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2014年2月28日金曜日

戦略家は戦略正面を知る


今回は戦略学の最も初歩で学ぶ概念のひとつ戦略正面について説明します。

戦略学は一般に戦域における部隊の運用に関する法則を解明するための研究を言います。

ある政策上の目標を達成するため、戦域上の諸地点に野戦軍、戦闘艦隊、航空団という戦略単位を配置、移動、交戦させる技術だと考えることができます。

戦略家の基本的な情勢判断の流れは次のようなものです。

1.戦略要点の判断
まず地域研究として戦域において自国、想定敵国、中立諸国が領有する戦略要点(Strategic Point)を判断します。
戦略要点の基準については諸説あるのですが、その重要性については人的資源や石油資源、工業資材の分布などから総合的に判断します。

2.戦略要点の判断
これら戦略要点(Strategic Line)を接続する幹線道路、鉄道、航路、空路が戦略要線を構成します。
この際に戦略要線の障害となる地形地物などを判断しておきます。

ちなみに、戦略要線は決して戦術上の機動軸と混合してはいけません。
戦略要線を逸脱して戦術単位が作戦行動を行うことは通常のことだからです。あくまでも、ここでは地域単位の研究を行っているということに注意が必要です。

3.戦略陣地、戦略正面の判断
戦域の中で戦略要線で接続された戦略要点でも特に想定する敵国の戦略要点と隣接、近接する重要な戦略要点は特に戦略陣地(Strategic Position)と言います。
それら戦略陣地が集まった一定の幅のある地域を戦略正面(Strategic Front)と言います。戦略正面はいわばその国家の安全保障に直接影響を及ぼす地域であり、軍隊が展開させる予定戦場ということになります。

以上が戦略情勢の判断に関する基本的な手順です。
この戦略判断の適否が戦略正面の選択の適否に大きく依存していることが分かります。
戦略要点や戦略要線は純粋に地理的要因にかかっていますが、戦略正面の判断は政治的要因にかかってくるためです。

次に歴史的事例で説明したいと思います。

これはノルマンディー上陸作戦が開始された1944年6月6日から8日の北フランスの戦略情勢を判断するために作成された地図です。連合国側の勢力が記入されていないので、ドイツの勢力しか地図には記入されていませんが、当時ノルマンディー地方への攻撃に対してドイツ軍が急遽、その戦略正面を大幅に転換している様子が分かります。


特に注目して頂きたいのはフランスの最西端に配置されていた師団4個と南フランス方面からも1個の師団が抽出されている点です。

これは長大な戦略正面に対応するだけの防衛部隊(地図上では後方に2個の機甲師団が配置されていますが)をドイツ軍が十分に確保できていないことを意味しています。

本題からやや脱線してしまいますが、連合国はドイツに対するさまざまな情報作戦によって上陸予定地点を攪乱し、非常に長大な戦略正面に部隊を配置させ、イギリス海峡に面する戦略正面の勢力を最小限にさせていたことを指摘しておきます。

以上から戦略正面の適切な選択が戦略の成否を規定する基本的な要因であるということがお分かり頂けたのではないでしょうか。

最後に日本の事例に言及すると、ロシア、朝鮮、中国に対して極めて長大かつ縦深が乏しいのが日本の地政学的な特徴であり、戦略を考える上での制約条件となります。
自衛隊が推進する統合機動防衛力の構想が目指しているのは、こうした日本の地域特性に対する一つの答えかもしれません。

しかし、あらゆる戦略正面に備えることは戦略として決して適切ではありません。戦略正面が特定の地域に限定されなければ、勢力の集中は実現が困難になってしまうためです。

このようにして、戦略の研究は国際政治の研究に帰着することになります。

KT

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