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2014年5月13日火曜日

政治学のパラダイムを変えたシステム分析

デイヴィッド・イーストン、カナダ人の政治学者。
システム分析を政治学に導入した理論研究の業績で有名。
私の専攻は政治学なのですが、大学で後輩を指導していても、「そもそも政治ってなんなの」と言われることが少なくありません。恐らく、巷で流布する「政治学」が学問的な意味での政治学を分かりにくくしているのだと思います。

今回はそうしたイメージを払拭すべく、現代政治理論の最も基本的なモデルを定義したイーストンの著作『政治体系』から、その要点を紹介したいと思います。

1.政治学は政治それ自体ではなく政治の原因と結果を研究する

純粋に学問的な見地から見て、政治というのは集団生活を維持する一つの方法にすぎません。
大学で最低限の訓練を受ければ、政治学が特定の政策や政治家の価値判断をする学問ではないことはすぐに分かります。

なぜなら、政治学は政治が作動した結果として社会にどのような影響が出るのか、という政治の結果か、もしくは、ある社会状態が政治にどのような影響を及ぼしたのか、という政治の原因について研究する学問だからです。

この論点についてイーストンの研究が重要な理由は、従来まで明確ではなかった政治学の基本的モデルを明確に定義されたシステム分析に置き換えて、その後の政治の科学的研究を促したことです。

2.政治学へのシステム分析の導入

システム分析というのは、第二次世界大戦のさなかアメリカで編み出された研究で、ある問題解決に当たって「関連した諸目標とそれらを達成するためのいろいろな政策や戦略を組織的に検討、再検討する」分析と定義されています。

要するにある問題を解決する方法がいくつかある場合に、いずれが最適かを特定する研究の手法ということです(Fisher 1971: 7)。

イーストンは政治学を科学的方法で研究するために、システム分析の考え方を初めて本格的に政治学に取り入れて、政治それ自体を一つのシステムと定義できると論じました。

イーストンは少数の人間で組織された集団では各人が勝手に行う取引で適切に価値を配分できたるが、「社会の規模と複雑さが増大するほど個人的交渉の範囲は狭くなってゆく」ということが、そもそもの政治の成り立ちであると論じます。

こうした問題を解決するためには、いわば社会のニーズに応じた「価値の権威的な配分」を拘束的なやり方で実施しなければなりません。社会の法に従って治安を維持し、第三者を置いて紛争を調停しし、資金を持ち寄って共同施設や行事を行わなければならない場合がそれです。

イーストンはこれが政治の本質なのだと定義し、普通の労働から離れ、こうした政治の仕事にだけ専念する人々が政治の専門家になり、システムが形成されていくのだと整理します。

3.システムとしての政治

イーストンはシステムとして政治をモデル化し、社会と政治の関係を次のように概観しました。

1.政治システムは社会という外部環境に対して自律的なシステムとして存在している。
2.社会は配分された価値に対して政治システムに対して要求や支持という入力を行う。
3.政治システムは入力を踏まえて決定や行動(価値の権威的な配分)という出力を行う。
4.出力を受けて社会は入力を政治システムに還す。

これを図示したのが下の図表であり、いわば社会の状態を一定に保つ管理システムとして定義されていることが分かります。

真ん中の四角が「政治システム」で、外側が「環境」
右側が出力(決定と行動)、左側が入力(要求と支持)
政治システムの出力は環境(社会)に影響を及ぼし、
再び環境を通じてシステムへの入力が決定される

これが政治システムの考え方で、政治は社会の要求や支持を受けて公共政策を行う機関であるという考え方が明確に示されています。

結びにかえて

現代の政治理論は、それより以前の印象論的な研究から比べれば、イーストンの業績で大きく様変わりしたと言えます。要するに現代の政治理論にとって重要な関心となっているのは出力と入力を対応させるメカニズムなのです。

選挙、世論調査、暴動、ストライキ、テロ活動、民衆扇動などはいずれも政治システムへの入力であり、議会の立法、裁判所の判決、予算配分、政府の行政活動、公共事業、対外政策などは政治システムの出力です。

社会の要求を分析して政策を立案するまでが政治システムの機能であり、要求を満たすことができなければ政権交代、体制変動、政治変動などを通じて要求に応答するように再編されます。

最後に理論の世界から現実の世界に立ち返った時、イーストンの考え方と普段の政治についての考え方には大きな断絶があるのではないかと思われるのではないでしょうか。

政治学者の立場から言わせれば、鉄道の運行状態監視システムで異常を察知するセンサ系が有権者の役割であり、それを問題処理する制御系が政治家の役割です。
そして、もしシステム障害が起きれば社会に何が起こるのか、有権者は誰もが知っておく必要があると私は考えています。

KT

参考文献
  • Fisher, G. H. 1971. Cost Considerations in Systems Analysis, New York: American Elsevier.(日本OR学会PPBS部会訳『システム分析における費用の扱い』東洋経済新報社、1974年)
  • Easton, D. 1953. The Political System: An Inquiry into the State of Political Science, New York: Knopf.(山川雄巳訳『政治体系』ぺりかん社、1976年)
  • Checkland, P. B. 1981. Systems Thinking, Systems Practice, New York: John Wiley & Sons.(高原康彦、中野文平監訳『新しいシステムアプローチ』オーム社、1985年)

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