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2015年5月20日水曜日

文献紹介 戦時経済の問題とは何か


兵站はしばしば軍事兵站のことだけを指して用いられますが、近代以降の戦争においてこの理解は間違っています。

なぜなら、近代戦争は自然とその国家の経済力を総合発揮することが必要とされるため、国民経済の総体を広い意味で兵站の一部として管理する場面が多く出てくるためです。
このような経済システムは研究者からしばしば戦時経済または戦争経済と呼ばれています。

今回は、戦時経済の問題について考えるための参考として、第二次世界大戦時に執筆されたドイツの戦時経済に関する著作を紹介したいと思います。

文献情報
Oesterheld, Alfred. 1940. Die deutsche Kriegswirtschaft, Leipzig: Felix Meiner Verlag.(邦訳、エスターヘルト『独逸の戦争経済』独逸文化研究会訳、日光書院、1940年)

この著作は戦時経済の研究書というよりも概説書と位置付けるべきもので、解説されている事柄は生活物品から鉱業資源、金融商品にまで多岐に渡ります。
個々の記述は要約的なものですが、戦時経済の全体像がよく整理されています。

まず戦時経済への転換ついて見てみると、第二次世界大戦が勃発した当時、ドイツ政府は直ちに労働力の再編成のため数十万名にも上る男女の職場移動を実施しました(前掲、2-3頁)。

このような大規模かつ急激な転職を可能にしたのは、平時からドイツで実施されていた非熟練労働者に対する職業訓練計画でした。
非熟練労働者に新開発された産業技術を事前に指導しておく訓練を実施しておくことで、戦時経済に転換した後に製造や運輸などの作業場で迅速に適用できるように準備することができました(前掲3頁)。

ベルリン市の状況を見ても、独ソ戦が始まる1940年までに、およそ50万名の男女が企業の内部または外部における研修を受けており、ドイツが戦時経済での労働力の運用に柔軟性を準備していたことが分かります(前掲、4頁)。

また企業の側に注目すると、戦時経済への転換した際に激増する受注に対処する必要がありました。

この問題についてもドイツでは平時からの措置が講じられていました。
防衛産業だけでなく多数の一般企業に軍需生産に関連する仕事を発注しておくことで、潜在的な防衛生産体制を構築する努力をしていたのです。
1937年の統計によれば、ドイツの製造業における受注のおよそ半数が政府調達に関連しており、特に土木建築業では政府調達が占める割合が70%を超えていたことは、その一例として挙げられます(前掲11頁)。

戦時経済の問題は工業だけでなく農業とも関係してきます。次に農業生産に関する記述を見てみましょう。

ドイツの戦時経済体制で完全に食糧の輸入が封鎖される事態を予想し、さまざまな種類の食糧の生産を国内で確保するための対策がとられました。しかし、農村で若年労働者が兵役のため出征すると女性労働者への依存が高まり、現場で生産力の低下が観察されたことが指摘されています(前掲14頁)。

農業生産に関して特に著者は畜産の生産に十分な注意が必要であると論じている箇所があります。
1939年に実施された家畜調査によれば、当時のドイツにおける牛の頭数は2,390万頭、乳牛はうち1,990万トンとされています(前掲32頁)。
しかし、この頭数を保持するために必要な飼料穀類は莫大な分量であり、農家として穀類の生産を強化するとしても、かなりの部分をソ連からの調達に依存せざるを得ませんでした(前掲33頁)。
バター、マーガリンに関する生産でも同様の注意を払う必要が指摘されています(前掲70頁)。

ごく一部しか紹介できていませんが、ここまでの記述だけでも戦時経済の問題がいかに広範であるかが分かるかと思います。
国家兵站の観点から考えれば、工業、農業はいずれもそれぞれに固有の問題点があります。これらが兵站を通じて軍事行動に与える影響はさらに研究される必要があると私は思います。

KT

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