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2015年8月3日月曜日

文献紹介 独裁を存続させる政治力学

ヒトラー内閣成立を祝って行進する突撃隊。1933年1月30日
政治学では国家で政治権力を維持する方法が分析の対象となります。ヒトラーなど有名な独裁者がいかに政権を掌握し、それを維持したのかも重要な検討課題に含まれています。

今回は独裁政権を安定的に保持するための条件について考察したタロック(Gordon Tullock)の研究を紹介し、独裁制が維持されるためにはどのような条件が満たされている必要があるのかを説明したいと思います。

文献紹介
Tullock, Gordon. 1987. Autocracy, Dordrecht: Kluwer Academic Publishers.

少数派の支持で存続が可能な独裁制の安定性
独裁制の下で政治家が目指す目標について著者は、(1)権力の座に就くこと、(2)権力を掌握し続けること、(3)権力の所有から個人的な見返りを獲得することであると定義しています。
つまり、政治家が権力を求めて行動するという点については、民主制と独裁制でも大きな相違はないものと考えられています。

ただし、民主制に対して独裁制では有権者から政治的支持を受ける必要が、より小さくすむという重大な相違点があります。これは、独裁制において政治家が自らの党派や自分にとって有利な条件で国家予算を自由に編成することが可能である、ということを意味しています。

人によっては、このような政治状況では不満を募らせた国民が現政権に対して抵抗するため、反政府活動に参加する公算が強まると考えるかもしれません。
しかし、著者の分析によれば、そのような状況になるとは限らない可能性があります。
著者の見解によれば、これは有権者の立場から考えた政治的活動の費用の大きさと便益の小ささから説明することができます。

合理的選択としての反政府活動への不参加
ある独裁体制を打倒するための抵抗運動を主導する人物がいたとしても、市民がそれに積極的に参加するかどうかは費用と便益に基づいて決定されると著者は説明しています。

非合法な武力闘争の路線をとるのか、合法的な運動路線をとるかにかかわらず、現体制に対する抵抗勢力に参加するためには、各個人の自由時間や所得などを犠牲にする必要があるため、こうした活動には費用が伴います。
さらに、独裁政権はこうした反政府的な運動の参加者に対して警察力を含めたさまざまな権力資源を投入することが可能であり、これは反政府活動に関与することで発生する個々人の不利益となります。

以上の理由から、独裁政権を打倒することで期待される利益を、反政府活動に関与することで予想される費用が上回らないという状況が起こります。独裁制を打ち倒したとしても、それに伴う費用が圧倒的に大きいならば、合理的選択として反政府活動は拡大しません。
そうなれば、反政府活動の指導者は、十分な規模の支持者を確保することができなくなり、独裁制は存続することができることになります。

賢明な独裁者は民衆の所得拡大、余暇充実を重視する
著者の議論で興味深いのは、独裁制が存続する理由は、フリーライダーが発生する理由と理論的に類似していることを指摘したことです。
つまり、有権者は自由に使える時間や所得が限られていますので、期待される見返りが小さい政治的活動よりも、確実な見返りが望める労働や余暇を優先して行動するようになるため、その結果として独裁制は民衆の暗黙の支持に基づいて存続すると考えられるのです(Tullock 1987: Ch. 7)。

これを裏返して考えると、独裁制の下で政治家が権力の座に留まるためには、国民生活を完全に無視するわけにはいかないということが分かります。
もし労働や余暇が失業や貧困で奪われてしまえば、民衆はそれだけ反政府活動に参加する動機が強化される恐れがあります。

結びにかえて
もちろん、著者の分析は一つの理論モデルの話であり、具体的状況に一般化できるものではありません。しかし、この分析は同時に独裁制であっても政治家は権力を掌握し続けるためには、民衆の生活水準の向上に関心を払う必要があることを示しています。

1933年にヒトラーが政権を獲得した直後に発表した政策が、失業対策と産業振興を柱とする経済政策でした。特に道路や住宅の建設を推進して多くの雇用を創出し、失業率を低下させ、国民総生産を向上させたことを考えれば、独裁政権を維持する上で国民生活への配慮が重視されていたことが分かります。

独裁制は民主制と大きく異なる政治システムではありますが、だからといって政治家の行動を支配する政治のルールまでもが異なっているわけではありません。どのような場合であれ、政治家は権力を掌握し続けるため、国民が何を求めているのかを多かれ少なかれ知ることが必要なのです。

KT

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