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2014年5月19日月曜日

業務連絡 就職活動のため一時休止の連絡

平素よりお世話になっております。

この度、就職活動のため本ブログを一時的に休止させて頂きたいと考えております。
休止時期は5月21日から6月31日までの期間で考えております。

ご愛読いただいている皆様には大変申し訳ありませんが、どうかご了承いただければ幸いです。

KT

2014年5月15日木曜日

安全保障学の現状と課題


最近、安全保障という言葉が非常に普及したことは大変喜ばしいことなのですが、その反面、どのような意味なのか曖昧になっているという感も否めません。

私が普段の研究で使用している定義は「安全保障とは社会の公共的利益に対して脅威を及ぼす状態を防止することを通じて行われる活動」というものです。
完璧な定義というわけではないのですが、この定義から少なくとも安全保障には三つの側面があると言えます。

対外的安全保障 集団から見て外部から及ぼされる脅威に対処する安全保障で、軍隊の任務がこれに対応しています。
対内的安全保障 集団から見て内部から及ぼされる脅威に対処する安全保障であり、これに対応しているのが警察、沿岸警備隊の任務です。
状況的安全保障 以上の二つに含まれない自然災害、感染病など非人為的な脅威に対処する安全保障であり、民間防衛隊や消防などの任務はこれに該当します。

さまざまな整理の仕方があると思いますが、恐らくこの整理が最も直観的に分かりやすく、操作しやすい理解の仕方だと思います。国家安全保障とは本来、これら三つの側面を総合していなければならず、いずれの脅威に対しても万全を期さなければなりません。

こうして見ると、安全保障学は本来、軍事学や警察学で従来扱われていた課題を総合的に研究すべき領域だと言えるのですが、実質的にそこに至っているかどうかは微妙な部分があります。

例えば不正規戦争というのは序盤は対内的安全保障の問題ですが、終盤になると対外的安全保障に変化します。というのも不正規戦争の戦略は攻撃の対象を当初は警察に絞り、次第に軍隊に移らせる戦略だからです。(陸海空軍の一元的な運用を表す統合作戦という用語がある一方で、警察と軍隊の連携を表す専門用語がないことはその一例です)
こうした脅威に対してどのように対処するべきかという問題は対反乱作戦とか対テロ作戦という分野で研究がされているところです。

高度に複雑化し続ける脅威に対処するため、安全保障学の研究課題も拡大していることを自覚し、問題解決に繋がる適格な政策的助言を提供できるよう努力を重ねなければならないと私は考えています。

KT

2014年5月13日火曜日

政治学のパラダイムを変えたシステム分析

デイヴィッド・イーストン、カナダ人の政治学者。
システム分析を政治学に導入した理論研究の業績で有名。
私の専攻は政治学なのですが、大学で後輩を指導していても、「そもそも政治ってなんなの」と言われることが少なくありません。恐らく、巷で流布する「政治学」が学問的な意味での政治学を分かりにくくしているのだと思います。

今回はそうしたイメージを払拭すべく、現代政治理論の最も基本的なモデルを定義したイーストンの著作『政治体系』から、その要点を紹介したいと思います。

1.政治学は政治それ自体ではなく政治の原因と結果を研究する

純粋に学問的な見地から見て、政治というのは集団生活を維持する一つの方法にすぎません。
大学で最低限の訓練を受ければ、政治学が特定の政策や政治家の価値判断をする学問ではないことはすぐに分かります。

なぜなら、政治学は政治が作動した結果として社会にどのような影響が出るのか、という政治の結果か、もしくは、ある社会状態が政治にどのような影響を及ぼしたのか、という政治の原因について研究する学問だからです。

この論点についてイーストンの研究が重要な理由は、従来まで明確ではなかった政治学の基本的モデルを明確に定義されたシステム分析に置き換えて、その後の政治の科学的研究を促したことです。

2.政治学へのシステム分析の導入

システム分析というのは、第二次世界大戦のさなかアメリカで編み出された研究で、ある問題解決に当たって「関連した諸目標とそれらを達成するためのいろいろな政策や戦略を組織的に検討、再検討する」分析と定義されています。

