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2015年3月14日土曜日

文献紹介 ハウスホーファーによる地政学への手引き


地政学で国際関係の事象を地図上で研究しようとする場合、初心者はどのような態度で臨めばよいのでしょうか。
ハウスホーファーの説によれば、地政学の研究で最も重要なポイントは覇権を確立する勢力が、どのような地理上の条件の下に他の諸民族に権力を行使するのかということだと考えられます。

今回は、ハウスホーファーの著作から地政学の入門書を紹介し、地政学の研究を進める上でとるべき姿勢について概観してみたいと思います。

文献情報
Haushofer, K., Obst, E., Lautensach, H., and Maull, O. 1928. Bausteine zur Geopolitik, Berlin: Kurt Viwinckel Verlag.(邦訳『地政治学入門』土方定一、坂本徳松訳、新世代叢書、育生社、1941年)

この著作は元来はハウスホーファー、オプスト、ラウテンザッハ、マウルの共著とされており、当時のドイツで研究されていた地政学の動向がよく反映されているのですが、残念ながら第3章までしか訳出されていません。

今回は、ハウスホーファーによって執筆された第2章の「地政治学の基礎・本質及び目標」の内容を紹介したいと思います。(訳語については評者の判断で修正を加えているところがあります。)

まず、ハウスホーファーは地政学の基礎は政治地理学にあると主張しており、地政学の研究を進めるためには、研究者に次のような基礎知識が要求されると述べています。
「地政学の最も良き基礎―このために私は地理学者として戦うのだが―は、まず政治地理学の完全な習得であり、しかもこれに止まると言っていい。政治地理学には、もちろん交通地理学、経済地理学ならびに文化地理学、国防地理学等が属する。次には歴史学ならびに国家・社会学等の方法論の習得である。その次に初めて法律学的な勉強が来る。この法律学的な思考方法は時に、未知なる世界に向かっての行動のための能力を損なうことがある」(58頁)
また別の箇所では「地政学はつねに、決して単なる一標語であってはならない」と警告しており、「それは、政治的先見を誇る諸民族の間には、すでに前から存在しているところの国家を空間において確保するために必要なあらゆる諸科学の共同建築」であると説明されています(61頁)。

このように、ハウスホーファーにとって地政学は本質的にまったく新しい学問領域ではなく、あくまでも国家を対象とした地理的考察を総合することで成立する複合的領域であると考えていました。

ただし、その研究は単なる複合的領域ではなく、次のような独自の研究課題によって方向付けられてもいます。
「地政学の本質は、地上の空間に、権力をできるかぎり実現するのに必要とするすべてのものを、政治技術のために準備するばかりでなく、それを思想的にも使用に耐えるものたらしめることにある」(63頁)
「それゆえにこそ、われわれは地政学の役目を、自分自身あるいは他の生存圏に対して政治的に重要な位置を利用したり、悪用したりするあらゆる人の教育の中に要求する。そしてわれわれは将来の地政学的予見の前提として、学校教育における地理、歴史に対し、従来とまったく異なる基準を要求して止まない」 (67頁)
これらの記述から、ハウスホーファーにとって地政学は大学の中で自己完結する学問ではなく、政策決定者や有権者の政治的教養となるべき学問とすべきだと考えていたことが分かります。
地政学は単なる知識ではなく、国家を運営するための能力に転換されることが期待されていました。

こうした役割を期待する地政学の基礎的事項としてハウスホーファーが議論しているのは、大国によって世界各地の中小国が空間的に支配されていることです。
「地政学は特に次のことを教える。すなわち、地表上の18億の全人口のもとにあって、植民地所有列強のごく少数の非常に富裕な人間が、モンスーン地帯諸国の9億5000万の人口を、7000万余のドイツ人を、ヨーロッパ内部および近東ならびにラテンアメリカの被圧迫小国の数百万人民を圧迫し、彼らの自決権を奪うような法は、最高のデモクラシーの原則に従うとき、存在しえないものだということである」(71-72頁)
さらに、ハウスホーファーは海洋国家と大陸国家では地理上の事象に対する認識に相違があると指摘し、マッキンダーの著作を参照しながら、海洋を支配する国家に固有の特性として小空間から遠方にまで勢力を発揮することができるというラッツェルの考察を紹介しています(79-80頁)。

こうした大陸国家と海洋国家で展開される権力闘争というハウスホーファーの理解については、基本的にマッキンダーの学説に依拠したものとなっており、著作でも繰り返し参照されています。

彼の地政学の分析モデルで一貫している要素は、長い歴史は諸民族の権力闘争として地理上に展開されてきたという視点であり、さまざまな地政学の事象を「生存圏」の膨張と縮小から把握されているところでしょう。
その結果、特定の勢力の生存圏は広く地上に拡大し、他方の勢力の生存圏は狭隘にならざるを得ないという説明になります。

この論文は入門者のために執筆したものですので、ハウスホーファーの書き方も自らの研究成果を述べるというよりも、これまでの研究成果を整理することに重点が置かれているのですが、彼が地政学をどのような学問としてイメージしていたのかを知ることができるものと思います。

KT

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