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2014年7月16日水曜日

心理作戦による安全保障


私たちは日常的に膨大な数の宣伝(Propaganda)に囲まれて生活していると言えます。

米軍の定義によれば、特に宣伝は「提供者の利益に直接的、間接的に利益となるように、あらゆる集団の意見、感情、態度、ないし行動に影響を及ぼすように設定された対抗的なコミュニケーションのあらゆる形態」を意味します(JP 3-13.2)。

いわば宣伝という心理作戦は一種の広告業の仕事に近いものがあるのですが、例えば学校、新聞、博物館、ラジオ、テレビ、雑誌、書籍、インターネットなど、こうした媒体を有機的に連携させ、対象者の文化的、心理的、社会的条件の特性を考慮した上で、メッセージや情報を印象的に編集して伝達させる作戦のことです。

安全保障学の研究領域で心理作戦は重要なテーマとして研究されてきましたが、例えば政治学者のホルスティは心理作戦に関する分析で次のように述べています。
「宣伝者はただ情報を与えることによって群集を刺激し、暴力的行為を取らせることも可能であり、軍事力の示威によって恐怖を生み出すことができるし、残虐行為を示す写真によって過激な反応と憎悪を生み出すこともできる。恐らく対外宣伝の最も効果的な技術はメッセージの内容を政府の実際の政策や行為に合わせることであるだろう」
ホルスティはさらに心理作戦が国際関係に影響した事例として1940年にドイツとポーランドの間の報道協定の成立を挙げており、この時にドイツとポーランドの間で加熱していた相手国民に配慮した報道を行うことによって外交的な解決を図っています。

こうした心理作戦は国際関係における軍事力や経済力のようなハード・パワーを補完するソフト・パワーの役割があるとも言えます。
こうした心理作戦を積極的に推進する国家の一つに中国があります。

最近の中国の情報戦略に関する研究で報告されているのは、中国が台湾のマスメディアに重大な影響力を行使していることです。

現在の中国が情報戦略として使用している媒体は下記の通り非常に幅が広く考えられています。

具体的には新聞、ラジオ局、テレビ局、出版局、雑誌、その他のニュースとメディア団体、大学、中学校、小学校、その他の職業教育、専門教育、幹部教育、その他の教育団体、楽団、映画作成スタジオ、映画館、演劇館、クラブ、その他の文化団体、文学と芸術団体、文化的アミューズメント・パーク、文化的な施設、図書館、記念館、博覧会館、博物館、その他の文化施設や記念展覧施設が情報戦略の手段として考えられています(Shambaugh 2007: 27-28)。

これだけでも一般に日本で考えているもの以上のものが中国の情報戦略で位置づけられており、また中国が情報戦略を非常に重視していることが分かるのではないでしょうか。

そうした中国の情報戦略で特に台湾のマスメディアは重要な目標と位置付けています。
台湾のメディアの経済的統制、メディアの所有者に対する個人的な圧力、広告代理店への影響という三つが台湾戦略の柱となっています(Chien-Jung 2014)。

こうした情報戦略を通じて中国は台湾の世論を親中路線に誘導しようと企図しているのですが、心理作戦もまたそれだけで効果を発揮するものではありません。
ホルスティが述べているように、情報戦略で最も重要な原則の一つは宣伝と事実の間に整合性を持たせることにあります。

結論として、宣伝のような心理的手段を駆使した安全保障の様相を理解することは重要であり、またそれは他の戦略的手段と有機的連携を持つ時に最も効果を発揮するということです。

現代日本の情報戦略を考えた場合、こうした戦略領域を研究する取り組みはまだ発展途上の段階にあり、多くの調査がなされるべきだと私は考えています。

KT

参考文献
  • Chien-Jung, H. 2014. ''China's Influence on Taiwan's Media,'' Asian Survey, 54(3): 515-539.
  • Shambaugh, D. 2007. ''China's Propaganda System: Institutions, Processes and Efficacy,'' The China Journal, 57: 25-58.

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