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2014年3月1日土曜日

選択と集中の駆け引きとしての突破


今回は攻勢作戦における古典的戦術の一つ、突破についてです。
前回、「包囲する者は包囲される」を投稿した際になぜか好評だったので、戦術学シリーズのような位置づけで記事をまた投稿します。

米陸軍の教範によれば、突破の定義は次の通りです。
「突破とは攻撃する部隊が敵の防御体系を崩壊させるために狭隘な正面で敵の防御施設を分断しようとする機動の一形態である」(米陸軍野戦教範3-0)

この定義で重要なのは、「狭隘な正面で敵の防御施設を分断」という箇所です。これが突破に固有の特徴であり、包囲、迂回、浸透、正面攻撃のような他の機動方式に見られない突破の本質的要素なのです。

上記で掲げた図上戦術で突破の特徴を具体的に解説します。
青軍は赤軍の突破防御陣地に対して突破を行っています。青軍で中央突破を行っている部隊には機甲偵察1個、機械化歩兵部隊1個、機甲部隊2個が含まれています。(その背後に予備として2個部隊が拘置されています)

さらに青軍の右翼突破を図る機械化歩兵部隊1個と左翼突破を図る機械化歩兵部隊1個がありますが、右翼は敵の陽動、左翼は敵の拘束が目標であり、主作戦はあくまでも中央突破にあると想定されています。
赤軍の状況として、左右両翼の攻撃のために中央突破を許す態勢となっており、また背後に拘置されている予備の位置が前線から遠すぎて即座に戦闘に加入することができません。
(ちなみに、左右両翼と中央の間に引かれている線は作戦地帯を区分するもので、実際の業務でも標準作業手続として地図上にこのような線を引くことで各部隊の作戦地帯を明確にします)


こちらの状況は青軍の突破による戦果を拡張している状況です。
突破は通常、このようにして(1)突破口の形成、(2)突破口の拡張という段階を踏んで実施されます。
青軍は中央突破で赤軍の防御陣地を分断して攻撃目標の一つStrifeを通過し、次に主力はさらに敵の背後にある攻撃目標Susanへ向けて前進を開始しています。また左右両翼でもそれぞれ青軍が主作戦と呼応して攻撃を本格化させ、攻撃目標TreyとSlickへ前進しています。

ここで注目して頂きたいのは、突破口に沿って青軍の主力とそれに続行する予備が障害地帯を構成しているところです。(緑色が障害を意味します)
青軍は突破によって敵の背後に前進していますが、そのことで我の側面を敵に暴露しています。そこで赤軍の逆襲を予期して突破口と主力の右側面に対して障害を構成しているのです。
しかし、この態勢であれば赤軍が逆襲を行うことは難しく、退却を余儀なくされるでしょう。

これで突破に関する戦術の基礎は説明できました。
最後に包囲と突破の関係について一言だけ注意点を述べておきます。
包囲は側面が脆弱な敵に対して有効な戦術ですが、突破は正面が脆弱な敵に対して有効な戦術という特徴があります。

包囲についての説明で述べましたが、中央は防御部隊が戦闘力が最も効率的に発揮できる場所であり、攻撃に適した方面というわけではありません。
したがって、ある一地点において攻撃部隊の戦闘力が防御部隊の戦闘力を一時的にせよ圧倒的に上回ることが突破の成功条件です。
だからこそ、図上の青軍は左右両翼で陽動や拘束といった支作戦を行い、中央突破を容易にしようとしているわけです。

突撃が失敗してしまうと壊滅的な被害を部隊にもたらす危険があります。だからといって突破しやすい地点を攻撃目標に選んでしまうことはできません。防御する敵もまた突破される危険を見積もって、突破されやすい地点には重点的に予備を置くこともできるためです。

こうした便益と危険を総合的に判断することが要求される突破は、最高度の選択と集中が要求される戦術です。
だからこそ、巧みな突破を仕掛ける能力がある戦術家は、攻撃というものの戦理を最もよく理解しているとも言えると私は思います。

KT

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