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2015年7月7日火曜日

なぜ軍人は挙手の敬礼をするのか

 
敬礼は世界各国の軍人に広く共有された文化の一種と言えます。
国によって姿勢は微妙に異なるのですが、一例として挙手の敬礼を簡単に紹介すると以下の通りです。

まず気を付けの姿勢(不動の姿勢)を基本とし、右肘は体側に対して90度の角度で持ち上げて地面に対して大体水平を保ちます。
さらに、五指をまっすぐに揃えながら右手の人差し指と中指の間がちょうど右目の右上方向と帽子のひさしとの交点に位置するようにします。
他にも細かい注意点があるのですが、これが挙手の敬礼の概要と言えます。

そもそも、なぜ軍人はこのような挙手の敬礼をするのでしょうか。挙手の敬礼の由来は何なのでしょうか。
この疑問についてこれまでさまざまな仮説が提示されてきましたが、結局のところ研究者の間で諸説分かれており、明確な結論が得られたわけではありません。
ここではJohn F. Geraci(2013)の整理を踏まえて二つの仮説を紹介してみたいと思います。

まず歴史的な観点から見てみると、右腕を上げる敬礼は古代ローマの軍隊において始まったという仮説があります。
これは語源からも裏付けられている考え方であり、英語で敬礼を意味するsaluteはラテン語のsalutareに由来しています(Geraci 2013: 698)。
このラテン語の本来の意味は「敬意を表す」というものです。これが敬礼の起源の一つという考え方があります。
ただし、ローマ軍の敬礼は右腕を高く上げる敬礼であり、敬礼の形が現在の挙手の敬礼と異なるという批判があります。

これとは異なるもう一つの考え方は、騎士の時代における慣習に由来するという考え方です。
中世のヨーロッパでは武装した騎士が相手に対して敵意を持たないことを示す際には兜の面頬を上げる動作をして見せていたとされています。
こうすることで、自分が何者であるかを相手に対して明らかにする習慣が戦場で形成されていたと考えられています。
つまり、挙手の敬礼はこの動作の名残として兜を装着しなくなった後にも残った戦場の慣習ではないかと考えられます(Geraci 2013: 698)。
これも仮説の域は出ませんが、こちらは先ほどのローマの敬礼と比べれば、より現代の敬礼の形に近い形式であるということが言えるでしょう。

今回の記事で取り上げたのは主に挙手の敬礼の由来をめぐる説の状況ですが、軍隊の敬礼は挙手の敬礼だけではありません。
捧げ銃の敬礼、着剣捧げ銃の敬礼、姿勢を正す敬礼などの形態もあり、小火器を使用する敬礼と重火器を使用する敬礼でもまた種類が異なってきます。

これらの敬礼も同じように戦場での過去の慣習から発展して成立した事例が多く、軍隊の敬礼は戦場の硝煙の中で形成された文化的慣習の一種であることが伺われます。
このように人類学的、歴史的な観点から軍隊の文化を考察することもまた、戦争に対する理解を深めるアプローチとして有用ではないかと思います。

参考文献
Geraci, John F. 2013. "Customs and Etiquette," Piehler, G. K., ed. Encyclopedia of Military Science, London: Sage, pp..697-702.

関連文献
Boatner, M. M. 1956. Military Customs and Traditions, New York: D. McKay.
Hackett, J. 1983. The Profession of Arms, New York: Macmillan.
Melagari, V. 1972. The World's Great Regiments, London: Hamlyn.

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