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2015年7月9日木曜日

論文紹介 いかに空軍の後方支援はあるべきか


一般的に思い描かれる航空作戦のイメージは、空中で敏速に機動しながら戦う航空機の戦闘です。しかし、より大局から見れば航空作戦は空中で戦われる前の段階、つまり地上で航空機が補給・整備を受ける段階から始まっていると言えます。

今回は、航空作戦でもあまり目立たない後方支援に関する教義について考察した研究成果を紹介したいと思います。

文献情報
Reynolds, Dennis L. 1989. Combat Support Doctrine: Guidance or Hinderance? Research Report, Maxwell: Air War College.

この研究で展開された著者の議論の出発点になるのは、1985年に米空軍が初めて兵站、特に後方支援に関する包括的な教義を明らかにした教範『空軍教範1-10:後方支援教義(Air Force Manual 1-10: Combat Support Doctrine)』です。

そもそも教義とは軍隊の作戦の基礎的原則であり、したがって平時における教育訓練の内容を定める基準としての性格もあります。
したがって、『後方支援教義』は、空軍として戦闘力を創出し、それを維持する方法に関する教義として非常に幅広い活動に適用されることが想定されています。

この教範の内容を少しだけ取り上げて紹介すると、例えば航空戦力に対する後方支援の原則として以下のものが列挙されています。
即ち、目標の原則、リーダーシップの原則、効率の原則、障害/摩擦の原則、均衡の原則、統制の原則、柔軟の原則、調整の原則です(Reynold 1989: 16)。

著者はこれらの原則は確かに兵站の研究で一般的に受け入れられている原則ともよく一致しているとしながらも、航空作戦における兵站の特性が十分に考慮されたものとは言えないと批判しています。特にいくつかの原則に関しては明確に抹消されるべき原則である、とさえ述べています(Reynold 1989: 30)。

この理由を説明するために著者は、当時の米軍が想定する主戦場がどこであるかを思い出す必要があることを指摘しています。

つまり、ワルシャワ条約機構軍と北大西洋条約機構軍が対峙するヨーロッパ地域こそが米空軍の考える戦域であり、ここで戦争が開始されるとソ連は第一撃をもって最優先の攻撃目標である米国の空軍基地に徹底した攻撃を加えることが予想されていました(Reynold 1989: 24)。
このような流動的な状況において米空軍の後方支援が停滞し、航空機の出撃する機会が失われることがあれば、その戦略的影響は致命的なものになりえます。

『空軍後方支援』の問題点として著者が特に強調しているのは自己完結(self-sufficiency)の原則が盛り込まれていない点です。
従来の教義では空軍基地が他の民間企業や基地の外部の地上設備との連絡線が途絶えることが考慮されていないため、大規模な戦争が勃発して外部との連絡が取れなくなると、後方支援の機能が全般的に阻害されてしまう恐れがあります。

著者は補給や通信などあらゆる後方支援の能力において外部依存の度合いを最小限度に抑制すべきであり、これらの努力は結果として航空戦力の生存性を高めることに寄与すると考えました。

もちろん、著者は『後方支援教義』のすべてを全否定することはしておらず、全体として空軍の兵站の在り方を指導する有効な指針として評価はしています。
しかし、教義は単なる理論体系ではなく、実際に有用なものであるべきであり、そのためには実戦的な検証と研究努力が必要であるということが結論として述べられています(Reynold 1989: 39-40)。

この研究で著者が指摘している問題は、単に整備や補給の重要性を指摘するに止まるものではなりません。
第一撃によって施設や人員に損害が発生し、外部との連絡が途絶しても、なお飛行隊を出撃させるだけの持久力を持った後方支援能力こそが空軍の兵站のあるべき姿であることが述べられています。

KT

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