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2014年3月11日火曜日

消耗戦略はいかにして殲滅戦略と渡り合うのか


現在、世界各地でアメリカ軍の縮小が進められています。このことは国際情勢を大きく変える可能性があります。
すでにイラクからは部隊の撤退を終えましたが、アフガニスタン、ドイツ、日本、韓国でもアメリカ軍は戦力見積りを進め、2020年までを目標に現状の軍事力の40パーセント近くの予算を削減する方針です。
なぜ、世界最大の軍事力を誇っていたアメリカがこれだけの軍縮を余儀なくされることになったのでしょうか。

ここで軍事力を支えている兵站と軍事力を用いる戦略との関係を説明する消耗戦略について考えなければなりません。少し長い引用ですが、ハンス・デルブリュックの言葉です。

「あらゆる戦略の第一原理とは兵力の集中であり、敵の主力を発見してそれを打破し、敗者が勝者の意思に従ってその条件を受け入れるまで勝利を追及することにある。それは最も極端な場合には敵国の全領土の占領を意味するものとなる。この種類の作戦は十分な優勢を前提としている。その優勢とは最初に大勝利を得るには十分であるが、敵国の全領土を占領するには十分ではないか、あるいはは敵国の首都を包囲する程度の優勢という場合もありうる」

「また敵対する戦力が均衡するために、序盤から適当な成果しか想定されないという事もあり得るだろう。そして敵の完全な打倒を期待するよりも、あらゆる種類の打撃と損害、破壊によって最終的に勝者の条件を受諾させる程度に敵を摩耗させ、消耗させる事を目的とすることも可能である。これが消耗戦略の体系であり、その最大の問題は戦術的な決断、すなわち危険と損失を伴う戦闘を求めるべきか否か、あるいは勝利による利益が損失を超える者なのか否かと言う点に存在する」

殲滅戦略と消耗戦略の原理をはっきり区別したことはデルブリュックの大きな功績でした。
後にワイリーはこの区別を順次戦略と累積戦略として再定義していますが、すでにその戦略概念の原型はデルブリュックによって完成されています。

ここで議論されていることを要約するならば、戦争において軍事力を破壊する原理とは殲滅と消耗であり、その他の条件が等しければ、戦略家はどちらの原理を用いてでも戦争で勝利を獲得することができるということです。

殲滅を目的とした作戦に対して消耗を目的とした作戦は敵との決戦を決して求めず、長い時間をかけて摩耗させ、最終的に敵が将来において期待される利益よりも損失のほうを増大させ続けるのです。
そして、こうした方法でも敵の戦意を挫くことが可能であるというのがデルブリュックの考えなのです。

これは殲滅戦略に偏りがちな戦略思想に対する批判として今でも重要な指摘です。
消耗戦略を取る軍隊が殲滅戦略を取る軍隊と渡り合う典型的な事例がベトナム戦争でした。

ベトナム戦争において一般にアメリカはベトナムに敗北したと言われますが、これは正確な表現ではありません。より正確に言えば北ベトナム軍はアメリカ軍等に敗北してもなお、アメリカ軍が撤退するまで戦争を続けたというほうが正確なのです。

戦後の統計調査によれば、アメリカ軍の戦闘損耗は205023名、南ベトナム軍は800000名、その他の西側諸国17213名で概算すると100万強ですが、北ベトナム軍の戦闘損耗は推定250万名です。損害交換比で見た場合、ベトナム戦争で着実に軍事的勝利を重ねていたのはアメリカ、南ベトナムであって、北ベトナムではなかったのです。

決定的な要因となったのは兵站でした。アメリカは高度に組織され、装備の行き届いた戦闘効率の高い部隊を前線に維持するために多額の財政支出を必要としていましたが、戦争が進むにつれて必要な兵站支援は雪玉式に拡大し、最終的にベトナムを手に入れることで期待される利益を損失が大きく上回ることになっていったのです。

1960年に比較すれば1965年にアメリカ軍の陸上戦力は14個師団から16個師団に増設され、陸軍航空隊は5564機から7142機に海上戦力は812隻から936隻に増加しています。現役兵士も35万2000名から36万9000名に増員しました。1960年代から立法化された福祉支出の膨張による財政圧力や徴兵制の廃止による軍人給与、調達費の単価の上昇もアメリカの財政に大きな負担となったのです。

まとめますと、軍隊を破壊するために戦闘での勝利は必ずしも戦略的には必要ないというのがデルブリュックの見方です。消耗戦略という戦略概念を理解することで、私たちは軍隊を維持している莫大な財政支出、巨大な兵站支援、国民の経済活動、これらと戦争の戦略的な繋がりを見ることができるのです。

KT

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