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2014年11月30日日曜日

文献紹介 外交は政府だけの仕事ではない


自国にとって有利な条件で紛争を終結させ、その平和を可能な限り長く保つことは外交の基本的な課題です。

しかし、外交を展開する仕方には様々な種類があり、ある争点について可能な限り有利な条件で交渉をまとめる技術というのは外交史とともに発展を遂げてきました。
今回は、現代発展を遂げた外交方式として重要なマルチトラック外交に関する研究を紹介したいと思います。

文献紹介
Diamond, L., and McDonald, J. 1996. Multi-Track Diplomacy: A System Approach to Peace, West Hartford: Kumarian Press.

1996年にダイアモンドとマクドナルドが発表した論文では公式な政府部門だけでなく、非政府部門をも含めた重層的な交渉過程として外交を捉え直すことができることが主張されました。

ダイアモンドは1985年から外交を政府部門だけに限定して理解することの限界を指摘しており、より体系的に外交を実施するためにはマルチトラック外交(Multi-Track Diplomacy)という考え方を導入することが重要だと論じていました。

マルチトラック外交の特徴とは、政府以外だけでなく、非政府組織・専門家集団、実業界、一般市民、研究・教育者、社会運動家、宗教家、資金援助団体、マスメディア、以上の九つのトラックに存在する行為主体に対して影響を及ぼすことです。

これらはいずれも社会において影響力を有する行為主体です。個別の行為主体の動向が直ちに国際関係に作用するわけではありませんが、これらに体系的に働きかけることによって政府部門に影響を及ぼすことが期待できます。

国際関係論では国家が相手国の意思決定に内部から影響力を及ぼす戦略のことを浸透(Penetration)と言いますが、マルチトラック外交はまさにそのような戦略を基礎づける外交の方式と言えるでしょう。

この論文ではダイヤモンドは紛争解決を念頭に置いており、マルチトラック外交によって効果的に相反する利害を調整することが可能になることを期待していますが、問題点を指摘することもできます。

一般に外交では情報や協力する現地の協力者に資金を提供することが不可欠ですが、マルチトラック外交を展開する場合には資金の配分に注意する必要があります。

というのも、そのトラックで誰が有力者なのかを見極めることに失敗すれば、どれだけの見返りを与えても外交上の目標を達成する上で有効な手段とはなりえないためです。

これは簡単な仕事ではなく、何の価値もない情報をもたし、重要性の低い意思決定にしか参加できない人物に大きな見返りを与えることになる危険があります。

政府部門の人物と接触する場合とは異なり、非政府部門ではその人物が実質的な権力関係の中でどの程度の位置にあるか評価する技術が求められます。
そのためには各トラックごとの社会的な背景や特徴を理解しておくことが必要です。

結論をまとめると、普段は外交と無縁の生活を送る一般国民であっても、マルチトラック外交と完全に無縁ということはありえません。
なぜなら、マルチトラック外交は対象国の政府部門との交渉を有利な条件で進めるために、民間部門の重要な人物や組織と積極的に連絡を保つ外交の方法であるためです。

したがって、我々は外交についての伝統的な理解を改めるだけでなく、国内社会であってもマルチトラック外交が展開されている可能性を知っておくことが必要なのではないでしょうか。

KT

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