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2015年7月2日木曜日

文献紹介 2030年、東アジア地域で何が起きるか


あらゆる政策決定の基本となるのは正しい情勢判断であり、情勢判断は将来に起こりうるシナリオを詳細に検討する作業を必要とします。
今回は、東アジア地域における日本、中国、米国の三カ国の相互関係の推移をシナリオごとに分類し、発生の公算などを検討した研究を紹介したいと思います。

文献情報
Swaine, Michael D., Mochizuki, Mike M., Brown, Michael L., Giarra, Paul S., Paal, Douglas H., Odell, Rachel Esplin, Lu, Raymond, Palmer, Oliver, Ren, Wu. 2010. China's Military and the U.S.-Japan Alliance in 2030: A Strategic Net Assessment, Washington, D.C.: Carnegie Endowment for International Peace.

目次
1.はじめに
2.分析結果の要点
3.分析方法
4.日米中のシナリオ
5.日米中の六つのシナリオ
6.日米同盟に望ましい政策選択

この研究の結論を要約すると、東アジア地域で中国が継続する軍備増強を阻止する確実な手段は存在しておらず、日本と米国は事態が政治的、軍事的危機に発展する危険に対処せざるをえなくなるということが述べられています。

このような結論は、少なくとも研究者の間で既に繰り返し確認されている将来の展望ではあります。
この研究の独自性が何かと言えば、体系的なシナリオ分析が展開されている点です。
つまり、最も公算の高いシナリオから発生する公算が低いシナリオまで網羅的に検討が加えられていることが挙げられます。

2030年までの視野で考えた場合、最も発生する公算が高いと見積もられているシナリオは「均衡の喪失」と呼称されるものです。
これは全般として見ると中国より日本、米国側にとって軍事的に優勢な状況でありますが、政治的、軍事的安定はやや不安定であり、中国と米国の軍事支出が対GDP比率が高い水準で推移し、日本の軍事支出が低いまま推移することで2030年に発生すると見積られます。
部分的にではありますが、日米同盟にとって優勢な状況であると言えます。

それ以外のシナリオも見てみると、全部で以下の通り6種類に分類されます。
・均衡の喪失:最も発生の公算が高い
・限定紛争:発生の公算は高い
・脅威の軽減:発生の公算あり
・アジア冷戦:発生の公算は低い
・中国の地域覇権:発生の公算は限定的
・日中対決:最も発生の公算が低い

すべてを詳細に説明することはできませんが、発生の公算が二番目に高い限定紛争のシナリオの詳細を見てみます。このシナリオでは中国が戦わずして日本と係争中の地域を支配する可能性が指摘されています。
つまり、優勢な中国の脅迫に対して劣勢な日本が宥和を選択せざるを得ないほど追い込まれた状況であり、米国としても日本と共同して中国が仕掛けてくる軍事的危機に武力で抵抗するまでには至らないので限定的な形態での紛争が発生します。

ちなみに、このシナリオの前提とされているのは、中国と米国GDPに対する軍事支出を非常に高い水準で維持しているのに対して、米国と日本の水準が低いまま推移することにより発生すると見積もられています。

また発生の公算が低いとされる中国のアジア地域における覇権が確立されるシナリオですが、この状況が発生する主要な要因は西太平洋で米国の勢力が後退することであり、劣勢に立たされた日本が中国と協調する路線を選択した場合に発生すると考えられています。

最も発生確率が低いと見なされている日中対決の要因について見てみると、これは米国がアジアから完全に勢力を後退させ、日本が自主防衛を選択して核開発を実施し、かつ中国が積極的に現状打破を意図する政策を選択することで発生します。
このシナリオになった場合の中国の軍事的優勢は日本が宥和路線に転じて中国と協調使用とする場合よりも限定的となってしまうため、中国として望ましい事態とは言えなくなります。

東アジア地域の将来についてはさまざまなシナリオが考えられるのですが、基本的には日本と米国の同盟に優勢な状況で推移する公算が強いと考えられます。ただし、最も発生率が高いと考えられている均衡の喪失ではなく限定紛争のシナリオが発生した場合に注意が必要な点があります。

なぜなら、このシナリオの場合には日本周辺地域における米国の軍事的優勢が中国の軍事力の相対的な強化によって低減するので、国際情勢としては非常に優劣が不明確な状態になりやすいためです。
勢力関係の優劣が不明確だと中国を抑止することはより難しいことが予想されます。

KT

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