最近人気の記事

2014年9月19日金曜日

アダム・スミスの経済戦争論


経済学の古典で知られる18世紀の経済学者アダム・スミスの『国富論』は軍事的観点から見ても興味深い分析を多く含んでいます。
今回は、特に経済制裁に関する記述を紹介したいと思います。

「神の見えざる手」という表現でよく知られているように、スミスは市場における自由な取引の有効性を擁護しており、貿易に関しても輸入を制限することによってさまざまな弊害が生じることを指摘しています。

しかし、それだけではなく、スミスは輸入を制限するべき場合があるということも主張しています。すなわち、国防上の必要を満たす場合です。

17世紀、イギリスでは航海条例に基づいて、船主、船長、船員のうち4分の3がイギリス国民ではない場合、イギリスの沿岸貿易に従事することはできず、違反すれば船舶と積荷は没収することにしていました。

この航海条例によって外国、特に当時の経済大国だったオランダは大きな損失を強いられることになります。

というのも、この条例はイギリスに商品を輸入する外国船舶の運行を規制していましたが、イギリスの商品を輸出する外国船舶だけは運行を許可していました。
言い換えれば、この条例は最初から、輸出型産業を中心としたオランダ経済に打撃を与えることを目的とした経済制裁だったと言えます。

第二次英蘭戦争における1666年の四日海戦
エイブラハム・ストーク画
この経済制裁はその後に英蘭戦争の引き金になったことはよく知られています。
興味深いことに、スミスはこの経済制裁の究極的な目的とは、オランダの海軍力を減退させることにあったと論じています。
「この規則は、すべてもっとも思慮深い知識人によって指図されたもののごとく賢明なものである。あの時点における国民的反感はもっとも思慮深い知識人が勧告するに違いないこととまさに同一の目的を、つまり、イングランドの安全を危うくする可能性のある唯一の海軍力であるオランダの海軍力の減殺を目指していたのである」
戦わずして、貿易収支の悪化を通じ、オランダの海上戦力の消耗を加速させることができるというのがスミスの考えでした。

当時、オランダ海軍はイギリスの海上交通路に対する重大な脅威であり、イギリス海軍はオランダ海軍に対する絶対的海上優勢を確立することはできていませんでした。
直接的な方法で海上戦闘を挑む場合の勝算は有利とは言えませんが、このような間接的な方法であれば貿易立国であるオランダの財政を悪化させ、引いては戦力を漸減できるということになります。

もちろん、純粋な経済分析を行うならば、オランダ商人をイギリスの市場から締め出すことによって、イギリス人の生産した商品の需要が減少し、結果的に商品の価格は下落することが予想されます。
それにもかかわらず「国防は富裕よりもはるかに重要なことである」とスミスは断言しています。

この著述を取り上げてみても、スミスは優れた経済学者であっただけでなく、国際関係におけるイギリスの地政学的な特性、そしてオランダとの勢力関係について広い視野を持ち合わせた戦略家でもあったことが分かるのではないでしょうか。

安全保障とは必ずしも戦争に関する事柄だけを取り扱えば済む問題ばかりではありません。平和もまた次の戦争を準備しつつある重要な段階であることを認識しなければならないのです。

KT

0 件のコメント:

コメントを投稿