要するにある問題を解決する方法がいくつかある場合に、いずれが最適かを特定する研究の手法ということです(Fisher 1971: 7)。

イーストンは政治学を科学的方法で研究するために、システム分析の考え方を初めて本格的に政治学に取り入れて、政治それ自体を一つのシステムと定義できると論じました。

イーストンは少数の人間で組織された集団では各人が勝手に行う取引で適切に価値を配分できたるが、「社会の規模と複雑さが増大するほど個人的交渉の範囲は狭くなってゆく」ということが、そもそもの政治の成り立ちであると論じます。

こうした問題を解決するためには、いわば社会のニーズに応じた「価値の権威的な配分」を拘束的なやり方で実施しなければなりません。社会の法に従って治安を維持し、第三者を置いて紛争を調停しし、資金を持ち寄って共同施設や行事を行わなければならない場合がそれです。

イーストンはこれが政治の本質なのだと定義し、普通の労働から離れ、こうした政治の仕事にだけ専念する人々が政治の専門家になり、システムが形成されていくのだと整理します。

3.システムとしての政治

イーストンはシステムとして政治をモデル化し、社会と政治の関係を次のように概観しました。

1.政治システムは社会という外部環境に対して自律的なシステムとして存在している。
2.社会は配分された価値に対して政治システムに対して要求や支持という入力を行う。
3.政治システムは入力を踏まえて決定や行動(価値の権威的な配分)という出力を行う。
4.出力を受けて社会は入力を政治システムに還す。

これを図示したのが下の図表であり、いわば社会の状態を一定に保つ管理システムとして定義されていることが分かります。

真ん中の四角が「政治システム」で、外側が「環境」
右側が出力(決定と行動)、左側が入力(要求と支持)
政治システムの出力は環境(社会)に影響を及ぼし、
再び環境を通じてシステムへの入力が決定される

これが政治システムの考え方で、政治は社会の要求や支持を受けて公共政策を行う機関であるという考え方が明確に示されています。

結びにかえて

現代の政治理論は、それより以前の印象論的な研究から比べれば、イーストンの業績で大きく様変わりしたと言えます。要するに現代の政治理論にとって重要な関心となっているのは出力と入力を対応させるメカニズムなのです。

選挙、世論調査、暴動、ストライキ、テロ活動、民衆扇動などはいずれも政治システムへの入力であり、議会の立法、裁判所の判決、予算配分、政府の行政活動、公共事業、対外政策などは政治システムの出力です。

社会の要求を分析して政策を立案するまでが政治システムの機能であり、要求を満たすことができなければ政権交代、体制変動、政治変動などを通じて要求に応答するように再編されます。

最後に理論の世界から現実の世界に立ち返った時、イーストンの考え方と普段の政治についての考え方には大きな断絶があるのではないかと思われるのではないでしょうか。

政治学者の立場から言わせれば、鉄道の運行状態監視システムで異常を察知するセンサ系が有権者の役割であり、それを問題処理する制御系が政治家の役割です。
そして、もしシステム障害が起きれば社会に何が起こるのか、有権者は誰もが知っておく必要があると私は考えています。

KT

参考文献
  • Fisher, G. H. 1971. Cost Considerations in Systems Analysis, New York: American Elsevier.(日本OR学会PPBS部会訳『システム分析における費用の扱い』東洋経済新報社、1974年)
  • Easton, D. 1953. The Political System: An Inquiry into the State of Political Science, New York: Knopf.(山川雄巳訳『政治体系』ぺりかん社、1976年)
  • Checkland, P. B. 1981. Systems Thinking, Systems Practice, New York: John Wiley & Sons.(高原康彦、中野文平監訳『新しいシステムアプローチ』オーム社、1985年)

2014年5月11日日曜日

人口と軍事力


今回はちょっとした話題ですが、人口と軍事力について考えてみたいと思います。

軍事参与率という言葉があります。これは総人口1名に対して軍事要員がどれだけいるのかという百分率です。定義としては、軍事参与率=(軍事要員/総人口)×100なので、資料さえあれば簡単に求められます。

