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2014年9月10日水曜日

バックパスとは何か


国際関係論において、バックパス(Buck-Pass)とは「侵略者に対して自らは静観しながら別の大国に阻止させる」国家戦略のことをいいます(Mearsheimer 2001: Ch. 5)。

バランス(均衡)やバンドワゴン(追従)のように、現状維持を企図した大戦略の一種ですが、第三国を巻き込むことで自国の利益を図るところが特徴的な部分と言えます。

バックパスを行う国は自国の代わりに別の国に潜在的な侵略者を阻止させるために、四種類の手段を駆使します。

第一に、侵略者と良好な外交関係を構築する方法があります。一見すると、バンドワゴンと同じようにも見えますが、バンドワゴンと異なるのは第三者の対外行動に影響を及ぼすことが狙いである点です。

1930年代のヨーロッパでドイツの軍事的台頭が危ぶまれた際に、フランスは安全保障上の脅威を感じていたのですが、フランスはドイツとの関係を改善させるようとしていました。
これは潜在的な侵略者であるドイツとの外交関係を改善することで、ドイツの軍事力がフランスに向けられることなく、東側にあるソ連の方向へ指向することを期待していたためです。

第二に、バックパスを行う国は自国の代わりに侵略者と戦う国との外交関係を疎遠に保つ必要もあります。
これは一見すると不可解に思われるかもしれませんが、その最大の理由は侵略者と防衛者の両方に対して中立的な立場をとらなければ戦争それ自体に巻き込まれる危険があるためです。
自国に対する脅威を別の国に肩代わりさせながら、自国は何の犠牲を払うこともないことが転嫁においては重要です。

第三に、バックパスを行う場合には自国の余剰の資源を動員する方法も考えられます。
一般にバックパスは直接的な連合作戦への参加を回避することを意図していますが、それゆえ攻撃の対象とならないように、自衛のための防衛力を保有している必要が出てきます。
その意味において、転嫁という大戦略においても抑止という軍事戦略の基礎が不可欠と言えます。

第四に、バックパスを行う国は自国の代わりに戦う大国の成長を助けることも求められます。
侵略者と戦うことが可能なだけの能力を付与する必要があるため、バックパスのような戦略を遂行するためには相応の援助を行うことが欠かせません。

以上がバックパスに必要な処置となりますが、成功すれば非常に強力な大戦略である一方で、諸外国の対外関係を見極める困難を常に伴う戦略でもあります。

最近の研究には日本の安全保障を支配していたのは平和主義ではなく、バックパスだったことを指摘するものもあります(Lind 2004)。
つまり、日本が意図しているのは、日米安保に依拠しながらも、自国が率先して防衛者となることはせず、侵略者を米国によって阻止してもらい、かつ中国とも「戦略的互恵関係」を維持して攻撃の対象となることを回避しているという判断です。

バックパスを通じて単純な敵と味方という構図から国際関係を把握することができないということが理解できるのではないでしょうか。

KT

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均衡について
追従について

参考文献
Lind, J. M. 2004. "Pacifism or Passing the Buck? Testing Theories of Japanese Security Policy," International Security, 29(1): 92-121.
Mearsheimer, J. J. 2001. The Tragedy of Great Power Politics, New York: W. W. Norton. (奥山真司訳『大国政治の悲劇』五月書房、2007年)

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