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2014年7月18日金曜日

国際政治におけるバランシングとスイスの防衛力


国際関係にはいくつかの代表的な戦略がありますが、その一つにバランス(balance)と呼ばれるものがあります。

バランスとは、大国が潜在的な侵略者の脅威を防止することを企図した戦略で、その基本的な目標は相手国を抑止することにあります。

バランスを成功させるためには、第一に外交的手段を通じて侵略者に対して防衛者の意思を伝達することが必要であり、特に武力を用いて抵抗する準備を整えていることを相手にはっきりと理解させなければなりません。

(なお、バランスでもこの種の外交的措置だけで済ませる均衡はソフト・バランシング(Soft Balancing)と呼ぶことで、同盟の締結や軍備の増強を伴うハード・バランシング(Hard Balancing)と区別する場合もあります)

第二に、侵略者に対する防衛者の勢力を統一して運用するために、軍事同盟を通じて連合作戦を準備することも均衡を成功させる条件の一つです。
この処置は特に外的バランシング(External Balancing)とも呼ばれます。

第三に、侵略者に対して自国が対処する能力を向上させるため、余剰の資源を動員する処置も均衡の一種と言えます。これは特に内的バランシング(Internal Balancing)と呼ばれます。

脅威を受けた国家が均衡を行う場合、以上の三つの手段を組み合わせて行いますが、特に重要となるのが、第三の対内的均衡です。

したがって、中小国であっても一定程度の軍備を保有する理由は、武力紛争で敵を打ち負かすことにあるとは限りません。むしろ、武力衝突を未然に回避するための手段ということが言えます。

事例として、第二次世界大戦におけるスイスの事例を考えてみたいと思います。
グラールス近郊で行進訓練を行うスイス軍の兵士。
スイスは徴兵制を採用して大規模な常備軍を置いていない。
第二次世界大戦においてスイスはドイツとイタリアの脅威を受ける危険な国際情勢に置かれていました。
実際、ドイツ軍の参謀本部では、スイス攻略作戦の研究を進められており、1940年にはタンネンバウム作戦と呼ばれるスイス侵攻計画が立案されていました(Leitz 2001)。

当時、スイスの首相だったエドモンド・シュルテース(Edmund Schulthess)が率いる政権は、ドイツ軍の侵攻に備えるため、軍事支出を増加させて内的バランシングに乗り出します。
この時のスイスの国家戦略は、永世中立という政策に基づくバランスでした。

スイス軍の作戦計画では、北部と南部にそれぞれ建設されていた要塞を中心に防衛線を設定し、イタリア方面とドイツ、フランス方面からの侵攻に備えることができると判断されました。

当初、ドイツ軍の作戦計画ではおよそ20個師団がスイス方面に投入される予定だったようですが、他の地域に部隊が回されたために、10個師団に部隊が縮小されていたことが幸いしました。

また、ドイツの同盟国だったイタリア軍が、スイス侵攻におよそ15個師団を投入する能力がありましたので、したがって、敵の勢力が合計で25個師団と想定する必要がありました。

以上の状況見積を踏まえると、防御に徹するとしてもスイス軍は予備も含めて最低16個か17個師団は必要と見積ることができます。(防御の優位が1.5倍程度という前提に立った場合)

当時のスイス軍はそれをさらに上回る43万名の部隊を動員することが可能でしたので、1万5000名の兵士で1個師団を編成するとしても、28個師団を編成することが可能でした。
つまり、敵の能力に相応した部隊でもって脅威に対処することが可能であったことを意味しています。

ドイツ軍の立場から考えれば、スイス攻略によって予想される損害は、そこから期待される利益を大きく上回るものであると考えられました。
山岳地形を利用した要塞に立てこもる部隊を攻撃すれば、必然的に長期の持久戦になる危険もあり、タンネンバウム作戦は実施されませんでした。

第二次世界大戦におけるスイスの事例は、国際関係におけるバランスという戦略の特徴をよく著しています
公平に見れば、スイスはドイツより軍事力で勝っていたということは決してありません。
それにもかかわらず、スイスは一貫して国家を防衛するという姿勢を相手に示すことで、ドイツの侵攻を抑止し、国家の独立を保つことに成功したのです。

KT

参考文献
Codevilla, A. 2000. Between the Alps and a Hard Place: Switzerland in World War II and Moral Blackmail Today, Washington, DC: Regnery.Halbrook, S. P. 2006. The Swiss and the Nazis: How the Alpine Republic Survived in the Shadow of the Third Reich, Philadelphia: Casemate.Leitz, M. 2001. Nazi Germany and Neutral Europe During the Second World War, Manchester: Manchester University Press.

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