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2015年11月29日日曜日

文献紹介 限定核戦争のための戦略理論

第二次世界大戦を勝ち抜いた大国が続々と核の開発を成功させると、戦略家たちは核戦争を想定した新たな軍事戦略の研究に着手するようになります。
従来の戦略理論では、作戦地域の決勝点に我が方の戦闘力を集中させることにより、敵を撃破することが可能となると考えられていました。
しかし、東西冷戦という状況の中でこのように核兵器を運用すると、核の応酬が始まってしまい、核戦争を避けることができなくなるという問題点がありました。

今回は、この問題を解決するためには戦略的意図に基づいて制限された武力攻撃が重要であると考えた政治学者ヘンリー・キッシンジャーの戦略理論を紹介したいと思います。

文献情報
Kissinger, Henry A. 1957. Nuclear Weapons and Foreign Policy, New York: Westview Press.(邦訳、田中武克、桃井真訳『核兵器と外交政策』日本外政学会、1958年)

核が登場してから軍事戦略の研究では核抑止論が主流でしたが、核抑止が失敗した後の問題も依然として重要な課題として検討されていました。著者の関心も抑止に失敗した場合に勃発する核戦争を指導する方法の解明にあったのです。
「核時代における戦略の基本的な問題は抑止政策とそれが失敗した場合に戦争を遂行する戦略の関係を決定する方法であろう」
著者が抱えていた問題意識とは、核戦争を遂行する状況に置かれた場合に従来の軍事戦略の考え方をそのまま適用すると、米国はソ連に屈服するか、それとも全面核戦争を始めるかの二者択一を迫られてしまうということでした。これでは米国の政策上の選択肢を著しく制約されてしまいます。

そこで著者が考案したのは、戦争目的を達成可能な範囲において最小限度の軍事力を使用する戦略理論でした
この理論で重要な点は、戦争で達成すべき政治的目的とそこで使用する軍事的手段との関係を慎重に調整することであり、もし戦況によって核の使用が避けられなくなったとしても、全面的な核戦争に至らないように処置するべきだと考えられています。

この戦略理論の特徴を説明するために著者は歴史上の戦争がしばしば限定戦争として遂行されていることを論じています。
「戦争の歴史を見ても大国の間でしばしば限定戦争が発生している。ただし、これら限定戦争は戦略的な選択というよりも内政に対する考慮によって限定されてきたものであった。17世紀、ルイ十四世は四半世紀にわたってフランス軍のほぼ全ての戦力を使用したが、国家機構の未整備によって国王は民衆を徴兵することも、所得税を課すことも、財産を没収することもできなかったため、国王のフランス軍はごく一部の国力しか使用することができなかった」
歴史的には政治的、行政的能力の不都合によって戦争は必然的に限定戦争の形態をとらざるをえなかったのですが、現代ではより意図的に限定戦争の形態を選択することができるようになっており、また現代の安全保障環境においてそれが必要であると著者は考えました。
「(全面戦争とは対照的に、)限定戦争とは政治的目的を達成するために遂行され、この目的によって使用すべき軍事力と達成すべき目的との間の関係を調整しようとする。敵を粉砕するのではなく、敵に影響を及ぼすことで、抵抗を続けるよりも相手の条件を受け入れる方が得策であると敵に考えさせ、敵を完全に打倒するのではなく、特定の目的のために戦おうとする企図を表明するのである」
ここで重要なことはその時々の情勢によって変化する政治的目的に見合った軍事的手段を準備し、戦時においても相手と外交交渉を継続すること、そして緊急展開能力を準備しておくことだと強調されています。
その理由の一つは、いったん敵が局地的な通常戦力を使用して迅速に特定地域を攻略占領してしまうと、この敵の部隊を後退させるために相手を上回る戦力を我が方が投入しなければならず、結果として戦争のエスカレーションを自ら引き起こすことになるためです。
全面核戦争となる危険を回避するためには、戦争の序盤で相手の動きを確実に封じ込めることができる即応態勢を整えていなければなりません。

それだけでなく、作戦を連続的に進めるのではなく、戦局が一定の段階に進むたびに敵と事態を打開するための交渉を行うことにも注意を払わなければなりません。こうすることでもし限定核戦争となったとしても互いにとって不利益となる全面核戦争となる状況を回避することが可能となります。

このような限定核戦争の議論は外交と軍事を総合することの重要性を改めて確認した上で、核兵器が使用される状況では戦闘力の集中と敵の撃滅という伝統的な原則をむやみに当てはめてしまうと、かえって戦争目的の達成が困難になる可能性があることを明らかにしました。
特に興味深いのは即応態勢が平時の抑止だけでなく戦争が勃発した後のエスカレーション防止においても前提条件となるという議論であり、自衛隊が目指す統合機動防衛力の意義を考える上でも参考になる視点だと思います。

KT

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