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2014年4月7日月曜日

軍事力を測定する困難、戦力乗数



国際関係論、特に安全保障学の研究において勢力測定問題は最も基本的な問題であり、研究者の技量が問われる問題の一つでもあります。

というのも、特に現実主義の理論を用いる場合、対外政策を説明するために勢力均衡の概念を適用するので、勢力均衡を支える各国の勢力、つまり軍事力水準を判断する必要があるためです。

そもそも分析する対象の国家が他の国家に対してどの程度の実力があるかが判明できないと、その国家に対する基本的な戦略すら立案できません。

しかし、軍事力測定問題は専門的に分析すると非常に複雑な問題でもあり、その判断基準についてさまざまな考え方があります。今回はその議論の一部を簡単に紹介したいと思います。

最も簡単かつ標準的な方法として知られているのは軍事力の特性値を「人員」として定義してしまう方法です。
ナポレオンは「神は大きな大隊の側に立つ」という言葉を残していますが、これは「より大きな兵員を擁する大隊が戦闘では勝利する」という意味です。

現場の感覚から行っても「人員」=「軍事力」は直感的に理解しやすい因果関係ですし、現在の理論研究でも「その他の条件が等しければ」という前提があれば理論的にも正しいと考えられていますが、議論はここでは終わりません。

というのも、「人員」という定量的要因に加えて「武器」の問題があり、これが戦闘力を飛躍的に向上させてしまうためです。

さらに「作戦」の問題もあります。攻勢作戦と防勢作戦では彼我の損失が大きく異なることが実証研究から分かっています。

つまりある国家の軍事力の水準を判断しようとする場合、その国家がどのような作戦を遂行しようとしているかを見極めることが非常に重要ということです。
より具体的にこのことを説明するために、少し古い研究ですがアメリカ陸軍の研究機関による「戦力乗数」に関する研究を紹介したいと思います(McQuie 1993)。
「戦力乗数とは武器や部隊の規模以外の関連し合う特性の集合であり、戦闘において軍事組織を一層効果的にするものである。例えば、同じ種類の武器を装備した同じ規模の二個の部隊は多かれ少なかれ拮抗することになるだろう。しかし、そのうちの一つの部隊に優越した戦力を発揮させる戦力乗数があれば、そのようにはならないだろう」(McQuie 1993: 975) 
「公式に認められた戦力乗数の一覧というものは存在しないが、軍事に携わる研究者はしばしば次のような変数を参照する。(1)航空優勢、(2)通信、(3)配置、(4)統率、(5)情報、(6)兵站、(7)運動、(8)士気、(9)奇襲、(10)訓練」(同上)
軍事力の測定のために参照しなければならない要因の相当の部分が運用に関係していることが指摘されています。

戦力乗数において優れていれば、「大きな大隊」と同一の効果を「小さな大隊」でも発揮できるということです。
これは国際関係論において軍隊の規模が小さいからといって発揮できる軍事上の能力が小さいと判断できないことを含意していますし、逆もまた然りです。

ただし、注意しなければならないのは少数の兵員で編成した軍隊は多数の兵員で編成した軍隊よりも、短期的には効率が高いとしても、長期持久の戦争において脆弱になりがちだということです。

やはり、最後の局面においては「神はより大きな大隊の側につく」という言葉はある意味での真実だということは認めなければなりません。

参考文献
McQuie, R. 1993. ''Force Multiplier,'' in Dupuy, T. N., ed. International Military and Defense Encyclopedia, New York: Brassey's, 975-976.

KT

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