日本の総人口は1億2600万名程度ですが、自衛隊の勢力は24万7000名程度です。
したがって、日本の軍事参与率は0.19%です。(小数点の3位以下は切捨てています)
これは社会の成員がどれだけ多く兵士となっているかを統計的に概観するものだと考えて下さい。

ちなみに2007年の統計資料によると、アメリカの軍事参与率は0.49%、イギリスは0.31%、フランスは0.41%、ドイツは0.29%、ロシアは0.72%、中国は0.17%、台湾は1.26%、韓国は1.41%、北朝鮮は4.59%です。
中国の軍事参与率が日本より低いというところが、中国の人的資源の豊富さを物語っています。
こうした値から、各国の軍事政策の傾向、特に兵役制度の実態を知ることができるかと思います。

興味深いのは、徹底した徴兵を実施している北朝鮮ですら総人口のうち兵役に利用できる人的資源が5%弱しかないということです。
恐らくは国民の男性で兵役適格者の限界量がこの5%なのではないかと思います。

こうした統計量をさらに幅広く調査してみると、次のような興味深い傾向が分かります。
次の図は1815年から現在にかけて世界各国の軍事要員(milper)の人数:Y軸と総人口(tpop)の人数:X軸(両方とも単位1000名)の資料を統計処理したデータを散布図で表したものです。


これは1815年以後の年にかけて全ての地域の国家をサンプルとしていますので、総人口に対する軍事力の規模に関する政策決定のパターンを大雑把に表した図表だと考えていただいて良いと思いますが、この図で興味深いのは総人口と軍事力の関係には二つの異なるパターンがある点です。

一つは総人口が小さいにもかかわらず飛びぬけて大規模な軍事力を保持するパターンで、もう一つは人口が大きいにもかかわらず軍事力の規模が抑制されています。

ここから私の蛇足の解釈になりますが、第一に総人口に比例して軍事力が増大するという単純な相関関係はここでは見られないということです。人口の増加があっても軍事力を一定の範囲内に抑制する傾向が見られます。

第二に総人口が限られているにもかかわらず人的資源を総動員して500万名から1000万名の規模の軍事力を編成した事例が確認できます。調べてみると、いずれも第二次世界大戦の交戦国のサンプルだったことを付け加えておきます。

最後にまとめますと、軍事力の規模は総人口だけで決定される傾向は統計的に見られません。
これがなぜかを考えてみると、現代の作戦が人的資源よりも物的資源に大きく依存しているためではないかと私は推測します。

しかし、一部の研究者は人口が戦争の勝敗に影響を及ぼす度合いは戦争の形態によって変化するとも指摘しています。
日本の少子高齢化が進む場合、外国人労働者を導入する施策も検討されているようですが、根本的な問題である少子化の問題を解決できなければ、将来の日本の防衛力整備にとって深刻な課題となることでしょう。

KT

2014年5月9日金曜日

地図で地政学を考える


以前、地政学のすすめが好評でしたので、続編として地図判読の技法について紹介したいと思います。
地政学を研究するためには地図の知識が不可欠であり、また地図を解釈するためには独特な技法が必要となります。

地図上で戦略分析を行う具体的な分析の方法について、コリンズ(1998)は地域研究で戦略分析を用いるために次の5つの事項に着目することを提唱しています(Collins 1998: 340を参照)。
・地政学Geopolitics
・中核地域Core Area
・戦略的運動Strategic Mobility
・連合Coalition
・施設Infrastructure

地図上の大国領土とその大国が指導する衛星国の領土には、必ず戦略的に重要な地域が含まれています。それは経済的理由によるもの、軍事的理由によるもの両方を含みます。

こうした中核地域の間の部隊の移動を可能にするのが回廊地域です。それが分かれば、国家が連合関係、同盟関係を通じてどのように外交を展開するかが分かるだけでなく、軍事基地のような施設が設置されている理由も説明がつきます。

