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2014年8月18日月曜日

論文紹介 海洋戦略の戦略要点、チョーク・ポイント


今日、世界経済を支えている航路帯の中には、船舶の往来が特に集中する交通の要所がいくつかあることが知られています。

軍事地理学や地政学の用語では、こうした地点のことをしばしばチョーク・ポイント(Choke Point)と呼びます。
今回はそのチョーク・ポイントを重要度に応じて分類して見せた論文を紹介したいと思います。

Alexander, L. M. 1992. ''The Role of Choke Points in the Ocean Context,'' GeoJournal, 26(4): 503-509.

目次
1.狭隘な国際水路を通じた交通のレジーム
2.チョーク・ポイントの性質
3.最重要のチョーク・ポイント
4.二次的なチョーク・ポイント
5.その他のチョーク・ポイント

チョーク・ポイントは各港湾の間の海上交通路の連絡を保つ上で、極めて軍事的な価値があります。その典型的な事例としては、地中海と黒海を結ぶボスポラス海峡やダーダネルス海峡が挙げられます。
水域が狭隘で封鎖が容易なために、この海域の往来が制限されると海上交通路それ自体の連絡が遮断されてしまいます。

ただし、著者は全ての海峡がチョーク・ポイントとしての価値があるわけではないことを指摘しています。戦略的な重要性に応じてチョーク・ポイントとしての価値を判断する方法として次のように示されています。

評者が要約すると、その判断基準として著者が特に重視するのは次の三つの性格です。
・狭隘性、封鎖の容易性
・代替不可能性
・沿岸諸国への影響

これら三つの基準から見て最も重要度の高いチョーク・ポイントと分類されるのは、以下のようになります。
・ジブラルタル海峡
・バブ・エル・マンデブ海峡
・ホルムズ海峡
・デンマーク海峡
・トルコ海峡(ボスポラス海峡・ダーダネルス海峡)
・スエズ運河
・パナマ運河

これらと比較すれば以下の例は、重要度が若干低下するものの、二次的に重要なチョーク・ポイントと判断できるものです。
・マラッカ海峡
・ドーヴァー海峡
・ベーリング海峡
・スンダ海峡・ロンボク海峡
・バラバク海峡
・大隅海峡
・津軽海峡
・対馬海峡

著者の分析によれば、チョーク・ポイントの役割に関しては三つの要因が及ぼす影響を考慮するべき事項があります。
第一に地政学的な変化であって、例えば冷戦期と冷戦後ではソ連海軍の太平洋艦隊の大幅な減勢によって、津軽海峡と対馬海峡の重要性は低下したことは、地政学的な変化によってチョーク・ポイントの性格が変化した事例です。

第二に経済地理的な変化による影響があり、イランや湾岸諸国にとってホルムズ海峡の海上交通路が生命線であること、中国にとっては台湾海峡とルソン海峡が重要であることの理由は、この経済地理的考慮から説明できます。

第三が環境的考慮による影響であり、1989年3月のエクソンバルディーズ号原油流出事故で大規模な原油の流出が発生した際に大規模な生態系の破壊が生じたことがあります。
著者はこうした事故に見られるように、環境保全の必要から海上交通が規制される可能性があることにも注意を促しています。

この論文が貢献したことは、地政学で頻繁に用いられるチョーク・ポイントという概念に一定の尺度を導入し、その重要性を判断するための基準を明確化したことだと思います。

さらに著者の分析枠組みによって二次的に重要性が高いチョーク・ポイントに大隅海峡、津軽海峡、対馬海峡という日本人にとっても間近にある海峡が数えられている点は示唆的だと思いました。

著者が指摘するようにチョーク・ポイントは海上封鎖の対象となりうる場所であり、その海域は隣接する海域の海上交通に甚大な影響を及ぼします。
こうしたチョーク・ポイントの保全を考えることは、海洋国家としての安全保障にとって原点であるべきではないでしょうか。

KT

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