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2015年7月12日日曜日

論文紹介 東アジア地域の安定と日本の島嶼防衛


米国では中国を抑止する戦略に関する研究報告が活発であり、全般としてまだ理論的分析の段階ではありますが、中国が海洋に進出するための戦力増強を進める事態に対してどのような戦略で対抗すべきかが考察されています。

これまでにはエアシー・バトル(AirSea Battle)という名称の下で、米国が持つ優勢な航空戦力と海上戦力の役割が強調されることが多かったのですが、最近では島嶼に陸上戦力を配備することの重要性が認識されるようになりつつあります。
今回は、そうした議論でも特に日本の島嶼防衛との関係が深い部分を取り上げてみたいと思います。

文献情報
Yoshihara, Toshi, and James R. Holmes, James R. 2012. "Asymmetric Warfare, American
Style," Proceedings, Vol. 138/4/1310: 25-29.(邦訳「アメリカ流非対称戦争」石原敬浩訳『海幹校戦略研究』2012年5月(2・1増)、112-120頁)

この研究は中国が海洋へ勢力を進出させる動きに対して、米国として採用すべき戦略を考察したものであり、既に日本の防衛戦略との関連で検討が進められている研究の一つでもありますが、今回は台湾有事に関する分析を中心に一部の内容を紹介しましょう。

中国がもし台湾に対する作戦を開始するとすれば、台湾の西岸に攻勢を仕掛けるだけでは十分ではありません。
なぜなら、西太平洋から台湾に外部から物資、武器、人員が搬入される事態を防止するために、台湾の東岸に対しても海上戦力を進出させなければならないためです。
このことは、中国として南西諸島の狭隘な海峡を確保する必要が出てくることを意味します。

そのため、南西方面において日本が島嶼防衛の能力を向上させることは、日本の防衛のみならず、台湾に対する中国の攻撃を抑制する上でも有効であることを著者は指摘しています。
「(南西方面の)島嶼部に接近阻止、地域拒否の部隊を展開することによって、日本と米国の守備隊は中国の水上艦艇、潜水艦部隊、および航空部隊が太平洋の公海へ向かう重要な出入口を封鎖することが可能である」
これと類似の理由により、フィリピンのルソン島も戦略的に重要な役割を果たすことが論じられています。具体的には台湾とフィリピンの中間に存在するルソン海峡で中国の海上戦力が通過することを阻止するためには、最寄のルソン島北部に地対艦ミサイルを配備することが有効なためです。

戦略的な価値のある海上交通路に近接する島嶼部をミサイル部隊によって守備する取り組みが、日本だけでなくフィリピンなどでも成功すれば、中国海軍は台湾有事に踏み切って攻撃を開始しても、思うように西太平洋海域に進出することができなくなってしまいます。
それだけでなく、自国の海上戦力が第一列島線の内側に閉じ込められることになり、西太平洋を自由に移動することが可能な米国の海上戦力に対して極めて不利な態勢で戦わなければならなくなります。

著者は、以上の理由から、アジアの同盟国、友好国との連携を拡大することが米国にとって極めて重要であることを強調しています。

このような分析で興味深い点は、日本の島嶼防衛が日本だけでなく東アジア地域の全体的な戦略的均衡に重大な影響を及ぼしうる可能性が明らかにされている点です。
裏返して考えれば中国の海洋進出に対抗する上で、日本の防衛戦略を日本だけの都合で考えることは中国の攻撃を抑止する上で危険を伴っていることをも示唆しています。

KT

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