これだけではイメージしにくいと思いますので、コリンズが紹介するソ連の地政学的な分析の要点をここで示しておきます。
「戦略分析とは奪取、保持、破壊、ないし管理することで目だった優位をもたらす大きな政治的、経済的、軍事的、文化的意味がある目標を含む敵の中核地域をも評価する。 
冷戦期の米国の分析は全面核戦争が勃発した場合にヨーロッパのロシアにおいてソビエトの国家安全保障にとって死活的に重要であった複数の地域を特定していた。すなわち、モスクワ、レニングラード、ドネツ流域の重工業地帯、ウラル山岳地帯、バクー周辺の油田地帯である。 
二次的に重要な中核はタシュケント、クズネツク流域、バイカル湖、ウラジオストクは地域的に重要であるが、ソビエト連邦はこれらがなくとも強大な国家として存続することが可能である」(Collins 1998: 341)
すでに十分な地理の知識(この場合は地名とその位置の知識)があれば、冷戦期のソ連にとって死活的に重要な戦略要点はヨーロッパ正面に偏って分布していたことが直ちに分かります。

したがって、ソ連の防衛計画では主たる戦力をヨーロッパ正面に配備しなければならず、その国境線の広さにもかかわらず、戦略正面が地政学的な環境によって著しく制限されているということが言えるわけです。

この分析から東ヨーロッパの国々で緩衝地帯を構成するためにソ連がワルシャワ条約機構を置いて一元的な連合作戦の態勢を整え、かつバルト三国やベラルーシ、ウクライナまでをソビエト連邦に組み込まなければならなかった理由が説明できます。(詳細は以前の記事を参照)

地政学はある意味において地図上でその大国が重視するべき戦略正面を特定する技法であり、戦略学の一部と考えることもできるでしょう。

しかし、私の考えでは、地政学はそれほどの専門知識を必要とするわけではないと思います。
むしろ地政学は自然地理学と人文地理学の両方にまたがる地理に関する幅広い一般教養が必要ではないかと思います。

KT

参考文献
Collins, J. M. 1998. Military Geography for Professional and Public, Washington, D.C.: National Defense University Press.

2014年5月7日水曜日

軍隊の計画を担う幕僚


今回は現代の司令部業務に不可欠な幕僚の業務について紹介したいと思います。

19世紀に軍隊で司令部業務の合理化が積極的に進められると、必然的に幕僚制度を整備する必要が出てきました。研究者は現代の幕僚業務の在り方の大部分が19世紀のプロイセン陸軍で確立されたと考えており、その有用性からその仕組みは世界各国で採用されるに至りました。

まとめてしまうと、指揮官の業務を補佐するために設置されるのが幕僚部です。
幕僚部を指揮するのは幕僚長で、一般的な組織論でもよくライン・スタッフを区別している理由はここに由来します。幕僚部それ自体に部隊を指揮する権限があるわけではないということです。

幕僚部には一般幕僚と特別幕僚という二つの系統の幕僚がおり、一般幕僚は次の五つに大別されます。
・G-1(人事幕僚)部隊の編成や衛生状態など人事、労務、行政に関する事項を掌握する幕僚。
・G-2(情報幕僚)敵の勢力や装備、行動に関する各種の情報資料の分析を担当する幕僚。
・G-3(作戦幕僚)部隊の運用そのものを掌握し、計画立案の業務を担当する幕僚。
・G-4(兵站幕僚)作戦行動に必要な糧食、燃料、弾薬などの補給と輸送について掌握する幕僚
・G-5(民事幕僚)地域住民や自治体、その他の民間人に関する事項を担当する幕僚。

幕僚長の指揮下で一般幕僚はそれぞれ部下を指揮して業務を処理し、作戦会議では計画立案に伴うあらゆる問題を調整する権限を持っています。

幕僚部はこうした一般幕僚に加えて必要に応じて特別幕僚を加えて作戦会議を運営し、作戦計画(Operation Plan, OPLAN)というものを策定します。
米陸軍の教範によると、作戦計画は五つの要素から構成されます。

