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2014年12月17日水曜日

論文紹介 作戦指導における機動戦と消耗戦の相違


一般に安全保障における活動で最も包括的な分析レベルは戦略であり、最も限定的なのは戦術であると考えられています。

戦術と戦略を別の次元として区別することは依然として重要なのですが、相互の密接な関連が見落とされる危険があります。

今回は安全保障学における戦略と戦術の領域を総合するために重要な、作戦という概念を考察し、それを消耗戦と機動戦という類型で分析したエドワード・ルトワックの論文を紹介したいと思います。

論文情報
Luttwak, E. N. 1980/1981. "The Operational Level of War," International Security, 5(3): 61-79.

ルトワックがこの論文で提起した問題というのは、安全保障学では戦略という分析レベルが注目されているものの、作戦という分析レベルの重要性が見過ごされているのではないかという点でした。

ルトワックの見方では、戦略レベルにおける戦争と戦術レベルにおける戦闘という二つの研究対象を関連付ける上で、中間の分析レベルである作戦が重要であると考えられました(Luttwak 1980/1981: 63)。

しかし、この作戦についての研究を発展させるための専門用語が整理されていないという問題があり、そのことが研究を困難にしていたとルトワックは判断しています。

この問題への対策として、作戦を分析する方法として消耗戦(Attrition Warfare)と機動戦(Maneuver Warfare)に区別することを提案しています。

これら類型について論文では次のように説明されています。
「一般的に言えば、消耗は戦力が戦力に対して適用されることを必要としている。勢力を使用する上で効率を確実にするために目標が集中していることが求められるため、敵が攻撃を受ける時間と場所において敵もまた強力でなければならない。それとは反対に、相対的な機動の出発点は厳密に敵の戦力を回避することであり、しかる後に(物理的または心理的に)敵が弱点とする一側面に対して選択的な戦力を使用することである」(Luttwak 1980/1981: 64)
したがって、消耗戦という作戦の形態では勢力の優劣が戦闘の勝敗に直結する点が特徴となるのですが、機動戦においては戦闘の勝敗を勢力の相対的な比較だけで考察することができません。

もちろん、これらは概念の上での整理であって、現実の戦争は消耗戦と機動戦を組み合わせて行われていることをルトワックは認めていますが、その作戦の全般的な方針としてどちらの構想を重視するかにより戦略の形態に重大な変化が生じると指摘されています(Luttwak 1980/1981: 65-66)。

機動戦の事例として挙げられるのが、第二次世界大戦におけるドイツ軍の電撃戦です。

当時のドイツ軍の電撃戦にもさまざまな側面があったのですが、ここでは要点のみを述べるとすれば、それは縦深が十分ではない広域の防衛線に対して、航空支援と機甲部隊を特定の地点に集中的に使用する作戦であり、戦術的には突破、浸透、戦果拡張の三段階から構成されています(Luttwak 1980/1981: 67-68)。

この事例から機動戦の原則としては、(1)可能な限り敵の主力を回避すること、(2)あらゆる段階で欺瞞が決定的に重要であること、(3)無形の戦力が重要であること、という三点が挙げられています(Luttwak 1980/1981: 70-72)。

消耗戦の事例として挙げられているのはノルマンディー上陸作戦であり、ドイツ軍の主力を別の方面に誘致するための欺瞞を実施しているのですが、基本的には敵の戦闘能力で処理することが可能な範囲を超える規模の部隊を大量に投入する点が特徴です(Luttwak 1980/1981: 77-78)。

消耗戦は機動戦よりも敵の主力を捕捉して打撃することを主眼に置いているため、有形の戦力、特に部隊の相対的な規模が重要な意味を持っています。

最後に、この論文の成果として重要な点は、安全保障学における戦略の研究と戦術の研究の相互関連を認識した上で、それを分析するためのモデルを定式化して見せたことだと思われます。

ルトワックは戦略理論として垂直的・水平的論理の重要性を主張したことでも知られていますが、この論文においても戦術・作戦・戦略という階層に一貫した垂直的論理が働いていることを示唆しています。

それ自体が優れた戦略であったとしても、それを実行するためには作戦として具体化される必要があり、そこで消耗戦と機動戦という選択が重要な意味を持つことになるのです。

KT