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2015年8月25日火曜日

文献紹介 ニコルソンの外交理論


国際政治で生き残るためには外交を適切に指導することが欠かせません。
外交とは一般に交渉と取引によって国際政治における利害の対立を処理する技術のことを言います。
例えば、外国に自国の代表である使節を派遣すること、講和条約を締結すること、相互の不可侵を保証すること、これらは古代エジプトにまでさかのぼることができる伝統的な外交術です。

しかし、外交が政治学で本格的に研究されるようになったのは比較的最近のことです。今回はイギリスの外交官でもあったニコルソンの著作を中心に、外交の理論と実践について説明したいと思います。

文献情報
Nicolson, Harold G. 1963(1939). Diplomacy, 3rd edn. Oxford: Oxford University Press.(邦訳、ニコルソン『外交』斎藤真・深谷満雄訳、東京大学出版会、1968年)

この著作は現在でも外交研究に多大な影響を与えた著作ですが、その知名度の理由は外交という従来まで外交官だけが研究または担当していた仕事の内容をできる限り分かりやすく紹介したものであるためです。

まずニコルソンは外交の定義について次のように端的に説明しています。
「外交とは交渉による国際関係の処理であり、大・公使によってこれらの関係が調整され処理される方法であり、外交官の職務あるいは技術である」(ニコルソン、1968年、1.2.5.)
ここでニコルソンは外交という言葉を外交官の職務に関連するものとして解釈しています。
さらに、ニコルソンは「対外政策」と「外交」を厳密に区別する必要があることについて次のように述べています。
「思うに民主主義国における「対外政策」は内閣が国民の代表者の承認を得て決定するべき事項であるのに対し、同政策の遂行は「外交」と呼ばれようと「交渉」と呼ばれようと、普通は経験と思慮分別を有する専門家に委ねられるべきものである」(1.1.6.)
ニコルソンは「外交」が「政策」ではないということ、そして「外交」は固有の専門的領域である、と論じることによって、外交の問題を解決するためには固有の理論と実践が必要とされることを説明しています。

さらに外交理論の内容に踏み込むと、ニコルソンは二種類の考え方に区別して整理することができることを述べています。
すなわち、武力を背景とした対決姿勢を重視する「武人的」な考え方と、利益を提示して協調姿勢を重視する「商人的」な考え方です。
このように硬軟織り交ぜた外交の重要性は広く知られていますが、ニコルソンは両者をどのように組み合わせるのか、という問題が外交において最も難しい判断を必要とすると指摘しています。
「こうした外交についての二つの見解はそれぞれ独自の幻想と同時に独自の危険を持つ。しかし、すべてのうちで最大の危険は武人派が文民派の誠実を理解できず、商人派は武人派が交渉の手段と目的とに関して自分たちと全く異なった考え方を持っているということが理解できないでいることである。武人派は威嚇が生み出す武力の能力をあまりにも過信し、商人派は信頼をもたらす信用観念の能力をあまりにも過信している。後者は信頼を植え付けようと望み、前者は恐怖を作り出そうと願う。そうした考え方の相違は一方において憤りを、他方においては軽蔑的な疑惑を生じさせる」(2.5.6.)
以上の考察から分かるニコルソンの外交観は非常に明快なものです。
つまり、外交官は国家の代表として対外的な交渉を進める専門家であり、その外交理論が示唆するように、その仕事は常に自国の要求を押し出しながらも、常に他国の要求の妥協点を模索することです。

もちろん、ニコルソンが外交という活動のすべてを説明し尽したわけではありません。他国との交渉だけではなく、情報の収集と報告、現地の邦人の保護なども外交の重要な仕事として含まれます。

しかし、自らの経験と研究を踏まえ、外交一般について人々が理解できる形で著作にまとめ上げたニコルソンの功績は依然として大きく、将来は外交官の道を進みたいと思う志願者から、外交の基本を勉強したい一般国民にまで幅広く読まれる価値がある古典だと思います。

KT

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