第一に作戦計画は「状況」から始まります。状況とは作戦を実行する上で影響を及ぼす地形、天候、敵情などの詳細に関する事項が含まれます。この部分で重要なのは情報幕僚の業務であり、情報分析とそれに基づく見積りが反映されることになります。

第二に含まれるのは「任務」です。任務の内容を吟味した上で具体的な作戦の指針として言い換える作業を任務分析と言いますが、要するに誰が、いつ、どこで、なぜ作戦を実行するかを明らかにすることです。

第三に含まれるのは「実行」であり、最も基本的な作戦構想が何かを定義します。任務分析で判明した目標を達成するための方法を述べる箇所なので、一般的に地図を付して部隊の行動を具体的に図示することも行われます。

第四に示されるのが「指令の調整」であり、矛盾なく命令を与えるために各部隊への指令を個別に検討するだけでなく、実行の段階で示された構想の観点から全般的に検討します。

最後に来るのが「指揮と合図」で、指揮系統を定義し、指揮所の位置を明らかにし、作戦行動を実行に移すにあたって用いる合図を示します。

ここで重要なことは作戦の規模や複雑性を増大させる場合、幕僚業務を担う幕僚部の機能もまた増強することが必要となるということです。
近代になるまで歴史上の軍隊は幕僚部を置かずに戦闘を行っていましたが、それは戦場の規模や複雑さが限られたものであったためです。

しかし、戦場が拡大し、運用する装備が複雑化すると幕僚部の機能が作戦の成否に関わってくるようになるということです。
昨年12月、安倍政権で防衛省は日本は統合機動防衛力という作戦構想を打ち出しました。
しかし、この構想を実現するためには、前線の部隊だけでなく、統合幕僚監部(特に運用部が中枢機能を担当しているのですが)の業務にも十分な注意を向けることが必要となってきます。

かつての日本の大本営には十分な統合作戦を指揮する態勢がなかったことも含め、私たちは自衛隊の統合運用を人員や装備だけでなく、幕僚という要素からも検討することが重要であると私は考えています。

KT

参考文献
U.S. Department of the army. 1984. Field Manual 101-5: Staff Organization and Operations, Washington, D.C.: Government Printing Office.

2014年5月5日月曜日

攻撃者と防御者の勢力均衡


以前、勢力均衡理論にミクロとマクロがあるという議論を紹介したのですが、今回はその続きとなります。

国際政治学には二カ国間の勢力均衡を分析する場合に使用する攻防均衡理論(Offense-Defense Balance Theory)という理論があります。

最初に国際関係における攻撃者と防御者の勢力関係を体系的に分析したのは防勢優位仮説を提唱したクラウゼヴィッツですが、現代の勢力均衡理論の枠組みでこの問題を捉えなおした研究者は恐らくクエスター(Quester)ではないかと思います。

クエスターの著作『国際システムにおける攻勢と防勢』(1977年)は1990年代以後に攻防均衡理論の研究が発展するまでよくその価値が理解されていなかった類の研究です。

クエスターが定式化したのは軍事技術は一般に軍事力を全般的に向上させるが、種類によっては攻撃力だけを高めるもの、防御力だけを高めるものがあると考察し、技術条件が変化するたびに国際関係における攻撃者と防御者の勢力均衡が変化するという仮説を提出しました。

この論点が攻防均衡理論の最も重要な命題として今でも参照されている考え方です。

クエスターの議論はかなり以前の軍事史まで参照するものですが、一例を挙げるとヨーロッパの近代化が始まると火砲が本格的に導入され、中世までの要塞築城を基礎とする防衛システムが有効性を低下させ、結果として近代的な国際システムの成立に寄与したという考察があります。

これは軍事史における軍事革命の議論を国際政治学の命題として一般化する大変興味深い議論です。
技術力だけに偏った議論だとか、攻防均衡の捉え方についての疑問点もあるのですが、軍事力が国際システムを規定する条件としていかに重要であるかを巧みに説明しています。

この議論は現代の文脈で捉えなおす場合の含意も重要であり、例えばミサイル防衛は攻防均衡においてそれまで防御手段がなかったミサイル戦の様相を変化させることを意味します。

