最近人気の記事

2015年3月25日水曜日

クラウゼヴィッツによる戦争の政治分析

クラウゼヴィッツの名前はジョミニと並んで現代の軍事学の理論的基礎を整えた功績で知られています。
しかし、クラウゼヴィッツは戦争を研究しながらも、政治についても強い関心を持っていたことが著作から伺われます。

今回は、戦争を支配する政治力学を分析するに当たって、クラウゼヴィッツがどのような視点を持っていたのかを紹介したいと思います。
「戦争は元来、一国の知能であるところの少数の政治家および軍人によって発起せられる。そしてこの人達なら、彼等の目標をしっかりと見定めて、戦争に関する一切の事項をいちいち点検することができるだろう」(クラウゼヴィッツ、下362頁)
国際関係で一方の国家が他方の国家に対して戦争により何らかの支配関係を強要する場合、その戦争で使用される軍事的手段の強弱は、政治的目的の大小と正比例する関係にあります。
要するに、達成しようとする政治的目的が大きくなるほど、使用される軍事的手段も強くなるという一般的な傾向があるのです。

この関係を知っていれば、ある国家の首脳部が追求する政治的目的に関する情報から、その軍事作戦の大まかな方針や使用する軍事力の水準などを説明、予測することができます。

しかしながら、クラウゼヴィッツはある国家の首脳部が設定する政治的目的が常に首尾一貫したものであるとは限らない場合があり、それはその首脳部の内部における政争によるものだと議論しています。
「しかしそのほかにも国家の要務に携わる多数の人達があり、かかる場合には、この人達の存在も無視するわけにいかない、とは言えかかる人達がすべて当局者と同じ立場にたって、一切の事情を了解し得るとは限らないだろう。そこで反目や軋轢が生じ、この困難を切りぬけるには、多数の反対者を圧服するような力を必要とする。しかし、この力は十分に強力でないのが通例である」(同上)
ここで示唆されているのは、政策立案に携わる関係者が党派的な対立を繰り広げることを阻止するためには、統帥権をはじめとする戦争指導に必要な権力を特定の部署に集中させることが必要であるということです。
例えば総理大臣を中心として関係省庁の各大臣から構成される現代の国家安全保障会議が挙げられます。

それでも、さまざまな利害関係を持つ政治的勢力が政策論争で一致点を見出すことは容易なことではないのが普通です。
「かかる不一致は、彼我両国のいずれかに生じるし、或はまた双方に生じることもある。いずれにせよ戦争が、本来の純粋な概念とは異なるもの、即ち中途半端な物、内的連関を欠く物となった原因はまさにここにある」(同上)
クラウゼヴィッツがここで想定するのは、戦争で可能な限り戦果を拡大しようとせず、それぞれの政治的利害によって不徹底かつ一貫しない軍事行動が選択されるという状況です。

政治的リーダーシップが脆弱な下で、作戦目標が不明確なまま首脳部がその計画を決裁してしまうと実施段階で現場にさまざまな問題が生じることになります。
というのも、政治的目的が不明確なほど軍事的目標の優先順位も曖昧となり、部隊をより多くの方面に分散せざるをえなくなるためです。

以上の記述から、クラウゼヴィッツが戦争を研究する上で政治分析に精通することが重要であると考えていたことをうかがい知ることができます。
一般に軍事分析では戦地で生起する事象にのみ焦点が絞られるものと考えられがちかもしれませんが、クラウゼヴィッツの説では政治学的な観点がいかに重要であるかが示唆されています。

KT

0 件のコメント:

コメントを投稿