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2015年8月1日土曜日

文献紹介 平和学の戦争論


平和学(peace studies)とは、戦争の原因とその帰結を解明し、紛争解決と平和維持の方法を考案するための学際的な研究をいいます。
この分野ではラパポート、リチャードソン、ボールディング、ガルトゥングなどが著名な研究者が知られているのですが、今回はクインシー・ライトの古典的研究を紹介したいと思います。

文献情報
Wright, Quincy. 1964(1942). A Study of War, Chicago: University of Chicago Press.

ライトはこの著作の冒頭で、戦争というものに対する態度には二種類あることを指摘しています。
第一の態度は戦争は回避すべき暴力行為であり、解決すべき問題として戦争を把握するものであり、第二の態度は戦争を外交官や戦略家、政治家によって適切に指導されるべき手段として把握するものです(Wright 1964: 3)。

ライトが示唆しているように、平和学の戦争に対する態度は前者のそれに区分されます。
グローバリゼーションの進展によって経済、文化、政治などの分野における国家間の相互依存が深まった現代の世界において、戦争が政策手段として扱い辛くなっていること、武器の発達によって軍事行動に伴う一般市民の損害が拡大する傾向にあることなどが、こうした関心を高めることに影響していると考えられています(Wright 1964: 4-5)。

そこでライトは平和学の研究を進めるに当たって、いくつかの推計を示しながら、戦争の特徴について考察しています。

軍事行動の最小単位である戦闘に注目してみると、ここにもさまざまな形態が見て取れますが、ライトが特に注目しているのは計量的な側面です。
これまでに1,000名以上の死傷者を伴って戦われた陸上戦闘と、ないし500名以上の死傷者が出た海上戦闘の回数を合計すると、およそ3,000件にもなります(Wright 1964: 9)。

ここで数え上げられているのは、死傷者の規模から見て比較的大規模な戦闘だけですので、より小さな戦闘を含ませれば、もっと大きな数字になるでしょう(Wright 1964: 9)。

次に戦争それ自体について検討すると、1480年から1964年の間に発生した戦争は少なくとも284件と数えられています(Wright 1964: 11)。ここで数えられている戦争はごく中小国の戦争から大国の戦争まで幅広く測定の対象とされたものです。

このように定量的な観点から戦争の歴史を観察すると、その時代が変化するにつれて戦争の形態が変化していることが数値として分かってきます。

例えば、ライトは先ほどの294件の戦争を一般的に検討したところ、戦争に参戦する交戦国の数の平均値が変化する傾向があることを指摘しています。
15世紀から16世紀にかけて一回の戦争に参戦する国家の数は平均的に2.4カ国でした。これが17世紀には2.6カ国、18世紀には3.7カ国、19世紀には3.2カ国、20世紀には5カ国と推移しています(Wright 1964: 57)。
ちなみに19世紀における戦争の交戦国数の平均が減少している理由についてライトは植民地での部族に対する戦争や内戦の件数が増加したことによるものと説明しています(Wright 1964: 57)。

こうした分析だけではなく、ライトは勢力均衡と戦争の関係、国内政治と戦争の関係、社会情勢と戦争の関係などについても網羅的に考察を加えています。

この記事ではごく一部の分析しか紹介することはできませんが、ライトの研究が成立して間もない時期にあった平和学の発展に寄与したところは極めて大きいと言えます。
統計や数理を駆使した戦争の分析は、その後の平和学の方法論として受け入れられています。
確かにその研究内容には陳腐化してしまった部分もありますが、平和学の古典の一つとして読み返される価値がある文献だと思います。

KT

参考:目次構成
1.戦争の概念
2.戦争の歴史
3.近代の戦争
4.歴史での戦争の変化
5.戦争の因果関係
6.勢力均衡
7.政策と勢力
8.制度と政治
9.法律と暴力
10.主権と戦争
11.法律と政治
12.民族主義と戦争
13.民族の調和
14.社会的統合と戦争
15.世論と戦争
16.人口変動と戦争
17.資源利用と戦争
18.人間本性と戦争
19.国際関係の分析
20.戦争の公算
21.戦争の原因
22.平和の条件
23.総合と実践
24.戦争の予防
25.平和の機構

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