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2014年12月12日金曜日

二正面作戦は本当に不利なのか


戦略学の問題の特徴は個々の戦闘での部隊の行動よりもむしろ、政治的目的を達成するために部隊の作戦行動の全般を指導する点にあります。

戦略には集中の原則のような、いくつかの原則があると考えられていますが、その一つとして「二正面作戦は不利である」という主張がなされる場合があります。

しかし、この主張は厳密には正しいものではありません。今回は二正面作戦というものが戦略理論としてどのように理解されているかを紹介したいと思います。

戦略の観点から図上で彼我の部隊の配置を判断する場合に重要なのは基地と部隊が配備される方向、すなわち戦略正面であることは以前の記事で触れましたが、もう一つの重要なポイントとして内線(Interior Lines)と外線(Exterior Lines)を区別することも挙げられます。

左が内線作戦、右が外線作戦の概念図。
内線作戦では二正面で敵の侵攻を阻止しながら、一正面の敵を打撃している。
一方で外線作戦では二正面から敵を打撃している。
(Kim 2012: 156)より引用。
上図は内線・外線を概念的に区別した図であり、部隊を展開する場合に彼我の相対的な位置関係では二種類のパターンがあることを示しています。

内線作戦は我の部隊が敵の部隊に対して中心的な位置を占める位置関係で実施する作戦であり、次のような定義を与えることができます。

「(内線作戦とは)数方向の外方から求心的に向かって作戦を行う敵に対し、わが後方連絡線を内方に保持して行う作戦をいい、全体の結合をもってこの目標に対するものである」(内田1999: 168)

内線作戦では味方の戦力を集中させることが容易であるのに対して、敵が複数の方向に分散しています
反対に外線とは我の部隊が分散しており、敵の部隊は一か所に集中する関係にあります。

「(外線作戦とは)敵に対し後方連絡線を外方に保持して数方向から求心的に行う作戦をいう」(Ibid)

一般に二正面作戦と呼ばれている作戦は戦略学では外線作戦と呼ばれるものであると言えます。

ここで内線・外線の相対関係に議論を進めると、両者のどちらにも有利な側面と不利な側面があり、どちらが決定的に不利ということは言えないと考えられています。

外線作戦の最大の不利は「戦闘力の分離を生じ的に乗ぜられる危険性」が指摘されていますが、同時に有利として「位置正面の作戦の成果を直ちに他の正面に及ぼすことができ」と述べられています(Ibid)。

また内線作戦の不利は「後方連絡線に対し脅威を受けやすい」という特性が指摘されていますが、反面で「敵の兵力分離に乗じてこれを各個に撃破できる」と説明されています(Ibid)。
このことは、複数の正面で戦うこと自体が直ちに戦略上の不利であると言い切ることができないということを意味しています。

結論として、二正面作戦が常に不利であるという主張は戦略上の原則ではなく、内線作戦と外線作戦を指導する上で異なる注意が必要とされるということを誤解したものであると考えられます。

内線作戦と外線作戦の歴史的事例については別の機会に触れたいと思いますが、国家が戦略上の内線・外線のどちらの態勢に置かれるかは、その国家が置かれている地理的環境と国際関係によって変化する傾向にあります。

ナポレオン戦争におけるフランスや、第一次世界大戦でのドイツ、第二次世界大戦での日本の戦略でも見られたように、外交上で敵対する隣国の数が増加するほど、戦略上の態勢としては外線に制限されやすくなるということです。

だからこそ、戦略では武力だけではなく交渉を展開し、自国の安全保障上にとって有利な戦略正面を選択することが必要となるのです。

KT

参考文献
内田政三「現代の陸上戦力」防衛大学校・防衛学研究会編『軍事学入門』かや書房、1999年、152頁-175頁
Kim, J. D. 2012. Planning for Action, Campaign Concepts and Tools, Fort Leavenworth, KA: U.S. Army Command and General Staff College.

2 件のコメント:

  1. 目から鱗が落ちるような記事でした。

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    1. ご感想のコメントを頂き、ありがとうございました。
      これからも少しでも皆様のお役に立つところがあればと願いながら活動を続けたいと存じます。もしMr.Sinθ様に、ご質問やご指摘があれば、またお寄せ下さい。今後も本サイトをどうぞ宜しくお願い申し上げます。

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