最近人気の記事

2014年8月6日水曜日

軍事的プロフェッショナリズムが軍隊を精強にする


安全保障の専門家は長らくドイツ軍の特異な強さに関心を寄せてきました。

例えばクレフェルトは第一次世界大戦から第二次世界大戦までのドイツが戦場で発揮した軍事力の評価を行っています。

その研究成果の結論として、クレフェルトは物質的要素だけでなく「精神的特性」を含ませながら、従来までの戦闘能力の考え方を再定義する必要があると主張しています(Creveld 1980)。
しかし、この「精神的特性」をどうすれば理解することができるのでしょうか。

その一つの方法は軍事的プロフェッショナリズムという観点から軍隊を観察することです。
以前の軍事的リーダーシップに関する記事でも取り上げたハンチントンの議論ですが、彼は軍事的プロフェッショナリズムの研究でもよく知られている研究者です(Huntington 1957)。

軍事的プロフェッショナリズムは軍隊にだけ見られる専門職業規範と言えます。
もちろんその規範には規律、団結、研究心、忍耐など兵士としての精神的徳目も含まれていますが、それらは軍事的プロフェッショナリズムで付随的な要素に過ぎません。

軍事的プロフェッショナリズムとは専門職に特有の考え方であり、それは将校団に固有の属性だからです。

このことを理解するためには、そもそもプロフェッショナリズムそれ自体が何かを簡単に理解しておく必要があります。

19世紀にヨーロッパ各国では大学教育を前提とする専門職を数多く設置するようになりました。弁護士、会計士、税理士、医師、技術士などがそれに該当します。

これらは社会の中でも国家資格が必要であり、政府によって品質が一定に管理される特殊な職業と言えます。
というのも、社会一般でそれらの職業は公共的な利益と密接に関係していたためです。

しかし、政府が管理する以上は職業的能力を判断するための客観的な基準が必要でした。
そこで専門職の側でも、専門教育を実施すること、職能団体(学会)を設置すること、倫理綱領を定めることによって、専門職の質を維持するための処置が行われました。

こうした専門職業の制度化を通じて専門職の間に共有された思想こそがプロフェッショナリズムという考え方であり、それは専門職としての技能と知識を尊重する規範となりました。

ハンチントンはこうしたプロフェッショナリズムの確立がドイツ軍の能力と密接に関係していることを指摘しています。


ハンチントンによれば、プロイセン軍は世界に先駆けて士官教育の改革に着手した軍隊で、1809年に最初の士官学校を設置しています。

それまでのヨーロッパの軍隊で士官になれるかどうかは職業上の能力ではなく、社会階級によって決定されていました。
貴族が士官の地位を独占しており、士官教育と言っても専門職としての知識が体系的に教育されることは、砲兵科と工兵科という例外を除けばほとんどなかったのです。

プロイセン軍の教育改革は非常に重要な意義を持つものであり、従来まで経験や勘に頼ってきた軍務の在り方を、より客観的に研究、教育することが必要となりました。

さらに軍隊の中で士官は将校団と呼ばれる独自の職能団体を形成し、それまでの貴族階級とは別の独自の社交関係を持つようになります。
こうした集団から士官に特有のプロ意識が生まれ、それが職業倫理規定としてまとめられることになります。
これが国家への忠誠と軍務への専念、そして政治的決定への不介入という軍事的プロフェッショナリズムの中核です。

ハンチントンはこうした将校団の軍事的プロフェッショナリズムこそが軍隊の精強さの礎であると論じています。

一つ興味深いのは、ここで述べられている軍事的プロフェッショナリズムは軍国主義と対立する信念体系であるということです。
軍事的プロフェッショナリズムの目標とは戦闘に勝利することであって、その方法は科学的観点から軍務を研究することにあります。その意見や態度の表明は専門家としての領分に限定されているのです。

これは軍隊、戦争、武器それ自体に価値を見出し、その価値観を社会に拡散させる軍国主義の思想と全く異質です。
というのも、軍国主義の意見や態度の表明は専門家の領分に限定されておらず、そもそも軍国主義者はその専門領域の境界がどこにあるかを理解していないからです。

こうした議論は兵役制度の議論とも密接に関係してくるものです。
軍隊を真に精強にするのは軍務に適した人材であって、軍務に適しない人材は部隊の重荷となります。軍事的プロフェッショナリズムは誰もが身に着けることができるものではありません。

軍事的専門教育を通じて専門家になりうる人材が軍隊、特に将校団に必要です。
志願制と徴兵制のどちらがより良い人材の確保に繋がるかという問題は、こうした観点からよく検討しなければなりません。

参考文献
Creveld, M. van. 1980. Fighting Power: German Military Performance, 1914-1945, Carlisle Barracks, PA: U.S. Army War College.
Huntington, S. P. 1957. The Soldier and the State: The Theory and Politics of Civil-Military Relations, Cambridge, MA: Harvard University Press.(市川良一訳『軍人と国家』原書房、2008年)

0 件のコメント:

コメントを投稿