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2014年12月29日月曜日

論文紹介 本来の戦略の意味を取り戻す


安全保障学の分野で「戦略」ほど乱雑に使用される概念は他にありません。
戦略という概念は戦争術から派生して発展したものですが、現在では政策の意味で、また経営戦略の分析でも使用されています。

今回は、歴史的考察から戦略の意味を再検討するための論文を紹介したいと思います。

文献情報
Strachan, H. 2006. "The Lost Meaning of Strategy," Survival, 47(3): 33-54.

目次
1.戦略の発達
2.戦略と政策の一体化
3.冷戦と戦略と諌止の戦略
4.古い戦略のための新しい言葉
5.戦略の再発見

そもそも戦略は古代ギリシアの語彙にまでさかのぼることができる言葉で、当初は統帥、将軍を意味していました(Ibid: 34-35)。
しかし、古代から中世にかけて将軍の仕事は戦場に限定されていましたので、現在のように戦域に広く部隊を展開して運用する現代の戦略のイメージからかけ離れていました(Ibid: 35)。

現在我々が一般に知っている戦略という概念を確立したのは18世紀のフランス陸軍の中佐マイゼロア(Paul Gideon Joly de Maizeroy)です。

彼は戦略という概念に新しい意味を与え、「計画を立案するために、戦略は時間、配備、手段、異なる利害の関係を考察し、すべての要因を考慮に入れる」と論じました(Ibid: 35)

ナポレオン戦争で戦略と戦術の区別はより一層明確に認識されるようになります。
例えば、ジョミニの研究では戦略を「図上で戦争を遂行する技術」と定義しますが、これは戦術が戦闘で部隊を展開する技術であるという理解を踏まえたもので、戦術の上位に立って全体の計画立案を行うことが戦略と見なされていたのです。
そして、第一次世界大戦までこうした理解がヨーロッパで受け継がれることになりました(Ibid: 36)。

しかし、第一次世界大戦において戦略の意味には重大な変化が見られました。

著者はフランス、ドイツでは20世紀初頭に戦略と政策の区別が取り払われ、戦争が勃発してから将軍には作戦指導について全面的な自由が与えられなければならない、という説が議論されていたことを指摘します(Ibid: 36-37)。

一方で、イギリスでは戦略の概念に別の変化が見られました。
海洋戦略の研究で知られるコーベット(Julian Corbett)が戦略を大戦略(Grand Strategy)と小戦略(Minor Strategy)に区別したのです(Ibid: 38)。
コーベットは大戦略を政策と関連付けた上で、小戦略はジョミニが考えた戦略の考えを受け入れたのです。

ここでマイゼロアが提唱し、ジョミニが定義した戦略の概念は小戦略として区分され、大戦略というより上位の戦略概念が設定され、その大戦略もさらに上位の政策に従属することが明確化されました。

さらにイギリスではフラー(J. F. C. Fuller)が大戦略の意味に関する分析を発展させており、政策の一部として直接的に構成される大戦略の特徴として、戦時と平時のいずれにも適用されることや、物心両面で国力全体を活用することなどが述べられます(Ibid: 39-40)。

このようなイギリスにおける戦略学の研究成果を踏まえたことによって、リデル・ハートは大戦略の概念を、国家政策によって定義された目標、戦争の政治的目標を達成するために国家の資源のすべてを調整し、指向することとして定義することができました(Ibid: 40)。

フラーやリデル・ハートの研究で、第二次世界大戦以降には戦略を政策との関係から理解することが主流になると、次に政策と戦略の一体化という理解が浸透するようになりました。
著者はこのような一体化が1945年以降の英米における戦略の研究で重大な問題を引き起こしたと見なしています(Ibid: 41)。

冷戦期に入ると戦略という用語は核抑止の研究で使用されるようになり、対外政策との区別が希薄になったことが指摘されています(Ibid: 43)。
例えば、ボーフル(Andre Beaufre)の研究では戦略の種類として、軍事戦略だけでなく、経済戦略や外交戦略も含ませました(Ibid)。
ボーフルに言わせれば、ナポレオン戦争の時代に見られた戦略はすでに過去のものでした(Ibid)。

しかし、著者はボーフルのような見方を「戦略は歴史家のためだけの問題ではない」と批判し、戦略という概念に検討を加える必要を主張しています(Ibid: 48)。
戦略はあくまでも国家が武力紛争を有利に遂行して政治的目的を達成するための構想であり、「それは政策ではなく、政治ではなく、外交でもない」というのが著者が最も強調する主張です(Ibid)。

要約すると、戦略はもともとマイゼロアの議論からはじまって戦略と戦術を区別するところから発生しましたが、次第に戦略の意味が拡大して政策との関連が強調されるようになります。
しかし、政策との一体性が強調されすぎた結果として、戦略と政策を概念として区別することができなくなりつつあるというのが近年の状況ということになります。

乱雑に使われる戦略の意味を問い直すことは、歴史を通じて積み重ねられてきた戦略学の体系のためにも重要なことです。
乱用されがちな現代の戦略概念に有意義な批判を加えた優れた論文であると思います。

KT

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