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2014年3月9日日曜日

モーゲンソーの勢力均衡理論


今回はモーゲンソーの著作を取り上げて、その中で議論されている勢力均衡理論を紹介します。

文献情報
Morgenthau, H. J. 2005(1948). Politics among Nations: the Struggle for Power and Peace, 7th edition. New York: McGraw-Hill Humanities.(原彬久監訳『国際政治』全3巻、岩波書店、2013年)

目次構成
1.国際政治の理論と実践
2.権力闘争としての国際政治
3.国力
4.国家権力の制限:勢力均衡
5.国家権力の制限:国際道義と世界世論
6.国家権力の制限:国際法
7.現代世界の国際政治
8.平和の問題:制限による平和
9.平和の問題:変革による平和
10.平和の問題:調整による平和

モーゲンソーの勢力均衡理論の特徴は、権力闘争を前提とした国際関係論を構築し、各国の行動を権力追求のための合理的行動として説明するところにあります。
「権力を求めようとする国家はそれぞれ現状を維持あるいは打破しようとするが、その熱望は勢力均衡と呼ばれる形態とその形態の保持を目指す政策とを必然的に生じさせるものである」
国家の対外的な行動は現状の国際関係の秩序を打破するか維持するかの二通りに大別することができると考えられています。
国際関係には軍事的、外交的、経済的、文化的側面などがありますが、その詳細を単純化し、現状維持と現状打破の相互作用として整理することで、分析することを容易にするのです。

この相互作用を基礎づけているものが「国力」です。モーゲンソーが国力に含ませている要素はいずれも国家の戦争遂行能力に寄与するものとなっています。
具体的には、地理、天然資源、工業力、軍備、人口、国民性、国民士気、外交の性格、政府の性格、以上の九点から国力は判断できると考えられています。

その中でもモーゲンソーは特に軍事力の重要性について次のように強調しています。
「地理、天然資源、工業力などの諸要因が国家の力にとって実際上の重要性を持っているのは、これらの要因が軍備に関係があるからである。国力が軍備に依存していることはあまりにも明白であるので詳細に論じる必要はないだろう。軍備は追求される外交政策を支援可能な軍事組織を必要とする外交政策を支援するような能力は多くの要因から生じるが、我々の議論の観点からすれば、最も重要な要因は技術革新、リーダーシップ、そして軍隊の質と量である」
このような国力を駆使することで国家は他の国家に対して現状打破を仕掛け、それを受けた国家は現状維持を行うことで、相互作用が生じます。そして、この相互作用が国際政治の動向を決定、と考えるのが勢力均衡理論の最も重要な部分です。

さらに議論を進めて現状維持と現状打破の相互作用にどのようなパターンがあるかを見てみると、モーゲンソーは次のように説明しています。
「国際社会の基礎には二つの要因がある。一つは多様性であり、もう一つはそれら要素である諸国家の対立である。権力を求める諸国家の欲望は二つの方法で紛争を引き起こす」 
「(第一に)国家Aが国家Bに対して帝国主義的な政策を取り始めると、その政策に対抗して国家Bは勢力均衡の方法として現状維持あるいは自ら帝国主義的政策を採用することがある」 
「(第二に)国家Aが国家Bの反対に遭いながら、国家Cを支配するために必要な勢力は、それが国家Bの勢力によって圧倒されない限り国家Bと均衡している。それとは反対に、国家Aの反対に遭いながら国家Cを支配しようとする国家Bの勢力は、国家Aの勢力によって圧倒されない限りにおいて、国家Aと均衡しているのである」
第一の説明は直観的に分かりやすいと思われます。帝国主義的な政策というのは現状打破の意味ですので、これは現状打破を受けた国家が現状維持によって抵抗するパターンです。

第二の説明にはさらに解説が必要です。
このパターンがやや分かりにくい理由は、勢力均衡の主体が国家A、国家B、国家Cの三者間関係になっているためです。

ABという大国の間の勢力均衡の中間にCという小国が存在しており、AがCを支配するための現状打破を行ったところ、Cを支配することを拒否したいBがAに対して現状維持を行うパターンです。

このモーゲンソーの議論は近代史における朝鮮、ロシア、日本の関係に応用することができます。

当時、清国を中心とする冊封体制の中で従属国だった大韓帝国が日清戦争によって独立を果たすと、ロシアと日本の間で朝鮮を巡る勢力争いが起こりました。
先ほど述べたA国とB国がC国を自らの陣営に組み入れようと競合するパターンです。


当時の陸上勢力を大まかに見てみると、ロシア軍は歩兵66万、騎兵13万、砲兵16万、工兵・後方支援4万4000、予備400万に対して、日本軍は歩兵13万、騎兵1万、砲兵1万5千、工兵・後方支援1万5000、予備46万に過ぎませんでした。

ちなみにモーゲンソーはこの時期の朝鮮情勢を次のように要約しています。
「(日清戦争に)次いで日本は朝鮮支配についてロシアからの挑戦を受け、1896年からはロシアの影響力のほうが優勢となった。朝鮮への支配を巡る日本とロシアの敵対関係は1904年から1905年の日露戦争でのロシアの敗北によって終結したのである」
モーゲンソーの議論を踏まえて言うと、日露戦争というのは清国に対する現状打破を行って獲得した朝鮮の独立に対して、ロシアが現状打破を仕掛けてきたことに由来するということになります。
このロシアの現状打破に対する日本の現状維持のために日露戦争は戦われたというのが勢力均衡理論の説明になります。

モーゲンソーの勢力均衡理論が教えてくれることは、国際関係を説明するためには、国家は権力闘争を展開していることを前提とし、現状維持と現状打破の相互作用に注目することが重要であるということです。

モーゲンソーの勢力均衡理論では国家の対外的行動を現状維持と現状打破という単純な二分法で整理していましたが、最近では均衡(バランシング)、追従(バンドワゴニング)などの分析概念も用いられるようになり、精緻化されていると言えるでしょう。

KT

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