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2015年6月4日木曜日

支持基盤理論はいかに政治を説明するか


政治学は統一された総合理論に欠けているところがあると言われることもあるのですが、今回は政治学でも特に大きな射程を持つ支持基盤理論(selectrate theory)の要点を一部説明してみたいと思います。

支持基盤理論の特徴は政治権力をめぐって絶えず権力闘争が発生していることを議論の大前提に置く点です。つまり、政権を維持する側と政権を打倒する側の競合を中心に政治というものを考えようとします。

もし政治指導者として権力者の地位を獲得することができたとしても、その地位は絶えず政敵によって脅かされており、指導者はその脅威に対処することができるように、自分の味方を固めておく必要が出てきます。

そこで政治権力を掌握するためには指導者が依拠する集団のことを、支持基盤理論では勝利連合(winning coalition)、実質的支持基盤(real selectrate)、名目的支持基盤(nominal selectrate)の三種類の集団に区別します。
これらの分類は権力基盤として、どの程度の価値があるかを反映しており、指導者はこれらの集団を巧みに管理することによって政権を安定させることが可能となります。

この中でも特に勝利連合は政権の運営にとって欠かすことができない有力者集団であり、常に味方として引き付けておく必要があります。
第二の実質的支持基盤は政権に影響力を与えることができる支持者の集団のことであり、勝利連合の内部から政敵が出現したために政権から排除した場合、こちらの集団から人材を補充することができます。

名目的支持基盤は形式的には指導者の選出に対して発言権を持っていますが、実際の政権基盤ではない集団をいいます。彼らは参政権は持っており、納税者でもあるのですが実質的な影響力は持っていないので、権力基盤としての価値は限定されています。

このような分類によってさまざまなことが分かります。例えば、政治体制の特徴を比較したり、また政権の安定性を考えることが可能となります。

一般に政権を維持するためには、勝利連合を小さく管理し、反対に名目的支持基盤を大きい維持する方が有利であると考えられています。
なぜなら、名目的支持基盤が大きいと課税対象者も増加して歳入を増やすことができますが、勝利連合が小さいと、内部から政権に拒否権を行使する行為主体を簡単に排除したり、そうした行動を抑制することがやりやすいためです。このことを次のデータから少し考えてみたいと思います。

ブエノ・デ・メスキータが紹介している分析によると、2006年におけるロシアの勝利連合の相対的な大きさは名目的支持基盤、つまり参政権を持つ国民全体の規模、に対して30%弱と見積もられています。また名目的支持基盤の規模は総人口の全体を包括しています(Bueno de Mesquita 2014: 84)。

ロシアと比較してイランの場合を見てみると、名目的支持基盤の規模は総人口のおよそ80%程度になっていますが、総人口に対する勝利連合の規模は5%以下でありロシア以上に権力が特定の人物に集中しやすい政治体制であることが分かります(Ibid.)。
つまり、名目的支持基盤の大きさではロシアの方が優れていますが、勝利連合を小さく管理する点に関して言えばイランの方がより安定性は高いということが言えます。

イランのように勝利連合の規模が小さいだけでなく、総人口に対する名目的支持基盤の相対的な規模も10%以下である国に中国があります。
この国はイランと同程度かそれ以上の権力の集中が見られますが、イランと決定的に異なっているのは総人口の中で名目的支持基盤を構成する住民が限定されている点です。
総人口に対する名目的支持基盤の割合が小さいことは、政権が依拠する権力基盤の下位組織が小さいことを意味しており、特に歳入を拡充しにくい事情を表しています(Ibid.)。

ここで述べたことは支持基盤理論のごく一部に過ぎませんが、政権の運営という観点から政治を考える上で興味深い理論であることがお分かり頂ければと思います。

KT

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参考文献
Bueno de Mesquita, Bruce B., Smith, A., Siverson, R. M., Morrow, J. D. 2003. The Logic of Political Survival, Cambridge: MIT Press.
※また、本書で使用されているデータ・ソースはThe Logic of Political Survival Data Sourceで参照できる。
Bueno de Mesquita, Bruce. 2014. Principles of International Politics, 5th edition. London: Sage.

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