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2015年7月28日火曜日

基本戦術と応用戦術の区分とその意義


戦術とは戦闘で部隊を運用するための技術であり、また科学でもあります。
軍隊の教育、特に士官の教育において重要な課題の一つは、この戦術をいかに教育することが適切であるのかというものです。

今回は、この論点に関して考察を加えたバルク(William Balck)の研究を紹介したいと思います。

もともと戦術の教授法については二つの考え方が議論されていました。一つは演繹的思考を重視する立場であり、これは戦術の原則を示した上で、数理的、理論的アプローチに沿って論理的に戦術を検討させるものです。
これは非常に堅実な教授法に見えるのですが、教官と学生の才能によって教育効果に大きな相違が見られるという欠点があったことが指摘されています(Balck 1915: 10)。

そこで、もう一つは機能的思考を重視する立場が重要な意味を持つと指摘されます。
これは戦史の事例を示した上で、歴史的、実証的アプローチから戦術を考察させる特徴がありました(Balck 1915: 11)。問題は、これらをどのように組み合わせて教育すべきかという点です。

バルクはこの問題について戦術学の授業では基本戦術(formal tactics)と応用戦術(applied tactics)の二種類の学問に区分して考えるのが良いとして、次のように説明しています。
「1.基本戦術とは、教練規則を取り扱う。戦術のこの部分は集結、行進、戦闘の際における部隊によってとられる陣形を構成し、他の職種との協同、地形の効果を考慮に入れない単独行動をとる部隊の戦闘において実行される規則を包括している」(Balck 1915: 12)
「2.応用戦術とは、行進、宿営、戦闘において複数の職種の部隊による協働連携を取扱い、野戦における地形、季節、時間の影響をも考慮に入れる」(Balck: 1915: 12)
ここで興味深いのは、戦術を学ぶための導入である基本戦術として「教練」が位置付けられている部分であり、各種状況を想定した戦術はすべて応用戦術として教育されるべきとされています。

教練にもさまざまな種類があり、各個の教練と部隊教練などに分類されることもありますが、いずれにせよ戦術学で研究されるべきというイメージはないかもしれません。
無論、バルクは教練それ自体が戦術であると考えたわけではありませんでした(Balck 1915: 15)。
教練というものは軍隊において不動の規則であり、あらゆる部隊行動の基本となる標準的な動作、隊形、運動などを一律に定めるものに他なりません。

それでは、戦術の基礎として基本戦術を区分し、教練規則を詳細に研究することが戦術家としての能力の基礎を養うことに果たして寄与するのかという疑問が提起されるでしょう。

バルクによれば、近代的な戦争における戦術の特徴は、非定型的ではないということです。
言い換えれば、戦場で士官が直面する問題が教範で教えられた戦術の知識で解決できるものばかりとは限りません。そうした状況においては士官が自らの創造性を発揮して、独自の解決を図ることが不可欠です。

バルクは、そのような場面では教練に基づく定型化された戦術の知識が役立つと考えました(Balck 1915: 16)。というのも、基本戦術で示された部隊行動の組み合わせを現場の状況に応じて修正することにより、あらゆる種類の応用戦術を指示することが可能になるためです。

ここで先ほど述べた戦術の演繹的アプローチと帰納的アプローチの総合が効果を発揮します。
基本戦術はいわば演繹的アプローチで考察される戦術であり、応用戦術は状況の特性に応じて基本戦術を組み合わせる戦術です。バルクが基本戦術として教練を教育することの重要性を強調した理由は、まさにこの点にありました。
「心理的要素の真価を適切に認めない戦術の教義は、無意味な衒学に陥る」(Balck 1915: 16)。
ここでのバルクの言葉が示唆しているように、戦術家にとって最も重要なことは理論が実践と結び付くことに他なりません。
基本戦術と応用戦術の区分は、戦術の科学的理解と技術的理解の両方が重要であることを、よく示唆していると思います。

KT

参考文献
Balck, W. 1915. Tactics, Vol. 2. W. Kruger, trans. Fort Leavenworth: U.S. Cavalry Association.

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