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2014年11月9日日曜日

論文紹介 中国軍は台湾海峡を渡ることができるか

国際関係論から見れば中国と台湾の勢力関係が明らかに不均衡な状態にあることが知られています。
しかし、純粋に戦略的な観点から見れば、中国が簡単に台湾の防衛を破って侵攻することは困難であるということも指摘されています。

今回は、中国の立場で台湾を侵攻する場合に予想される状況を分析した論文を紹介したいと思います。

論文紹介
O'Hanlon, M. 2000. "Why China Cannot Conquer Taiwan," International Security, 25(2): 51-86.

この論文の著者が主に主張していることは、アメリカが介入しない場合ですら、中国が台湾に侵攻してこれを占領に至らしめることは、軍事的に極めて困難であるということです。

この論文の出発点にあるのは水陸両用作戦、特に着上陸での強襲を成功させるために必要な戦略の要件です。
着上陸で攻撃者が満たすべき戦略上の要件には三つあり、著者は航空優勢、作戦の序盤における上陸地点での火力、兵員の優勢、作戦の終盤における増援進出と戦果拡張を挙げています。

したがって、中国が台湾を侵攻する場合、これら三つの条件を満たす軍事的能力を備えていなければならないということになります。

中国軍が航空優勢をどの程度まで確保できるかは、台湾の空軍基地をミサイルや航空機による攻撃で破壊できる度合いによって変化します。
著者がここで着目しているのは中国軍の航空部隊と台湾軍の防空能力です。
「たとえ中国の攻撃機の大部分が秘密裏に台湾の戦闘地域に進入することができたとしても、台湾軍の37隻の水上艦艇と59隻の沿岸警備艦艇だけではなく、相当の数を台湾の防空施設と指揮統制施設のために用いなければならないことが予想される」(O'Hanlon 2000: 58)
また著者は中国軍はこれまで200~300回/1日以上の航空作戦を遂行した経験が欠如していることも指摘しています(Ibid: 58)。

さらに台湾軍の滑走路を攻撃する際に使用する爆弾は誘導性能に問題があるため、攻撃機は目標に対して低空で進入し、防空ミサイルにより撃墜される危険が非常に大きいということも損害の拡大に繋がると予想されます(Ibid: 59)。

このような条件であっても、最初の攻撃であれば奇襲の効果も得られる可能性がありますが、着上陸作戦を支援するために必要な航空優勢を確保することは困難であると言えます。

次に中国軍が着上陸する能力について考察すると、ここでも問題が見出せます。

中国は部隊の揚陸のために使用することができる艦艇はおよそ70隻程度だとして、それで輸送することが可能な部隊を10,000名から15,000名の要員とその武器装備、400両の車両、さらにヘリコプターで空輸される部隊を6,000名と見積れば、合計で最大21,000名程度となります(Ibid: 62)。

一方、中国軍を迎え撃つ台湾軍の勢力はおよそ240,000名です。
上陸がしかけられる台湾の海岸線がおよそ1,500キロなので、1キロの海岸線に対して配備することが可能な部隊の規模は単純計算で1,000名を若干下回る程度ということになります(Ibid: 63)。

着上陸作戦が開始されてから中国軍が直ちに戦闘に投入することができる部隊はおよそ8,000名ですが、その後も輸送力に何の損害も受けないと非現実的に想定しても本土から到着する増援の規模は8,000名/1日の速度が限界です。
しかし、台湾軍は50,000名/1日の速度で増援を強化することが可能です(Ibid: 68)。

ただし、中国軍が水陸両用作戦と空挺作戦を同時に行うならば、理論上は10,000名/1日の速度で増援を送り込む可能性も指摘されています(Ibid: 72)。

空挺作戦と水陸両用作戦を組み合わせる作戦は有効ではありますが、台湾軍は後方地域の防衛のために100,000名の大規模な部隊を配備する能力があるため、空挺部隊が降下してから再編成するまでの間に撃滅される危険があります(Ibid: 73)。

この論文の結論で著者が主張していることは中国軍の能力で台湾海峡を渡って侵攻することは極めて困難であり、台湾軍にはその国土の特性に応じた防衛体制が準備されていることです。

中国軍には海域を渡って他国の領土を侵攻する能力に複数の問題があるだけでなく、台湾軍の防衛能力は中国軍の侵攻に対処できるだけの量的、質的な優位性があると考えられるのです。

KT

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