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2014年8月1日金曜日

戦力比から見える戦術の法則


士官候補生が学校で学ぶ戦術は、いわば受験用の初等戦術とも言えるものです。
一定の制約の中で与えられた状況や任務に応じて、その部隊の戦技を一定の要領に当てはめることによって、作戦を指導する技術を養うための戦術と言えます。

しかし、こうした技術的側面だけでなく、戦術にも科学的側面があるということを今回は紹介したいと思います。

そのための着眼点として紹介したいのが戦力比(Force Ratio)という視点です。

戦力比は戦闘における彼我の部隊の相対的な規模を比率として表したものです。攻撃者の部隊規模/防御者の部隊規模で表すことが一般的ですが、単純に味方/敵の部隊規模で表す場合もあります。

例えば5000名の攻撃部隊が1000名の防御部隊と戦闘になった場合の戦力比は5:1と計算できます。これが戦術を科学的に研究する上で出発点となる資料となります。
というのも、戦力比の情報があれば、戦闘の結果を説明したり、確率的に予測することに利用できるためです。

従来の研究によれば、戦力比が戦闘の勝敗と密接な関係がある要因であることが知られています。
冷戦期の米陸軍の研究なので、少し古い分析になるのですが、1600年から現代の1988年までに発生した戦闘から、571の標本を抽出して計量分析したところ、次のような分析結果が得られました。


この分析結果の見方としては、一番左端の数値は攻撃者/防御者の戦力比を表したものです。
次の標本数は分析した571の戦闘のサンプルの数のことです。そして攻撃の成功率というのは、この戦闘で攻撃者が勝利したか敗北したかという確率のことです。

ちなみに、勝敗に関してはこの研究では損害交換比という基準を使って判断しています。要するに攻撃者が防御者により多くの損害を与えたかどうかで区別していると考えて下さい。

(4.4から3.5の比率で優勢であるにもかかわらず攻撃の成功率が低い標本群がありますが、これは他の標本群に比べて標本数が少ないことによるものと思われます)

総合的に分析結果を見れば、攻撃者の戦力が優勢であるほど攻撃の成功率は高くなる傾向が読み取れると思います。

攻撃者の戦力比がやや劣勢な場合であっても、攻撃が52%の確率で成功していることを意外と思われる読者もいらっしゃるかもしれませんが、これは勝敗の判断が損害の度合いに依存して決定することと関係しています。

通説では攻撃者は防御者の三倍の勢力が必要とされていますが、0.75:1から1.24:1の戦力比でも攻撃の成功率は59%であり、実際にこの程度の戦力比で攻撃を実施する場合が多い点も指摘できます。

この分析結果で私が興味深いと思ったのは、攻撃部隊の規模と攻撃の成功率の間に収穫逓減の関係が見られる点です。

攻撃部隊の規模が防御者の部隊の規模よりも大きくなるほど攻撃の成功率が向上することは直感的に理解できるものですが、見てみると、攻撃の成功率の増加率は戦力比の増加率に比べて緩やかになっています。

戦力比15:1から4.5:1の戦闘を見てみると、攻撃の成功率は78%とありますが、三倍以上の勢力を投入しているにもかかわらず、攻撃が確実に成功するというわけではなく、防御者によって撃退される可能性が残っているということを意味します。

つまり、攻撃部隊が多くの兵士を集めれば集めるほど攻撃が成功しやすくなる因果関係は確かなのですが、一定以上になると攻撃部隊を増員しても攻撃の成功率の増加率にそれほど寄与しなくなるのです。

なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。
先行研究ではこの問題についてはっきりとした判断は述べていません。
私の考えを参考までに述べると、戦闘正面に対する部隊の密度が過剰になると、効率的な部隊の運動に支障が出るためだという仮説が考えられます。

あまり知られていませんが、リデル・ハートは作戦地域に対する部隊密度の問題の重要性を指摘した数少ない研究者です。
リデル・ハートは戦術における収穫逓減の法則については論じていませんが、一定の面積に対して一定規模の部隊が必要であるという議論を立てていました。こうした観点から戦力比と戦闘結果の関係に関する議論をさらに深めることができます。

最後になりましたが、こうした戦術学の研究は非常に重要であることを強調したいと思います。
安全保障学の研究者は一般に戦略の問題に注目し、戦術や兵站といった領域を無視する傾向がありますが、それは間違ったことです。

戦術上の研究は健全な国家安全保障戦略を基礎づける意義があり、例えば防衛計画の立案で所要戦力を見積る場合の重要な根拠となります。
安全保障学の研究において戦術の視座を持つことは、戦略に関する研究を深めることにも貢献すると私は考えています。

KT

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参考文献
Dupuy, T. N., et al. 1988. The Land Warfare Data Base, Fairfax, VA: Data Memory System Inc.
McQuire, R. 1988. Historical Data on Combat for Wargame, Bethesda, MD: U.S. Army Concept Analysis Agency.
Liddell Hart, B. 1960. ''The Ratio of Troops to Space,'' Military Review, 40(1): 3-11.

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