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2015年3月15日日曜日

文献紹介 死傷者30%は全滅を意味するのか


現場の指揮官が頭を悩ませる問題の一つは、部隊がこれ以上の戦闘が可能かどうか見極めることです。

一般に部隊の人的損害が30%に近づくと、これ以上の戦闘の継続が不可能だと判断すべきであるという考え方があります。
これは経験則に基づく大雑把な参考数値として広く知られていますが、戦闘の中断は戦術的に重要な意味を持つ決心であり、その適否によっては部隊の損害を不必要に増大させ、また撃破することができたはずの敵を逃す危険もあるため、より詳細な学問的な検証が必要でした。

今回は、歩兵大隊の観点から損害の比率と戦闘力の喪失の関係を研究した文献を紹介したいと思います。

文献情報
Clark, Dorothy K. 1954. Casualties as a Measure of the Loss of Combat Effectiveness of an Infantry Battalion, Technical Memorandum ORO-T-289, Chevy Chase, MD: Operations Research Office of the Johns Hopkins University.

戦術学の研究では、部隊が攻撃または防御を継続することが困難な状態になる時点のことをブレークポイントと呼びます。
著者はこの研究で次のようなパターンのブレークポイントを分類して考察します。

(1)攻撃から再編成を実施するが、迅速に攻撃が再開できるパターン
(2)攻撃から防御へと移行するパターン
(3)防御から第二線へ退却するパターン
(4)防御から部隊の崩壊による敗走(Clark 1954: 11)

これらは一見すれば異なる事象ですが、部隊としての戦闘力が枯渇し、本来の能力を十分に発揮することができなくなっている状態であるという点で一致します。
混乱によって部隊が潰走に至るような場合は議論の余地がありませんが、(1)のような場合であっても、ある種のブレークポイントに達していると考えることができます。

著者は、これまで多くの陸軍の士官たちがブレークポイントに関して20%から30%の損害を受ければ、それ以上の戦闘行動は考えられないという見解を示してきたことを指摘しつつ、これは極端に単純化された見方であり、実証的に解明する努力が不十分であったことを問題視しています。

著者は、ブレークポイントは部隊の規模(師団、連隊、大隊など)と職種(歩兵、戦車、砲兵など)によって異なるはずであると考え、第二次世界大戦での歩兵大隊を判断基準としながら、ブレークポイントに関する新しい分析を展開しました。

具体的には、第二次世界大戦での作戦に参加した米陸軍の歩兵大隊の記録から、44件のブレークポイントの標本を分析し、通説に反して損害の比率がブレークポイントを決定するという単純な因果関係を見出すことができないことを明らかにしました。

過去の標本を分析した結果によれば、兵卒の累積的損害が7%から48%(平均して26%)に達すると、(1)によって24時間以上を要する再編成の作業に入らなければならず、そうでなければ(2)のブレークポイントによって攻撃から防御に移転せざるをえなくなります。これは従来の20から30%の損害を一つの区切りと考える説と合致するところが多い分析結果と言えます。

しかし、(3)のパターンについては兵卒の損害が37%から69%(平均して52%)に達する場合に観察されており、従来の説の妥当性が限られていることを示唆しています。
したがって、死傷者が30%を超えたとしても、防御戦闘であれば大隊として戦闘力を発揮し続ける可能性はあるものと考えなければなりません。

この研究で特に興味深い発見事項として挙げられているのは、交戦を開始した時点からブレークポイントに至るまでの戦闘時間の経過という媒介要因を考えることで、損害の比率とブレークポイントの因果関係をより正しく理解することができるという点です。

著者は大隊が戦闘を開始してから2日から11日の期間であれば(1)、2日から22日であれば(2)、6日から17日であれば(3)のブレークポイントが多く観察されることを指摘しています。

また、これまでのブレークポイントの考え方にはなかった発見として、士官の損害は下士官や兵卒の損害と異なる影響を部隊に与えることも明らかにされています。

結論において、著者は大隊の損害だけでブレークポイントを判定することができないことを次のように説明しています。すなわち、データは平均的な損耗率だけをもってブレークポイントを判定することができないことは困難であり、少なくともその任務が攻撃と防御のどちらを主眼とするものであるかによってブレークポイントと人的損害の関係は異なっています。

また、ブレークポイントと人的損害の関係を説明するためには、その大隊が戦闘を開始してからどの程度の時間が経過しているかを考慮に入れることが不可欠である、という知見も重要な研究成果と位置付けられています。

もちろん、この研究で述べられているブレークポイントは歩兵大隊の問題に限定されていることには留意しなければなりませんし、後方連絡線の有無や訓練の度合なども考慮して研究をさらに発展させる必要があります。
いずれにせよ、30%をもって部隊の実質的な戦闘力が失われたという考え方は単純にすぎる説であり、戦術家として指揮官は人的損害だけを判断材料としながら戦闘の中断を決心するべきではないと考えられます。

KT

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