著者は事実を誤認しているかのような印象を受けます。
しかし、北ベトナム軍と比較すればソ連軍との戦争ではより強力な飛行隊の脅威を受けることになることは確かであり、著者は西側各国の操縦士たちが非常に高い水準の技能を身に着けていること、陸軍防空能力を軽視してはならないことを主張しています。
「次の問題は戦車の大部隊に対抗する方法である。機甲部隊は現在、一日に50キロから100キロの速度で前進する。これに対してヘリコプターには二種類の対抗手段がある。その一つは、対戦車ガンシップつまりヘリタンンク(Heltank)であり、もう一つはヴィジラント型対戦車ミサイルを装備した対戦車部隊を普通の輸送機で展開させることである。これら二つの戦法は互いに補完し合うものである。対戦車部隊の部隊を敵の機甲部隊が突出した部分に配置させる。ウェセックス輸送機1機があれば、これら部隊を3個配置可能である」
ここでの対戦車ガンシップというのはAH-1のような攻撃ヘリコプターのことであり、ウェセックスというのは当時、イギリスでライセンス生産されていたS-58という輸送用ヘリコプターのことを指しています。

当時のヨーロッパの軍事情勢では、北大西洋条約機構(NATO)の東西ドイツ国境地帯に構成していた防衛線をワルシャワ条約機構(WP)が大規模な機甲部隊によって突破するシナリオが一般に考えられていました。

量的に十分な通常戦力を配備することが難しい西側諸国は、そのために国境地帯のどの方向から攻撃を加えられても迅速に対処する必要がありました。
このような問題を解決するために、ここで著者はヘリコプターに考えられる限りの対戦車能力を付与し、WPの機甲部隊がどの方向から攻撃してきたとしても、迅速に戦闘地域に展開してこれを撃破するという作戦を述べています。
「西ヨーロッパの核が使用される戦場では、陸上作戦で非常に大きな障害があるものと予想しなければならない。橋梁は破壊され、広大な面積の樹木が焼失する。道路は荒れ果て、そこには障害物が転がり、幅広い地域に放射性降下物が降り注ぐ。このような状況において、一定程度の戦術的機動力を有する側には大きな優位がある。西ドイツ軍が部隊輸送機に多大な努力を注いでいる理由は恐らくここにあるのだろう。イギリス陸軍としてもドイツ軍の努力に遅れをとることがあってはならない。以上をまとめると、最も重要なこととして戦争での成功は、優れた情報、火力、機動によるところが大である。ヘリコプターはその独特な性能ゆえに、これら要件の全てを満たす重要な一部を構成するのである」
熱核兵器が使用された場合、大規模な地形破壊が引き起こされるため、陸路での戦略機動は著者も指摘する通り極めて困難となります。
これはWPが各地で一斉に攻撃を開始しているにもかかわらず、第一線に増援を送り込むことができないという致命的な状況が発生する可能性があることを示唆します。
そのような不利な状況を回避するためには、長い滑走路を必要とせず、かつ空中機動が可能な部隊を編成しておくことが重要であり、ヘリコプターはそのような部隊を組織する上で重要な装備であると著者は結論付けています。

KT

5 件のコメント:

  1. このコメントは投稿者によって削除されました。

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  2. 初めまして、安全保障に興味がある者です。
    今通っている大学の学部は経済なのですが、経済と軍の関係性の深さを知り、半年ほど前からこちらのサイトで勉強させて頂いています。

    今回の記事と関係はないのですが、私が戦争小説を読んでいる時にとある疑問を持ちました。
    兵士の精神状態に関する言葉なのですが、素人の私には受け入れ難く、詳しい方の感想を聞きたいと思っていました。場違いなのは承知しておりますが、私の周りに聞けるような人がいない為、どうかお願いします。
     季節は冬、猛吹雪の中、青森県の弘前市に防衛ラインを敷き、ある侵略軍と本土防衛戦をやっているという状況です。以下、中佐階級の海兵第一旅団長と首席作戦参謀の「兵士の心理状態」に関するやり取りです。

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  3. 「これまでも胸の悪くなるような事件や戦いが多くありましたが、今度のやつは本当に心と体を蝕みます。わたしは兵の心理状態が心配でならないのです」
    それを聞いて大塚中佐は眉を上げた。
    「首席作戦参謀が心理状態などと腑抜けた言葉を使うな!ユーラシアでは敗北の連続だっぞ。それでもどの国の軍も悪鬼のように戦い続けた。青木大尉、ひとつ教えよう。追い詰められ、逆境に立った者には、心理状態云々は戯言にしか過ぎん。戦争なんだから当たり前ではないか?ストレス?PTSD? 結構。だからふかふかのベッドで休むのか?そうではないだろう!そんなくそったれで忌々しいものを引きずって、なお戦うのだ……!」

    特に、「ストレス?PTSD?結構。だからふかふかの~~」のくだりです。
    この作品の終盤には、部下6名死亡という結果に責任を感じて部屋に閉じこもり、ただ祈りを捧げる小隊長の姿が描かれます。
    また、小隊付き軍曹も敵を殺す事に思考を費やし過ぎて、殺戮に楽しみを覚えはじめた自分を強烈に自己批難する描写があります。

    現実の戦争では、兵士の心理状態については考慮されているのでしょうか。
    大塚中佐の言葉は精神論にも聞こえますが、こういうものなのでしょうか。

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  4. こうしたご質問は初めてなので、ご期待に沿えるか分かりませんが、可能な限り端的にお答えします。
    一般論として指揮官は部隊の戦闘力を適切に維持するため、兵士の精神的疲労度を適切に把握し、必要があれば負傷者と同様に後送し、回復させた後に前線へと復帰させて戦闘力の低下を防止しなければなりません。
    どれほど高度な訓練を受けたとしても兵士は機会ではなく人間に他なりません。軍事心理学で有名なドゥ・ピックの表現を借りれば、命令に対して機械的に服従する兵隊というのは「机上にしか存在しない怪物」なのです。また私は過去の戦史において兵士の心理状態が戦闘の勝敗に重要な影響を及ぼした事例を数多く列挙することもできます。
    結論として、作戦参謀の立場であれば兵士の精神的疲労度に注意を払うことは当然のことであり、それを批判する根拠も私にはよく理解できません。必勝の信念の重要性を説いているのかもしれませんが。
    あと、戦闘の経験から好戦性が高まる可能性については以前の記事も一度ご参考にしてみて下さい。
    「戦闘を経験した兵士は何が変わるのか」(http://militarywardiplomacy.blogspot.jp/2015/05/blog-post_27.html)

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    1. やはり心理状態は重要ですよね。
      一人では理屈では批難出来ても、感情的にずっと引っかかっていました。戦争に関して信用できる方の意見を聞けて、自分の考えの正しさを再確認出来ました。

      ありがとうございました。
      これからもこのサイトで勉強させて頂きます。

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