最近人気の記事

2015年10月8日木曜日

計量で考える平和の条件

最近の日本の議論では日米同盟の運用との関係で、同盟の強化が戦争を招き寄せるものか、戦争を遠ざけるものなのか、意見の相違が見られます。
しかし、このような政策論争では戦争はどのような要因によって引き起こされるのか、平和を実現するための条件とは何か、という問題が解決されないまま疑問として残されます。

そこで今回はRussettとOnealの研究から、平和の条件として政治学でどのような要因が分析されているのかを紹介したいと思います。

RussettとOnealが分析で使用したデータは、Correlate of War Projectという研究プロジェクトのものです。
これは1816年から現代にかけておよそ200年弱の武力紛争、同盟形成に関する体系的なデータを一般に公開しているもので、誰でもアクセスすることができます。(Correlate of War(英語), http://www.correlatesofwar.org/)

このデータを用いることで、国際システムで過去に戦争に国家が参戦した事例と、同盟の締結や軍備の増強などの要因との間にどのような関係があるかを一年ごとに分析することが可能となります。
そこで、RussettとOnealは国家が戦争へ参加する確率と、同盟、軍備、政治体制、貿易、国際組織との関係を分析し、1886年から1992年までの武力紛争における戦争参加の確率がどのように変化するかを考察しています。

条件別に比較した国家が戦争に参加する確率の変化
・同盟への加入 -43%
・勢力比の増大 -42
二国での相対的指標で見た数値
・民主化指数の増大 -26
・二国間貿易の増大 -29
・国際組織への加入 -35
国際システム全体で見た平均の数値
・民主化指数の増大 -24
・二国間貿易の増大 -35
・国際組織への加入 -10
(Russett and Oneal 2001: 183)

少し細かい話になるのですが、この分析の手続きがどのようなものであるのか概観しておきます。必要なければ読み飛ばして下さい。

この分析で出発点となっているのは1886年から1992年にかけて存在していた国家が戦争に参加しているかどうかをすべて調べ上げたデータです。
戦争に参戦した国家と参戦していない国家の間で、どのような条件の相違があったのかを見るために、RussettとOnealは同盟への加入、勢力比の増大、民主化指数の増大、二国間貿易の増大、国際組織への加入という条件に注目しています。
これらの条件の変化を把握する方法として、標準偏差(統計値がどれだけ散らばっているのかを表す分散の正の平方根の値)が用いられています。
同盟については常に1としているのですが、その他の条件については標準偏差分だけの変化があることが前提とされています。
また政治体制、貿易、国際組織については二国で相対的な指標として見た数値と国際システム全体でとった平均値の両方から確認しています。

以上の分析を踏まえて、RussettとOnealは次のように分析結果を判断しています。
「やはり、現実主義の要因、つまり同盟と相対的勢力が(戦争参加に)与える影響は強い。それぞれの要因は二国間が戦争に参加するようになる確率を、43%から42%ほど低下させている。それに加えて、6つのカント主義の体系的変数(評者注:政治体制、貿易、国際組織に関する要因群のこと)は統計的に有意であったものの、国際組織に加入する国家の毎年の戦争参加の平均値については弱かった」(Ibid.: 182)
したがって、平和を維持するために同盟、軍事力は最も強力な影響を与えていると言えますが、政治体制、貿易、国際組織もそれぞれ副次的な重要性を持って平和を維持することに寄与しうる可能性があると分かります。

驚くべき分析結果とまでは言えないかもしれませんが、軍備と同盟が国家の平和と安全を維持する上で重要な働きを示すことを計量的に確認したという意味で、この分析は非常に重要であり、また政治体制や貿易、国際組織の興味深い影響についても、より詳細なデータを用いて再検証と分析を進める必要が示されています。

国家の行動は個別に見れば、必ずしもすべてを法則的に説明できるものでもありませんが、集合として見れば一定の規則性や原則性が認められますので、今後の政治学ではさらにこうした計量的分析を発展させることが期待されているでしょう。

参考文献
Russett, Bruce and John Oneal. 2001. Triangulating Peace: Democracy, Interdependence, and International Organizations, New York: Norton.

0 件のコメント:

コメントを投稿