あくまでも仮定の話ですが、ミサイル防衛によって弾道ミサイルを迎撃することが技術的に可能となった場合、それまでの国際システムを形成していた勢力均衡には急激な変化が生じることが予測されます。

別の視座として、情報技術の発展を背景とした最近の軍事における革命の国際的な普及を評価する場合、それが攻撃者と防御者のどちらに利益をもたらすのか、また両方に同等の利益をもたらすのかについて考えることが必要だと言うことをクエスターの議論は示唆しています。

国際システムでは潜在的な攻撃者と防御者の勢力関係が常に国際政治を左右しています。
こうした問題を理解するアプローチとしてクエスターの攻防均衡理論は重要な足場を私たちに残しています。

KT

参考文献
Quester, G. 1977. Offense and Defense in the International System, New York: John Wiley.

2014年5月1日木曜日

地政学のすすめ

地政学の研究で知られるマッキンダーの地図。
ユーラシア大陸の中央で強調されているのがハートランド。
地政学は最近になって国民の常識になりつつある国際政治学の研究の一つだと思います。
それは非常に喜ばしいことであって、私としても地政学の研究には多くの時間を費やしてきたので、そうした盛り上がりに少しでも寄与できれば幸いです。

地政学というのは一言で言うと、国際関係を地理的な要因で説明する手法、もしくはその手法を用いた国際政治学の研究領域のことを言います。

国際政治学を専攻する場合、とりあえず基礎として地政学を学んでおくメリットとして、その国家がどこにあるかを覚えてしまうというのがあります。

地理を十分に勉強しないまま国際政治学の研究をしようとする学生もいるのですが、自分の研究対象とする地域にある国名くらいは熟知しなければ、地域研究など到底不可能なことは理解しておく必要があります。

地政学の基本概念についてですが、次の三つが特に重要です。

ハートランド ユーラシア大陸の内陸部にあって沿岸地域から直接的には接近できない地域。
今ロシアの内陸部から中央アジア地域がここに含まれます。

リムランド ユーラシア大陸の沿岸部にある地域で、ハートランドを取り囲む地域。
ヨーロッパ、中東、インド、東南アジア、中国沿岸部、朝鮮半島がここに含まれます。

シーレーン ユーラシア大陸それ自体を囲い込む海上の航路帯。
リムランドの外側にある海上交通路が含まれます。

地政学が一般に基礎とする考え方というのは、「ハートランドを支配する大陸勢力と、シーレーンを支配する海洋勢力がリムランドの支配をめぐって絶えず競合している」というものです。

現在、地政学的な大陸勢力であるロシアは、海洋勢力であるアメリカがリムランドの西端である東ヨーロッパをNATO、EUに再編成することを阻止しようとしていますが、ベラルーシとウクライナ以外のほとんどはすでに失われており、それがハートランドの支配にとって脅威になっているという情勢判断になるわけです。

こうして考えれば地政学の分析は決して難しいものではありません。極端に言えば、地政学的に重要な地域を覚えてしまい、あとは大陸勢力と海洋勢力の勢力均衡という構図を当てはめればよいのです。

実は地政学を学ぶ上で最大の問題は地政学それ自体ではなく、地図を正確に読む能力が問われる点なのです。
正確な地理上の知識によって裏付けられなければ、地政学は体裁の良いプロパガンダに堕落してしまいます。

もし熟練した地政学の研究者であれば、キエフとモスクワの間にどれだけの都市が分布し、その間の鉄道、幹線道路の配置を脳裏に呼び起こし、ロシア軍が進攻経路として使用する可能性が高い経路がどれかを特定することができるでしょうし、もしアメリカ軍が真剣に軍事行動を起こす場合、どの国家に軍事通行権を要求しなければならないかを判断することもできるでしょう。

もし地政学を研究する前からこうした能力を身に着けている方がいるならば、それは称賛するべき素晴らしい「戦局眼」です。
しかし、そうでないならば地図を読む習慣を身に着けることから始めなければなりません。

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KT