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2014年2月16日日曜日

クラウゼヴィッツの防勢優位仮説はどれだけ正しいのか


現在の日本の防衛力整備は専守防衛という防勢的な戦略に基づいています。

したがって、日本は防勢の長短というものを安全保障学の観点からよく研究する必要があります。
軍事的観点から見た場合、攻勢と防勢という方針の決定的な違いは戦闘結果です。

防勢は攻勢よりも少ない損害で大きな戦果を可能にすると一般に考えられています。これを専門用語で防勢優位仮説と言い、国際関係論の理論である防御的現実主義を基礎づける命題です。

このような防御的現実主義の仮説を最初に提唱した理論家はクラウゼヴィッツであり、クラウゼヴィッツは防御が攻撃に対して有利であることを次のように書き残しています。
「防御の目的とは何か。それは保持することにある。保持することは獲得することよりも容易である。そこで彼我の双方が用いる手段が同じであれば、防御は攻撃よりも容易である。 
しかし、保持あるいは維持が獲得より容易なのはいかなる理由によるのか。それは攻撃者が利用せずに過ごす時間は全て防御者に有利なためによる。防御者は、いわば種を播かずに収穫するのである。攻撃者の誤った見解、恐怖の感情、怠慢などに起因する攻撃の中止は全て防御者の利益となるのである。 
この有利は七年戦争においてプロイセンの国家を一度ならず没落から救った。防御の概念と目的から生じるこうした利点は防御の本質にあり、その他の生活、特に戦争に類似する法律関係においては「所有するものは幸いである」というラテン語の格言によく表現されている。 
なお、戦争の本性に由来するもう一つの有利は地形による支援であり、こうした支援は特に防御に与えられるところのものである」クラウゼヴィッツ
この主張をさらに検討するために、ここでは第二次世界大戦におけるアメリカ陸軍の作戦を研究した資料を参照してみたいと思います。

ダニガンは大隊規模の作戦行動を攻勢作戦と防勢作戦に大別した上で統計的に資料を整理し、攻勢作戦をさらに遭遇戦、陣地への攻撃、要塞への攻撃、追撃、戦闘のない状態に分類して攻撃側の損害と防御側の損害の比率を調べています。(図表が判読しずらく申し訳ありません)

作戦   攻撃者 防御者 比率  
遭遇戦 7.5% 4.9% 1.5  
陣地攻撃・初日 11.5% 6.1% 1.9  
陣地攻撃・2日以後 6.1% 3.5% 1.7  
要塞攻撃・初日 18.7% 9.8% 1.9  
要塞攻撃・2日以後 9.8% 5.2% 1.9  
追撃・伏撃 4.3% 3.2% 1.3  
戦闘のない状態 2.6% 2.6% 1.0
(出典Dunnigan 1983: 495)

これを見ると攻撃者の損失(戦死者、負傷者)が陣地攻撃(初日)、要塞攻撃の場合は防御者の二倍近くとなっています。

つまり、これは防御者1名を排除するために攻撃者2名が戦死、負傷することを意味しています。興味深いのは一般に極めて有利な攻撃方式であると論じられる追撃や伏撃の場合ですら、攻撃者のほうが防御者よりも僅かながらより大きな損失を強いられている点です。

このデータは防勢が攻勢に対して有利な戦闘形式であると主張したクラウゼヴィッツの主張を支持しています。

ここまで議論を進めると、攻勢にほとんど利益がないようにも聞こえるかもしれません。

しかしながら、ここで重要なことは防勢という作戦行動が可能にする戦闘結果を通じて防勢を研究することであり、あらゆる状況において防勢を行うべきと主張しているわけではありません。

クラウゼヴィッツは戦場には二つの行動原理があると論じています。一つは敵の撃滅であり、もう一つは我の保存です。この二つの異なる原理を巧みに組み合わせてこそ、優れた作戦指導が可能となるというのが戦略学の常套句ですが、それが最も難しいことでもあります。

KT

戦術学における防勢作戦について
地域防御
機動防御
後退行動

引用文献
ダニガン、岡芳輝訳『新・戦争のテクノロジー』河出書房新社

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