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2015年7月15日水曜日

論文紹介 図上研究で考える潜水艦の戦術


潜水艦の戦術は秘匿されている部分が少なくないため、国内外の文献を研究しても知りうるところは限られています。
しかし、すべての研究が秘匿されているわけではありません。その興味深い内容について知ることができる研究成果も一部には存在しています。

今回は、秘密が多い潜水艦の戦術を取り上げた研究論文を紹介してみたいと思います。
こうした研究を通じて、戦術的な観点から潜水艦の興味深い戦闘能力について考えるきっかけになればと思います。

論文情報
Bakos, George K. 1995. "Submarine Approach and Attack Tactics: Simulation and Analysis," Master's Thesis, Naval Postgraduate School, Monterey California.

この論文の目的は、米海軍として通常動力型の潜水艦の戦術を研究することにあります。
特に著者は、ある哨戒区域に進入してきた敵の水上艦艇を魚雷で効果的に撃沈するための戦術を解明することに焦点を絞っています。

この論文では目標運動解析(target motion analysis)とモンテカルロ法という乱数を組み合わせたシミュレーションによって、それぞれの戦術の成功率を導き出しているのですが、ここでは紙面の都合から方法論的な説明は割愛します。

まず、潜水艦の戦術では次の二点が問題となります。第一に、水上艦艇による反撃を回避するために、潜水艦はその存在を決して敵に探知される距離まで接近してはいけません。

第二に、潜水艦は目標の動きを基本的にパッシブ・ソナーで判断し、予想される敵の針路を考慮しながら自艦の速力や針路、魚雷を発射する位置などを選択しなければなりません。
これらの考慮事項を図上に表現することで、潜水艦が選択可能な戦術の特性を考えることができるようになります。
左下の潜水艦と左上の攻撃目標との位置関係を示す三角形。
海上戦闘では彼我の未来位置を判断することが極めて重要な問題である。
この図では、潜水艦がどの未来位置で相手に魚雷を命中させるかが図示されている。
(Bakos 1995: 13)より引用。
この研究では著者は、潜水艦の戦術を最も一般的に四種類の機動に分類することで整理しています。
第一の戦術では探知した攻撃目標の将来位置を判断し、そこに針路を向けておくことで、敵が自艦の前方に進出してくるように機動する戦術です。
(Bakos 1995: 24)より引用。
この戦術の利点は潜水艦が最も効果的に攻撃目標に接近することが可能であるということであり、攻撃目標を確実に魚雷を命中させることが期待されます(Bakos 1995: 24)。
ただし、このように機動すると次の攻撃段階に移ることが難しくなるという欠点はあります。

シミュレーションの結果によると、攻撃目標の速力が低速な10ノットであり、潜水艦の速力が8ノットであれば、攻撃の成功率は80%に達しており極めて高い水準にあります。しかし、攻撃目標の速力が18ノット以上の場合、攻撃の成功率は50パーセントを下回ってしまいます(Bakos 1995: 25-26)。

二つ目の戦術は、先ほどの戦術とは異なり、目標を探知してもすぐに目標の未来位置に向けて自艦の針路を変更することはしないのが特徴です。
つまり、最初に探知した攻撃目標の位置に向けて進み、敵をほぼ背後から雷撃する戦術です。
(Bakos 1995: 28)より引用。
この戦術の最大の利点は、敵から反撃を受けにくいということです。しかし、攻撃目標の速力によっては相手が魚雷の射程から離脱してしまう危険はあります。

シミュレーションの結果を見ても、攻撃目標の速力が24ノット以上の場合、この戦術の成功率は10%以下にまで落ち込みます。成功率の最大値は攻撃目標が16ノットから18ノットで航行している場合の65%と報告されています(Bakos 1995: 29-30)。
(Bakos 1995: 32)より引用。
第三の戦術は、より複雑な方法で目標を雷撃するものです。これは第二の段階まで第一の戦術と類似していますが、魚雷を発射した後に再び変針して後続の敵の艦船に針路を向ける戦術です。

このような戦術であれば、攻撃目標が魚雷の射程から離脱する危険は最小限度に抑制されますが、やはり次の攻撃に移ることが難しいなどの不利があります。
分析結果を評価すると、攻撃の最高成功率は攻撃目標が14のノットから16ノットを選択している場合の60%程度です。

最後の戦術は、目標を最初に探知した後も針路を保持する点では第二の戦術と類似しますが、第三の段階で針路を攻撃目標の現在地に向ける点で大きく異なっています。
(Bakos 1995: 36)より引用。
シミュレーション結果を見れば、この戦術はこれまで比較してきた戦術で最も低い成功率しか得られないことが分かっています。最も理想的な状況として攻撃目標が12ノットを選択している状況でも30%強の成功率しか得られません(Bakos 1995: 35-39)。

以上の分析結果から、それぞれの戦術に特徴があり、彼我の速力によって成功率が変化するものの、最も高い成功率が期待されるのは、第一の戦術であることが確認されました。

ただし、ここで述べた研究は仮想の状況に基づく分析であり、実際のデータを用いた研究成果については一般に公開されていません。
これはあくまでも特定的な状況を想定した兵棋演習の一種である点には注意しなければなりません。それでも、現代の海上作戦で重要な役割を果たしている潜水艦の戦術の一端を示すものとして、興味深い分析だと思います。

KT

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