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2015年7月20日月曜日

軍備と抑止、マキアヴェッリの論考から


一般に抑止という概念が明確に定義されるようになったのは、現代以降のことであると考えられています。
しかし、近世の政治学者マキアヴェッリの論考を読むと、専門用語として定着する遥か以前から、このような考え方が存在してきたことをうかがい知ることができます。

マキアヴェッリは国家の軍備が十分であるかどうかを判断する基準に関連して、次のような言葉を書き残しています。
「自力で守れる君主とは、豊富な人的資源と財力によって十分な軍隊を組織し、いかなる侵略者に対しても野戦を挑むことができるものをさす。これに反し、たえず第三者を必要とする君主とは、野に出て敵と対峙することができず、城内に引きこもって敵勢を迎え撃たなくてはならないものをさすのである」(マキアヴェリ、85頁)
第一の君主の方が、第二の君主よりも強力な軍隊を指揮することが可能だと分かりますが、マキアヴェッリは第二の場合であっても十分な準備を整えておくことさえできれば、自国を防衛することは可能であると論じています。

具体的なマキアヴェッリの助言のいくつかを紹介すると、都市の防備を堅固にし、軍需品を貯蓄しておくこと、都市の外部にある所領の防衛は放棄し、戦力を分割して配備しないことなどが述べられています。

防御者がこれらの準備を正しく行うならば、攻撃者はこれを攻略するために必要とする費用が非常に大きくなる事態を覚悟して開戦を決断しなければならなくなります。
これはまさに現代の安全保障学で考えられているところの抑止の概念に対応する考え方です。
「強力な城市を持ち、しかも民衆の憎しみを受けていない君主は、攻撃されることはありえないのである。また、仮に攻撃されたとしても、侵略者は恥をかいて逃げ延びるのが落ちであろう。というのは、この世の事態はまことに変幻自在であるから、軍隊を引き連れたまま一年間も、ゆうちょうに敵を包囲していることなどとてもできない相談だからである」(マキアヴェリ、86頁)
マキアヴェッリは、そもそも戦争が攻撃者と防御者の相互作用で展開されるものであることをよく理解していました。
もし攻撃者が作戦のコストが増大し、作戦を継続するメリットを感じられなくなれば、攻撃は停止し、防御もそれに応じて停止するため、戦争それ自体が収束します。
だからこそ、戦争を回避するために、戦争の準備が欠かせない、ということが言えるのです。

もちろん、マキアヴェッリは常に抑止が成功する状況ばかりではないことも承知していました。
もし敵が有利な情勢判断を下し、自国に対して進攻を開始すれば、平和は失われてしまいます。

しかし、ここで重要なことは最小限度の軍備さえあれば、敵の攻撃によって平和が失われたとしても、国家の独立までもが同時に失われる状況は避けることができます。
次にマキアヴェッリが指し示す行動は明快そのものです。すなわち、その軍備を用いて敵を打ち破るのです。

KT

参考文献
マキアヴェリ「政略論 ティトゥス・リウィウス『ローマ史』に基づく論考」『世界の名著マキアヴェリ』会田雄次訳、中央公論社、1966年

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